5分でわかる!いまさら聞けない「年金制度」基本のキ

年金の仕組みと問題点の解説、そして海外の年金制度との比較を取り上げます。

この記事は2018年9月22日サライ.jp掲載記事「5分でわかる!いまさら聞けない「年金制度」基本のキ」より転載したものを元に加筆・修正したものです。

日本の社会保障制度の中核をなす「医療」と「年金」。医療費増加が社会問題になる一方で、年金に関しては、若年世代を中心に「公的年金未納・未加入」がクローズアップされています。さらに、少子高齢化による年金受給年齢の引き上げや財源確保が広く議論される世となっています。しかし、年金問題に積極的な議論が少なかったり一面的な意見が多いのは、年金のことを詳しく知る機会「年金教育」が乏しいから、という背景があると言われています(*1)。

そこで、年金・年金問題を考える基礎知識として、今回の記事では年金の仕組みと問題点の解説、そして海外の年金制度との比較を取り上げます。

■なぜ「年金」が必要なのか?

「年金」と聞くと「老後に受け取るもの」というイメージをお持ちの方も多いと思います。確かに「個人」にとって年金は保険料を一定期間支払ったのち受け取ることができるお金です。しかし、「日本全体」で考えると、意味合いが少し変わってきます。人口1億2000万人の集団内では、ある一定の割合で交通事故や病気で障害を持ったり死亡してしまう人が出てきてしまいます。

このようなことに陥る確率、つまり「リスク」は非常に小さいですが、このような方々を「不運」の一言で片付けてしまっていいのでしょうか?また、「長生き」も幸せな人生を送るにあたって「リスク」になります。自分が何歳まで生きられるのかは誰もわかりません。自分が死ぬまでの資産を計画的に築くことはほぼ不可能と言っていいでしょう。「このようなリスクを国民全体でシェアしよう」というのが、公的年金制度が存在する理由です。この制度がセーフティネットになっているおかげで、私たちは安心して生活を送ることができるのです。

■年金制度を理解しよう

日本の年金制度は「4階建構造」として成り立ちます。(*2)

・1階部分

この部分は「基礎年金」と呼ばれ、誰もが安心して老後の生活を送れるようにするためのものです。現役世代( 20 -59 歳)の国民全員が加入し、年金給付を支える仕組みとなっています。そのため、大学生など収入のない人でも20歳を超えると国民年金の保険料を納めなくてはいけません。個人型確定拠出年金『iDeCo』の申請などでもよく聞く「○号被保険者」には3種類あり、自営業者などの「第1号被保険者」、会社員・公務員などのサラリーマンを「第2号被保険者」、第2号被保険者の被扶養配偶者(妻など)を「第3号被保険者」といいます。このように分けられている理由は保険料負担額が大きく異なるためです。現行制度では「第1号被保険者」は毎月16,200円の定額負担、「第2号被保険者」は毎月お給料の18.3%の定率負担、「第3号被保険者」は第2号被保険者の保険料で賄われるため負担なし、といった仕組みになっています。

・2階部分

この部分は「厚生年金」や「共済年金」と呼ばれるもので、先ほどの「第2号被保険者」を対象としたものです。第2号被保険者は毎月の負担も大きいのですが、年金を受け取るさい基礎年金にプラスして厚生/共済年金受け取れるため受給額も多くなります。具体的な数字を示すと、第1,3号被保険者は毎月57,000円、第2号被保険者は平均月額154,000円受け取ることができます。

・3階部分

この部分は公的年金の上乗せ制度として存在する「企業年金」で、企業が従業員の福利厚生の一環として独自に実施する年金制度です。

・4階部分

この部分は個人が任意で加入する「個人年金」です。個人型確定拠出年金『iDeCo』などが該当します。

■年金制度を取り巻く問題について考えよう

様々な問題が存在しますが、第一に少子高齢化、そしてモラルハザードが大きな問題として存在します。

・少子高齢化

日本の公的年金制度は「賦課方式」と呼ばれる仕組みで動いています。これは、いま現役の人が払い込んだお金を、現在の年金受給者に支給する仕組みです。そのため、少子高齢化による人口構造の変化に伴い、この制度を維持できるだけの社会保障費の確保が難しくなっていきます。少子高齢化によって保険料負担の増加と年金給付の減少が年々続いています。さらに、年金受給年齢の引き上げや増税が今後懸念される事態となっています。すると、保険料の生涯負担と年金の生涯給付との比率に大きな違い、つまり「世代間格差」が生まれます。現在の世代間格差を金額に表すと約1億2000万円に上るとも言われます。(*3)

・モラルハザード

上述した通り、年金制度は私たちが安心して生活できるようにするための制度です。しかし優良すぎる制度は時に「モラルハザード」と呼ばれる弊害をもたらしてしまいます。モラルハザードは「損失の頻度や強度を増加させる個人の不誠実や性格上の欠点である」と定義されています(*4)。少し難しいかもしれませんが、年金の未払い問題はモラルハザードの典型とも言えるので、年金未払い問題を例にモラルハザードを解説します。

年金未払いであれば将来年金を受け取ることができません。しかし、仮に年金を受け取れなくて生活に困窮したとしても「年金を受け取れなければ死ぬ」わけではなく「生活保護」という別のセーフティネットに守られているため、暖かい家に住め、食事をしっかり食べて生きていくことができます。「そう考えると年金を支払う必要がない」と考えて保険料を支払わない人が出てきてしまいます。これがモラルハザードの一例で、制度がヒトの意識(モラル)を阻害してしまうのです。

このような問題がある中「存続可能性」という点から様々な議論や改革案が提案されています。将来的に年金制度がなくなることはまずありません。(受給額を引き下げれば存続することは可能)しかし、増税や社会保険料の値上げによって現役世代の負担が増すことが予想されており、この生活に直結する年金問題を一人一人が考えていかなければいけません。

■日本も見習うべき!? 海外の年金制度はこうなっている!

世界的な人口の高齢化により、年金財政はほとんどの先進国で問題となっています。しかし、東京から飛行機でわずか4~5時間ほどしか離れていない香港では、香港政府が主導となり驚くべき保障内容の年金商品が今年(2018年)から運用されています。

65歳以上の香港永久居民者が購入資格者ですが、例えば65歳の時点で一括で最大100万香港ドル(約1,420万円*)を支払うと、支払いが完了した翌月から年金の給付が開始されます。毎月の年金額は5,800香港ドル(約82,000円*)。これが終身続きます。この年金制度の驚くべき点は、年金受給対象者が死亡してしまったとしてもトータルで最初に支払った金額の105%を下回らない金額が残された家族へ給付され続けられるという事です。(*:1香港ドル約14.2円で計算)

具体的には65歳時点で申し込みをした人は最低保障年金月数が182か月と初めから決まっているので、もし仮に12か月経過後に死んでしまったとしても残りの170か月分の年金は残された家族に支払われるという仕組みになっています。つまり「払い損」にならないという事です。(もちろん無税)

香港政府の発表ではこの年金の運用利回りは約4%ですが、現在の日本では年複利4%という金融商品はリスクが高いものでない限り入手する事は不可能です。

* * *

以上、年金の仕組みと問題点、そして海外の年金制度と比較を解説しました。年金問題は少子高齢化や財源確保だけでなく、モラルハザードや他の制度の関連があることを頭に入れておきましょう。その上で、自助努力を制度としてどれだけ重視するか、海外制度をどこまで応用できるか、ということが今後の年金問題を考える上で重要になるのではないでしょうか。現状からの予想では現役世代の負担が増す可能性が高く、この生活に直結する年金問題を一人一人が考えていかなければいけません。

【参考文献】

1.日本保険学会関西部会報告 2011

2.厚生労働省

3.ちくま新書. 世代間格差

4.Principles Of Risk Management And Insurance, 9th

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