痩せられない人が意識すべき7つのポイント

食欲には二種類ある!

この記事は2018年9月29日サライ.jp掲載記事「痩せられない人が意識すべき7つのポイント」より転載したものを元に加筆・修正したものです。

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肥満は糖尿病脂質異常症などの生活習慣病を合併することが多く、最終的には寿命を短くしたり、健康的な生活を妨げる要因になります。

肥満は「食事」と密接に関係することは疑う余地もありませんが、食行動や食欲を上手くコントロールするのは容易ではありません。今回は、「わかっているけどやめられない!」という原因となる「食行動の決定要因」と「食欲のメカニズム」について解説します。

■「わかっているけどやめられない」をなくすために

食行動とは「何をいつ食べるか」という活動を指します。ではその食行動はどのように決定されているのでしょうか? じつは、食行動の影響因子を紐解くと、食生活を正すヒントが見つかります。しかし、日本の食育や栄養教育において「食行動」の重要性はあまり強調されていません。「わかっているけどやめられない」という誰もが経験のある問題を解決するためには、食事や栄養に関する知識だけがあっても不十分で、食行動の知識も必要です。

■食行動の研究は「マズイものを美味しく」することから始まった!

そもそも食行動に関する科学的研究は、第二次世界大戦下のアメリカで始まりました。当時、長引くと予想された戦況において、アメリカ政府は食糧不足に陥ることを危惧し、国民に普段食べないものまで食糧とするように働きかける必要があると考えました。例えば、家畜の内臓(レバーやホルモンなど)は当時「人間が食べるものではない」と考えられ、捨てられていました。そこで「これをいかにして食べさせるか」を課題とする研究がスタートしたのです。これが「食行動」に関する科学的研究の始まりです(*1)。

■あなたの食行動はこうして決まっている!

以下に代表的な食行動影響因子を6つ列記します(*2)。わかっているけどやめられない!という方は、ご自身の食行動がどの因子の影響を強く受けているか、という点から食行動を見直してみましょう。

【味】甘味、塩味、こってりした味付けのものを人間は好むと生物学的にわかっています。さらに、これらの味覚は中毒に似た変化を脳内にもたらすことがわかっており、少し食べるともっと欲しくなってしまいます。

【感情】感情は食事選択に与える影響は大きいです。ストレスがたくさんかかっているときは不健康な食事選択をしてしまうことが報告されています。

【値段】80%の消費者が、値段が最も重要な要素だと考えています。また、値段は健康的な食事に関する歪んだ認識を生み出すことがわかっています。一般的に「健康的な食事は栄養素のバランスの取れた食事のこと」と考えられていますが、お金に余裕がない人ほど「健康的な食事は不健康な食事よりずっと値段が高い」と考える傾向にあります。

【手軽さ】多忙な毎日を送っている人の中では手軽さは重要な要素です。仕事環境は食事を準備する時間に影響を与えますが、時間に余裕がないと、お惣菜や既に調理された料理、缶詰スープや温めるだけの食事を選びがちです。

【文化・環境】食行動は、育ってきた環境や所属する組織や環境に影響されてしまいます。例えば、「現代社会」という大きな環境において、食物が24時間いつでも簡単に手に入る社会状況は食べ過ぎを助長していると言えます。また「たくさん食べることがよし」とされる環境であれば、どうしても食べる量が多くなってしまいます。

【宣伝】TVクッキング番組やインターネットは70% の人が食事を考える際に参考にしていることがわかっています。そして、食品栄養表は栄養情報を見る上で重要な要素となっています。食品会社の過剰な宣伝や偏ったアピールに影響を受けがちです。

もう一つ、食行動に大きな影響を与えるのが「食欲」です。ここからは食欲のメカニズムについて詳しく解説していきましょう。

■食欲コントロールは全身で行われている!

1950年代に、脳の「視床下部」において「満腹中枢」と「摂食中枢」が存在することが判明し、この二つを合わせた「食欲中枢」によって食欲はコントロールされていると考えられていました(*3)。

1980年代に入ると細胞レベルの科学である「分子生物学」が発展し、様々な食欲制御物質が発見されるようになりました。例えば、「レプチン(食欲抑制ホルモン)」や「グレリン(食欲亢進ホルモン)」が発見されると、食欲調節に関わる物質は全身の様々な臓器から分泌され、複雑な神経回路や血流を介して情報伝達され「食欲」をコントロールしていることがわかってきました。

■食欲には二種類ある!

詳しく説明しましょう。食欲には、生きるために食事を取るように促す食欲「恒常的調整機構」と、「美味しいものを食べたい!」などの感情に左右される食欲「快楽的調整機構」の二種類が存在します。

■恒常的調整機構

恒常的調整機構は「視床下部」が中心となります。それは、視床下部が体内時計睡眠・体温のコントロールを司る場所でもあるため、食欲はそれらの影響も受けているのです。

例えば、シフトワーカー(昼勤と夜勤のくり返しなど生活リズムが一定しないような勤務を行う者)では「肥満」のリスクが高いことが明らかとなっていますが、そのメカニズムとして、シフトワーカーは通常勤務の人と比較して1日のカロリー消費量(特に睡眠中)が減少している、また、食欲亢進物質の血中濃度が増加している、ことが挙げられます(*4)。

また、視床下部には末梢臓器(例えば、大腸や肝臓などの臓器、脂肪組織、筋肉など)からのエネルギー代謝・蓄積の状態、食事からの栄養素や消化液、様々なホルモンなど、身体中からのシグナルが集まってきます。この全身のシグナルを脳に伝える過程が障害されると、食欲の発現にも影響が出ます。

例えば、肥満の人は腸内細菌の悪玉菌が増えることが知られています。悪玉菌は、生体内毒素を産生し神経系における「食欲抑制ホルモン」の働きを低下させ、満腹感を感じにくいカラダを作ってしまいます。このように、肥満は腸内細菌叢の悪化を招き、それが食欲を抑えきれないカラダを作ってしまう悪循環に陥ってしまうのです(*4)。

■快楽的摂食調節

快楽的摂食調整では、視覚、嗅覚、味覚、食後の快感や満足感、味に関する記憶、などの「快楽刺激」が食欲調節に重要な役割を果たしています。その中核となるのが「脳内の報酬系」です。

食事からの快楽刺激は、アヘンやモルヒネなどの麻薬と同様に、「脳内麻薬」とも呼ばれる脳内の快楽物質「ベータ・エンドルフィン」を増やし、おいしさをより強く実感させます。すると、「ドーパミン」と呼ばれる食べる意欲を引き起こす脳内物質が働き、食行動を促進するものと考えられています(*5)。一度この報酬系が完成すると、自分の好物を見ただけで脳内にドーパミンが出て食欲がかきたてられるのです。

じつは、この脳内報酬系を抑えることで肥満を治療する薬が存在します。例えば、1992年より国内で販売されている高度肥満症治療の食欲抑制薬は、脳内のドーパミンを介して満腹中枢を刺激し、食欲を抑制します。食事・運動療法のみで減量しようとすると月に1-3kgとなりますが、この薬を加えた3カ月の治療により、5-10kg減量できるとされています。

以上、食行動に影響を与える6つの要因と、もう一つの食行動決定要因である「食欲」のメカニズムについて解説しました。肥満は万病の元であり、肥満体にならないことが病気予防の第一歩と言えます。

そのためには食行動や食欲を上手くコントロールする必要がありますが、「わかっているけどやめられない!」とお悩みの方も多いと思います。上記の要素のうち「自分が何でつまづいているのか?」を意識していただくと、生活を正すヒントが見つかります。

【参考文献】

1.心理学ワールド 2012: 56; 21-4

2.Family Practice 2008; 25: 50–5

3.静脈経腸栄養 2011: 26; 921-5

4.日内会誌 2015: 104; 717-22

5.Physiol Behav 2009: 97; 537-50