この記事は2017年12月14日サライ.jp掲載記事「その乱れは万病のもと!知っておきたい「腸内細菌」の調え方【予防医療の最前線】」より転載したものを元に加筆・修正したものです。
ヨーグルトに含まれる乳酸菌が腸内細菌のバランスを整える
文/中村康宏
近年、腸内細菌の研究が注目を集めています。新しい技術を用いた腸内細菌の解析により、急速に研究が進展し、腸内細菌がヒトの健康や病気に与える影響が明らかにされてきました(※1)。そうして、今まで知られていなかった腸内細菌の機能が明らかになり、老化抑制、感染抵抗性の増強、整腸作用、免疫を活性化させる作用、発癌リスクの低減......などなど、これまで考えられなかったような健康との関連が指摘されるようになったのです。
今回は、そんな腸内細菌に関する基礎知識についてご紹介しましょう。
■そもそも腸内細菌とは何か
ヒトの腸に多くの細菌が生息していることは、よく知られています。いわゆる「腸内細菌」は 500 種類以上の細菌により構成され、菌数は大腸内容物 1g あたりに約1兆個 も含まれているといわれています(※2)。
この腸内細菌は、それぞれの役割から、体にいい影響を与える「善玉菌」と、悪い影響を与える「悪玉菌」に分けられます。具体的には、善玉菌としては「ビフィドバクテリウム(Bifidobactelium、ビフィズス菌)」 や「ラクトバチルス( Lactobacillus)」、悪玉菌としては「エンテロバクター(Enterobacteriaceae)」 や「バクテロイデス(Bacteroides)」が挙げられます(※3)。
腸内細菌のバランスには個人差があり、年齢、ストレス、病気、薬、食べ物、その人の体調などによって変動します。例えば、年齢を重ねると腸内の老化により善玉菌が減少し、この悪い腸内細菌バランスが老化を促進させます(※4)。また、強いストレスにさらされると、善玉菌が減少することが知られています。
これらの変化は可逆性(元に戻る可能性がある)ではありますが、善玉菌は腸管内に定着することができないため、そのヒトの体調が整わない限り腸内細菌のバランスは戻らないのです。
■悪玉菌は万病のもと!?
「善玉菌」は悪玉菌の増殖や感染からヒトを守ってくれますが、一方の「悪玉菌」はアンモニアや硫化水素、アミン、フェノールなどの有害な物質を生成します(※4)。 これらの物質は、腸自体に直接障害を与えるだけではなく、一部は吸収されて長期的に各臓器(肝臓、心臓、腎臓、脳、生殖器など)に障害を与え、発がん、動脈硬化、高血圧、肝障害、リウマチなどの自己免疫病、免疫機能低下などいわゆる生活習慣病の原因となっている可能性が高いと考えられています。
このことから、善玉菌を増やし、悪玉菌を抑えることが、多くの病気にとって重要であることが明らかになっています(※5)。
■腸内細菌の整え方
ではこの腸内細菌のバランスを調えるにはどうしたらようでしょうか。
たとえばオリゴ糖や食物繊維などの「機能性食品」を摂取することで、腸内細菌を増やしたりコントロールすることができ、腸内の環境を良好に保つことができます。この機能性食品は、作用メカニズムの違いから「プロバイオティクス」「プレバイオティクス」「バイオジェニックス」に分けられます(※4)。
「プロバイオティクス」は善玉菌そのものです。乳酸菌、納豆菌、酪酸菌などが挙げられます。これらは善玉菌を増やすだけでなく、悪玉菌を減少させたり、腸管免疫を活性化させたりと、多様な働きが注目されています。
「プレバイオティクス」は善玉菌の増殖を助ける働きをするものです。例えば、オリゴ糖が挙げられます。
「バイオジェニックス」は、腸内細菌を介して抗酸化作用、抗ガン作用、コレステロール低下作用などを有する食品です。例えば、ビタミンC、カロテノイド、DHAなどが挙げられます。
これらの中には、納豆やヨーグルトなどの食品の他に、特定保健用食品(トクホ)として入手可能なものもあり、積極的に摂取することが推奨されます。(もちろん個人によって効果は一定ではありません。)
また、個人差の大きい腸内細菌ですから、個人ごとの遺伝子に対応した栄養食品を摂取することが効率的であるという考えがあります。これを実現する「ニュートリゲノミクス(nutrigenomics)」の研究が進んでおり、個人別・年齢別など最適化した栄養摂取も可能になっています。
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以上、今回は「腸内細菌」について知っておきたい基礎的なことを解説しました。まだ研究段階の知見も多い分野ですが、腸内細菌の機能は驚くほど多岐にわたることがわかっています。そして、その多くが生活習慣病と深く関わっており、生活習慣病の予防・管理に腸内細菌は重要な役割を果たしているのです。
まずは納豆やヨーグルト、トクホの機能性食品などを継続して摂取してみてはいかがでしょうか。
【参考文献】
※1 安藤. 日内会誌. 2015; 104: 29-34
※2 Ohashi Y. Jpn. J. Lactic Acid Bact. 2004; 17: 118-24.
※3 Isolauri,E.,et al. Clin. Gastroenterol. 2004; 18: 299-313.
※4 Mitsuoka T. Pharmacia. 1969; 5: 608-9.
※5 光岡. 腸内細菌学雑誌. 2002; 16: 1-10.