東大が今年から「合格者の掲示」を取りやめ。失われた伝統の価値とは?

今年も「サクラサク」の季節がやってきた。そう、大学の合格発表だ。東京大学も例年通り3月10日に、2次試験の合格者を発表する。だが、今年はその「発表の風景」が大きく異なるものになりそうだ。というのも、毎年本郷キャンパスで行われていた「合格番号の掲示」が取りやめになり、ネットでの発表のみになったからだ。

今年も「サクラサク」の季節がやってきた。そう、大学の合格発表だ。東京大学も例年通り3月10日に、2次試験の合格者を発表する。だが、今年はその「発表の風景」が大きく異なるものになりそうだ。というのも、毎年本郷キャンパスで行われていた「合格番号の掲示」が取りやめになり、ネットでの発表のみになったからだ。

東大に入学する人にとって、合格発表は間違いなく忘れられない思い出となる。私もちょうど20年前の1994年3月10日、本郷キャンパスの赤門をくぐり、胸の高鳴りを感じながら、合格発表の掲示板を目指した。自分の名前をそこに見つけたときは、頭が真っ白になった(当時はまだ名前も掲示していた)。気がつけば周りには、同じように喜ぶ受験生や、万歳三唱やら胴上げやらで祝福してくれる先輩たち(多くがアメフト部などの体育会)、そしてそれをカメラに収める報道関係者。涙をこらえながら、公衆電話で両親や高校の恩師に報告したのを憶えている。

このような祝祭的イベントを、大学はなぜ中止してしまったのだろうか? 表向きには、本郷キャンパスの総合図書館の増改築工事のため、掲示場所を確保できないためと説明されている。ということは、工事が終わるまで数年間は掲示はやらないということになる。毎年テレビなどで報じられ、東大をアピールする絶好の機会なのに、である。

この決定に、大きく落胆した東大生たちがいた。そのめでたい日に新入りを祝ってやろうと待ち構えていたアメフト部を始めとする運動会(東大では体育会のことを「運動会」という)、そして、「東京大学新聞」の面々だ。

東京大学新聞とは、1920年に創刊された「帝國大学新聞」がその前身で、90年以上の歴史を持つ。現役の東大生が編集し、現在はほぼ週刊で発行されている紙の新聞だ。大学からは独立した公益財団法人の形態をとり、購読料収入と広告収入で成り立っている。とても珍しいタイプの学生新聞なのだ。私も学生のころ東大新聞の編集部に参加し、現在は理事として関わっている。

東大新聞にとっても、合格発表は大きなイベントだ。毎年、3月10日のその日のうちに、合格番号を掲載した特別号を印刷し、発表を見に来た合格者や保護者に販売していた。その特別号には、学生向けマンションなどの広告も入り、大きな収入源になっていたのである。合格発表の掲示がなくなることで発生する損失は、ざっと見積もって100万円。これは大きな痛手だ。

だが、問題なのは損失の金額ではない。伝統が簡単に失われてしまったいいのか? 祝福され、自分も東大の一員になったと感じてこそ、充実した大学生活を送ろうと決意するのではないか? 自分たちも味わった高揚感を後輩たちにも味わってもらいたい。それが東大新聞や運動会の学生たちに共通する想いだ。

大学が動かないなら、自分たちで動こう。運動会や東大新聞は、3月13日に駒場キャンパスで「Freshman Festival 2014」というイベントを開催することを決めた。トークショーや交流会、そして伝統の「胴上げ」などを予定している。

そして、東大新聞は、新しいウェブメディア「東京大学新聞オンライン」を、この3月7日にオープンした。紙の新聞とは異なるオリジナルのコンテンツを発信していく。現役の学生、教員、卒業生、高校生などから、多くの声を集めるようなメディアにするつもりだ。なぜならば、大学が合格発表の掲示を取りやめたのは、結局のところ、学生たちが何を考えているのかが、大学に伝わっていないからではないかと思ったからだ。そして学生も、大学が何を考えているのかがわからないのである。

東大に関わるさまざまな人たちの架け橋となり、そして、東大と社会との架け橋になる。それが、誕生から94年目を迎えた東京大学新聞の、新たなミッションなのだ。

次回は、合格発表と、学生たちが企画した「Freshman Festival」がどのような様子になったのかをお伝えしたい。

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