異端的論考31:アメリカ中間選挙の結果を考える その1 ~ President of the DIVIDED States of Americaに就任したトランプ氏 ~

今回の中間選挙を通して、アメリカ社会は、結束に向かうのか、分断に向かうのかに白黒をつけたわけである。
MANDEL NGAN via Getty Images

今回の中間選挙の結果は、上院での共和党の過半数維持、下院での民主党の勝利と言う両院におけるねじれを生み出した。この結果は、概ね、選挙前の予想通りであったと言えよう。

当のトランプ大統領は、選挙後すぐに、上院での過半数確保を持って「この60日間で私は30か所を遊説し、自分が共和党候補者たちを支援したことが功を奏して、昨夜の段階で11人のうち9人が勝利」して共和党が上院で多数派を維持できた。これは「議会上院での共和党の勝利は、歴史的な快挙だった」と強調した。それだけでは、満足がいかないらしく、「中間選挙で、現職大統領が上院で勝利を収めたのは過去105年の内、わずか5回だけだ」と自身のツイッターに投稿し、自画自賛である。

しかし、上院では、共和党は、まずは、51議席を確保したが、接戦で集計結果がもつれた残る3州では、アリゾナでは共和党が敗北、フロリダでは機械集計でも決着がつかず手集計にもつれ込み、133票という僅差で共和党の勝利となり、ミシシッピでは決戦投票となっている。ミシシッピの結果次第では、共和党は一議席増の52議席、民主党は一議席減の48議席となる。補選と合わせた今回の改選35議席の内訳は共和党9議席に対し、民主党が26議席と圧倒的に民主党が不利であった。この民主党の改選議席数の多さと言う不利を考慮すると、今回の上院選挙の結果が、トランプ大統領の主張する歴史的大勝と言うのは誇大表現(歴史的勝利かどうかは非常に怪しい)で、支持者向けのプロパガンダ、いや、フェイクニュースと同じ臭いがする。

この結果は、むしろ、民主党の大健闘と言えよう。2年後の上院選挙では、改選数は今回と逆転し、共和党の改選数が多数(共和党21議席、民主党12議席)を占める。トランプ氏は、自分の再選のみならず、二年後の上院議員選挙を心配した方が良かろう。

両院選挙の陰に隠れているが、州知事選挙の結果も重要である。今回の選挙で50州のうち36州で改選が行われた。改選前は共和系知事が33州、民主系が16州、無所属が1州と圧倒的に共和党有利であった。選挙の結果を見ると、共和党系は6州減り、33州から27州へ、民主党系は7州増え16州から23州となった。共和党の優位は変わらないものの、その差は大きく縮まったと言える。これもトランプ大統領の勝利とは言い難いと言えよう。政党にとって、州知事がなぜ重要かと言うと、連邦制のアメリカでは、多くの州で10年ごとに人口動態調査に基づいて、ゲリマンダリングと呼ばれる下院議員の選挙区の区割り変更を行うのだが、その下院選挙区の区割り案に州知事は拒否権を発動できるので、州知事が所属する政党に有利な区割りを促すことができるからである。次回の区割り変更は2020年に予定されているので、今回当選した州知事の任期中に区割り作業が行われる。区割りの線引きの見直し方次第で、特定政党に有利になるので、今回の州知事選の行方は将来の下院議員選挙の結果に大きな影響を与える可能性がある。この意味で、今回の州知事選の結果はトランプ大統領にとっては痛手であろう。

トランプ大統領にとってのもう一つの痛手は、共和党候補者は激戦の末、フロリダ州とジョージア州で勝利はしたが、トランプ大統領の支持基盤である「ラストベルト」のミシガン州、ペンシルバニア州、ウィスコンシン州で民主党候補に敗北し、共和党が強い地盤も持つカンザス州や共和党有利とみられていたイリノイ州でも民主党候補に敗れたことである。

注目を集めた下院では、現在、435議席(過半数は218)中、233議席対200議席、残り2議席であるhttps://www.washingtonpost.com/election-results/house/改選前は、共和党239議席、民主党194議席なので、今回は民主党の圧勝といえよう。トランプ氏は自分に都合の悪いことは、ウソと言うか、無視するか、なので、下院選挙の結果については無視である。

ここで、今回の中間選挙に影響を与える経済状況や大統領の政策を見てみよう。昨年12月にトランプ政権は議会承認を得て、10年で1.5兆ドル(約170兆円)という大型減税措置を開始した。法人税率の大幅引き下げ(35%から21%)を主眼としたこの措置の効用もありアメリカ経済は成長が3%超に加速し、失業率も48年ぶりの歴史的な低水準となり、数字的には好調で、一般的には、これは、現職大統領と与党にとって追い風となる状況である。

トランプ大統領は中間選挙を意識していたので、即効性のある設備投資減税(5年間の時限措置で設備投資全額を課税所得から控除できる即時償却)まで盛り込んで、中間選挙に経済効果のピークに持ってこようとしたふしがある。

それでも不安なのか、今年6月にトランプ大統領は、21%の法人税を20%にし、さらに個人減税を拡充し、8年間の時限措置とされた個人減税の恒久化を図る追加減税案を打ち出すと述べた。中間選挙を間近に控えた1022日には、中間所得層の家計を対象に10%程度の所得税率の引き下げをすると述べている。財源の目途もなく、財政赤字が年1兆ドル規模に近づいている財政難のなかで、これらの減税案は、明らかに中間選挙向けの「バラマキ政策」である。そもそも税制の立案・決定権は議会にあり、ホワイトハウスにはないのだが。

中間選挙を念頭において、なりふり構わず、ここまでの無責任な政策を並べたてて中間層の有権者の歓心を買おうとした一方で、大統領の支持基盤である共和党保守派に受ける過激なメッセージを矢継ぎ早に出した。投票を敵と味方に分けて恫喝するような発言、メキシコ国境に近づく移民(筆者には、その中心は難民と思えるのだが)に対して軍隊を派遣するなどをはじめとする過激な発言や行動を連発することよって、共和党内での大統領の支持率を上げるのに腐心し、実際に共和党支持者の中での支持率は上がった(しかし、連発される過激な発言や行動の結果、共和党員が減少し、結果的に、母数が減ったので支持率が上がったという高名な政治学者であるパットナム教授の指摘もあるが)。このような、好景気と言う追い風とバラマキ公約、加えて支持基盤の強化をしたうえでの、下院選挙での敗北は、実際には、トランプ大統領にとって相当の痛手であろう。

今回の民主党が巻き返した選挙が意味するのは、2年前の大統領選挙で一気に表にでたトランプ支持者がそれなりの規模であることは、確認されたわけだが、彼らがアメリカ社会を席捲するわけではないということである。この意味で、トランプ大統領は、今回の中間選挙で勝ったわけでも負けたわけでもなく、今回の中間選挙を通して、アメリカ社会は、結束に向かうのか、分断に向かうのかに白黒をつけたわけである。あえて、今回の中間選挙でトランプ氏が得たものは、本当にPresident of the DIVIDED States of Americaに就任したことであろう。

次回は、今回の中間選挙を通しての政治家としてのトランプ氏の行動特性とアメリカ社会の分断の背後にある社会の構造的変化を考察してみたい。

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