異端的論考15:アメリカ大統領予備選の行方 ~ 今回の予備選の意味するもの ~

アメリカ社会が直面するであろう大きな社会問題がひとつある。それは...

今年の11月8日に予定されている第45代アメリカ大統領選挙の為の民主党・共和党の大統領指名候補者を選出する予備選が予想外に興味深い展開となっている。

昨年までの動向は、年末12月に2006年以来の利上げに踏み切ったことからもわかるように米国経済は相対的に堅調で回復基調であったので、現在政権にある民主党が次期大統領選挙に有利であり、有権者はヒラリー・クリントンに飽きているといった感も否めないものの、民主党の指名候補者は彼女で決まりといった感じであった。

その一方で、共和党は今回の選挙は勝てないと踏んだのか、これといった目玉候補者がいないといった状況であった。そこに、過去の大統領選で何度となく出馬をほのめかしてきたニューヨークの不動産王で政治経験のないトランプ氏が6月に出馬表明をおこない、共和党の大統領指名候補レースに突如参戦した。

それ以来、イスラム教徒の入国禁止や「メキシコ系移民は麻薬や犯罪を持ち込み、婦女暴行犯でもある」と中傷、メキシコからの不法移民に対し国境に壁を作ると言う強硬発言、ヒラリー・クリントン氏への侮蔑発言など、人種・女性差別といえる発言でひんしゅくを買いながらも、世論調査では高支持率を維持し、共和党の最有力候補者の一人に踊りでている。

トランプ氏がいなければ共和党エスタブリッシュメント(支配組織・階級)のシナリオは、2月1日のアイオワ州を皮切りに6月に終了する両党の大統領・副大統領の指名候補の選出レースで、最初は保守派の急先鋒で草の根保守派運動「茶会(ティーパーティ-)」系のヒーローと言えるクルーズ氏が、その急進的な発言で保守派有権者の支持を得るが、予備選挙の後半で共和党の本流である44歳と若いルビオ氏に一本化していく(ブッシュ氏(サウスカロライナ州予備選後に撤退)とケーシック氏が撤退してルビオ支持を表明)という流れであったのではないか。

ルビオ氏は、両親がキューバ系移民(奇しくもクルーズ氏も父親がキューバ系移民、年齢も45歳と若い)であり、68歳のクリントン氏に対して共和党指名候補の若さとマイノリティの出自をアピールできるという狙いもあったであろう。ちなみに、現オバマ大統領が就任したのは47歳の時である。

しかし、アイオワ州、ニューハンプシャ州、サウスカロライナ州、ネバダ州の序盤の4州の予備選において、なんと、トランプ氏が3勝してトップに躍り出ている。

右派地盤であるサウスカロライナ州の予備選(共和党では、全州で一位得票者が代議員数を総取りする方式(選挙区ごとなど州による細かい違いはあるが)を採用していた歴史があり、比例配分を採用する州は少ない)での敗北は、急進右派のクルーズ氏としては面目丸つぶれであろう。続く、ネバダ州でも、トランプ氏が勝利し、この時点で、トランプ氏の代議員獲得数は81で、ルビオ氏の17、クルーズ氏の17に大きく差をつけた。

一方、民主党の指名候補レースは、クリントン氏安泰から、一気に混迷の度合いを深めている。予想外に、バーモント州選出の上院議員であり、アメリカでは珍しい民主社会主義者を自認するバーニー・サンダース氏が一気に躍り出てきたのである。

現在、アイオワ州、ニューハンプシャ州、ネバダ州の選挙を終えて、獲得代議員数は、クリントン氏が52、サンダース氏が51と拮抗している。クリントン氏の二勝一敗ではあるが、二勝とも僅差の勝利と言えよう。サンダース氏が20ポイント以上の大差をつけて圧勝したニューハンプシャ州は、サンダース氏の地元バーモント州に隣接しており地の利と考えられるので、これをもってサンダース氏有利とも言えまい。黒人票の多いサウスカロライナ州ではクリントン氏の優勢が伝えられていたが、開票中である第4戦のサウスカロライナ州予備選ではクリントン氏が圧勝という速報が入っている。

しかし、最新の全米レベルでの世論調査でも両者の支持率は拮抗している。有力候補でもなかったサンダース氏が序盤戦とはいえ、ここまで善戦すると思った人は少ないのではないかと思う。共和党と違い、民主党は予備選の結果による代議員数の配分を比例配分で行うので、ここまでの接戦になるとそう簡単には決着はつかないのではないかと思う。

代議員の獲得数と言えば、民主党の仕組みは二重構造を有している。一般の代議員(誓約代議員)4,051人に加えて、特別代議員(Super delegates)が713人いる。この特別代議員は、予備選や党員集会の結果に拘束されず、個人の判断で支持者を決定できるのである(https://en.wikipedia.org/wiki/List_of_Democratic_Party_superdelegates,_2016)。

現時点での特別代議員の事前支持数をみると、クリントン氏が448、サンダース氏が18、「支持候補なし」が241である。この支持は、いつでも変更可能であるが、現時点で、一般代議員と特別代議員の支持数を合計すれば、クリントン氏が500、サンダース氏が69なので、クリントン氏が大きくリードしていると言える。特別議員の多くは、前大統領や上院議員、州知事など各党の中心にいる、俗に言う、政治のエスタブリッシュメント(支配組織・階級)に属する人々であるので、この支持数の大差の違いはわかりやすいのではないかと思う。

共和党の方はどうかといえば、民主党と同様に、一般代議員(Pledged)2,369人に加えて特別代議員と同等の代議員が103人存在する。共和党ではSuper delegates とは呼ばずUnpledgedと呼び、各州にいるわけではなく、民主党に比べれば、その数はかなり少ないと言える(http://www.thegreenpapers.com/P16/R-PU.phtml)。

このように、アメリカの大統領予備選の仕組みはかなり複雑である。一般的に大統領予備選と言われるが、そこには、予備選挙(Primaryと呼ばれ、投票所での投票が基本で、政党登録をしていない有権者も投票できる州もある)と党員集会(Caucusと呼ばれ、党員集会での討議と採決を原則とし、基本はアイオワ州の民主党党員大会が典型であるが、党員を前提に地区からのボトムアップ方式を取るが、例外の州もある)の二つの方式があり、各州で採用の方式が異なる。代議員の配分方式も前述したように、比例配分方式を採用する州と一位総取り方式を採用する州とがある。 

このようにアメリカの大統領予備選の仕組みは、民主党と共和党で異なり、また、その歴史から州の自治性が非常に強いので、州ごとに異なる。

さて、ここで、旋風を巻き起こしているトランプ氏とサンダース氏の支持者をみてみたい。

トランプ氏の核となる支持層について識者とマスメディアで概ね一致している見解は、不当に下層市民扱いされ、格差を生む経済政策や移民のせいで割を食っていると感じている右寄り・保守的でより年配(アメリカ社会もごたぶんにもれず、社会の高齢化、特に白人の高齢化が進んでいる)で、低所得・低教育な白人労働者層であるということである。その核を中心として、支持基盤は、拡大的解釈としてのプアホワイト(歴史的には侮蔑用語としての南部およびアパラチア地域の教育程度の低い貧しい白人を指す)といえる中産階級以下の保守的な白人労働者層である。

彼らは、アメリカ社会の中で、人口としてのマジョリティの地位を脅かされ、その社会への影響力が大きく減じていて、現在の政治システムに裏切られたと感じているようである。移民の増加やグローバル化や技術の急激な進歩による社会や労働の変化に怯え、変化を拒否し、自分たちが中心にいたと思っている古き良き(白人男性中心の)アメリカ社会に戻ることを望んでいる人々である。彼らは、トランプ氏の「偉大なアメリカを取り戻す」という言葉の中に昔のアメリカ社会を見ているのであろう。

トランプ氏は、確かに、このような支持層を上手く取り込んでいる。彼らを相手に単純かつ簡単、時に過激に語ることを心がけている。トランプ氏の自らの位置づけは、自分は政策の詳細な計画や公約を有権者に提示する候補者ではなく、プアホワイトの心情の代弁者というところにあり、メディアを通して彼らの親近感を得ているのは事実であろう。

余談だが、プアホワイトは、男性優位主義の意識が強いと言われ、そこに迎合してかは定かではないが、トランプ氏が演台に上がる時に24歳若い3度目の妻のメラニアと一度目の妻との間の娘のイヴァンカ(モデル、実業家、高学歴と才色兼備である)というブロンドの女性を左右に侍らせているのは効果的な演出であろう。そもそも、トランプ氏のブロンド好みは有名であるのだが。まさに、パフォーマンスのトランプ氏である。

その一方で、トランプ氏は、強硬な移民反対論者であり、メキシコ不法移民が攻撃の対象であるが、ヒスパニック移民の最底辺を形成するメキシコ移民を悪者にすることで、ヒスパニック票の切り崩しをしているとも言え、なかなかしたたかである。事実、第4戦のネバダ州では、ヒスパニックの票をかなり獲得している。

一方、サンダース支持者を見てみると、トランプ氏とは違い、また他の民主党候補と比べると圧倒的に若者が多いとされている。その背後には格差の拡大と高額化する大学の学費と就職難など若者の不満がありそうである。若者が積極的にサンダース氏の選挙運動に参加している。現大統領のオバマ氏の時にも若者が中心となって、流れを作り、ヒラリー・クリントン氏の優位をひっくり返したが、この時と同様のムーブメントと言えなくもない。

しかし、8年前とは少し様相が異なる。オバマ氏の時の若者のムーブメントは、「Change」という合言葉のもとで、オバマ氏が先頭を歩き、その背後には若者の希望があったのではないか。しかし、今回のサンダース氏の場合は、希望と言うよりも、むしろ、若者の怒りとも憤りとも言えるものがあり、それが既存体制への反抗に結びついてはいないであろうか。

要は、長いこと民主社会主義者を自認するサンダース氏を担いだ若者のカウンター・ムーブメント(既存の支配制度を覆す活動)ともいえよう。アメリカ社会においては非現実的と言える社会主義的政策を主張するサンダース氏はカウンター・ムーブメントの格好の旗頭(象徴)であり、高齢でもあり、うまく神輿に乗せたといったかんじであろうか。

サンダースを支持する若者にとって、支配階層に属する政界のエリートである民主党候補のクリントン氏も共和党と同じく敵なので、彼らはクリントン氏も攻撃する。つまり、若者たちは、自分たちのムーブメントの為に、サンダース氏を出汁に使っているとも言えるかもしれない。

トランプ氏はプアホワイトを代弁するパフォーマーであり、サンダース氏は若者の憤りを源泉とするカウンター・ムーブメントという神輿に乗る偶像であろうか。非常に対照的である。

今回のアメリカ大統領予備選の増幅する最近の様相・潮流の大きな特徴は、戦後アメリカを世界のアメリカとし、現在、世界経済拡大の為にグローバル化を牽引する、アメリカを支配してきた民主党と共和党、ひいてはアメリカ社会のエスタブリッシュメント(支配組織・階級)に対する非常に強い反感であろう。簡単にいえば、反政治エリート主義である。サウスカロライナ州の予備選後、選挙戦からの撤退を表明した、父と兄を大統領に持つ、共和党のジェブ・ブッシュ氏は、この反感の餌食になったとも言えよう。

事実、トランプ氏は、政治家ではなく、破産を経験し、再起した不動産王である名うての実業家であり、政界のエスタブリッシュメントでもエリートでもない。そして、根っからの共和党員でもない。今は共和党員であるが、1987年以前と2001年~2009年にかけては民主党員であり、民主党のビル・クリントン元大統領へ巨額の献金を行っていたこともある。

トランプ氏の掲げる政策は、小さな政府・民営化・トリクルダウン理論の新自由主義路線をとる共和党主流派(民主党の右派もこれに近い)と言うよりも民主党の左派に近いといえよう。これが、中産階級以下の保守的な白人労働者層の強い支持を得ている要因となっているといえる。

しかし、実は、トランプ氏は政策の詳細な計画や公約を有権者に示しているのではなく、支持層を代弁し、彼らが反応するであろうアイディアを使って、政界エスタブリッシュメントを攻撃しているのが実情であろう。また、元GEのCEOであるジャック・ウェルチ氏などの大物実業家を政権の要職や政策ブレーンに招くなど、トランプ氏の発想は面白い(筆者は、日本でこそやって欲しいのだが)のだが、実現性は極めて怪しいと言えよう。

一方のサンダース氏は、トランプ氏と違い、そのキャリアは政治家である。2007年、65歳の時にバーモント州の上院議員となった。それ以前は、16年間下院議員を務めている。しかし、上院議員としてのサンダース氏は、民主党所属でも共和党所属でもなく、無所属を通してきた(今回の予備選の為に2015年に民主党に入党しているが)。

そして、政治家として、アメリカでは極めて珍しい民主社会主義をその政治信条としてきた。サンダース氏の社会主義的政治信条には、大学卒業後に、イスラエル(サンダース氏はユダヤ系である)に渡り、社会主義的生産・生活共同体を実践するといえるキブツ(https://en.wikipedia.org/wiki/Kibbutz)で生活したことが大きく影響していると言えるであろう。1941年生まれなので、映画「イージーライダー」(1969年)に象徴されるベトナム戦争反対に端を発する1960年代のカウンターカルチャとしてのヒッピームーブメントの世代である。この意味で、サンダース氏は、トランプ氏とは別の意味ではあるが、思想的には、政界のエスタブリッシュメントでもエリートでもない。

サンダース氏の政策は、極めてシンプルな再分配を格段に強化する内向な社会主義的性格のものである。サンダース氏は、21の課題を挙げて政策提言(https://berniesanders.com/issues/)をしているが、中でも注目を集めるのは、

・A Living Wage (最低時給を$15とする)

・It's Time to Make College Tuition Free and Debt Free (公立大学の授業料を

  無料化する)

・Medical for All (国民全員が無料で医療を受けられるようにする)

・Making the Wealthy, Wall Street, and Large Corporations Pay their Fair Share(中産階級から搾取して富を独占するウォール街への課税を強化し、収入と富の平等を図る)

・Improving the Rural Economy (NAFTAのような自由貿易協定に反対するので

 TPPにも反対する)

・A Fair and Humane Immigration Policy (市民権獲得の道を開くための移民法の改正・・・この意味でトランプ氏ほど強硬なヒスパニック移民忌避者ではない)

このような政策は、望ましいかもしれないが、自助努力を尊び、北欧と異なり、高い税金を好まない国民の多いアメリカで、実現することは難しい。彼の政策は、ウォールストリートを標的にすることに象徴されるようにトップ1%の富裕層が残り99%の社会保障サービスの無料化のためのコストを払うべきであるという考えに基づいているといえるが、真剣に考えれば、こうした政策は、アメリカからの資本逃避、それを阻止する政府による資本移動の禁止など、アメリカ社会に大きな混乱を招くことになるであろうから、素直に現実的であると思うことは難しいであろう。公平を期すために、サンダース氏の政策実現の為の財源調達施策である「How Bernie pays for his proposals」(https://berniesanders.com/issues/how-bernie-pays-for-his-proposals/)を挙げておくので興味のある方は一読されると良い。

このように、今回の潮流の中心にあるトランプ氏とサンダース氏は、アメリカ政界のエスタブリッシュメントでもエリートでもなく、彼らの掲げる政策は、その背後にある民主党と共和党の伝統的な政策とも整合性はない。両者の主張で共通するのは、グローバル化の拒否、大きな政府、排外主義的な内向き孤立主義的傾向であろうか。

この意味で、両者は民主党と共和党の指名候補を争ってはいるのだが、まさに、二大政党をその基盤とするアメリカの政界のエスタブリッシュメントとエリートとは無縁と言えよう。サンダース氏の「ウォールストリートへの懲罰課税や公立大学の学費無料化」、トランプ氏の「メキシコ国境にメキシコ政府のお金で壁を作る」といった政策は実現性を考えると首をかしげざるをえないのだが、しかし、多くの支持を得ている現実がある。この流れの行きつく先は、破産したに近いギリシャで、民意で当選した急進左派であるツィプラス政権が、当選後、不可能な公約を反故にしたのと同じ結果となるのではないだろうか。

このような潮流にたいして、ファイナンシャル・タイムズのGideon Rachman氏の「Trump, Sanders and American Rage」

http://www.ft.com/intl/cms/s/0/9a42636c-cc22-11e5-a8ef-ea66e967dd44.html#axzz410RIgW00)に代表されるように、識者やマスコミの論調では、既存政党政治と政界エスタブリッシュメントへの反感による反政治エリート主義の行きつくところは、排外主義・孤立主義(昔のモンロー主義)、そして、トランプ氏の場合は特に、ポピュリズム(大衆迎合主義・衆愚政治)であるとして反政治エリートを求める危うさに警鐘をならすものが多い。民主主義が前提とは言え、ジャスミン革命と同じで、現状の体制を壊したからと言って、よりよいモノができる保証はなく、一層混乱を招く可能性もあるので、識者がこのような危惧を持つことは、理解できよう。

余談だが、今の潮流は、反エリート主義であるが、それは、政治エリートに対してであって、実は、トランプ氏とサンダース氏はかなりの社会的なエリートである。トランプ氏は、全米でもトップ5のビジネススクールと言われるウォルトンスクールからMBAを得ている。また、様々な職を経験し、たたき上げで、苦労人である印象があり、エリートではないように言われるサンダース氏も、ノーベル賞を最も多く輩出する名門大学であるシカゴ大学の政治学部を卒業している。

前置きが、非常に長くなったが、筆者は、今回のアメリカ大統領予備選の混迷が示す、反政治エリート主義がもたらす、排外主義・孤立主義(昔のモンロー主義)、ポピュリズム(大衆迎合主義・衆愚政治)の台頭の可能性に危惧を感じることに同意するが、実は、今後アメリカが迎える人口動態的変化のもたらす社会変化、つまり、建国以来、アメリカ社会を成り立たせている基底の変化の予兆ではないかと思っている。

そもそもアメリカと言う国は、映画の「コクーン(Cocoon)」(1985年)に代表されるように、「若さ」を尊ぶ社会であり、老いても「若さ」を求める社会である。しかし、今回の大統領予備選では、この「若さ」というシナリオはどうも機能していない。サンダース氏74歳、トランプ氏69歳、クリントン氏68歳と候補者は、高齢者揃いである。大統領就任の最年長記録は、レーガン大統領の69歳なので、上記の3人のうちの誰が大統領になっても、これに並ぶか抜くことになる。若さを求めるアメリカ社会の逆流である。高齢であることに偏見があるわけではないが、サンダース支持の若者が自分の未来を74歳の高齢者に最低4年、もしかすると8年も託すのかと言うことである。

サンダース氏が大統領になれば初めてのユダヤ系大統領であり、そのユダヤ系の出自を持つサンダースに、ユダヤ系の牙城であるウォールストリートをつぶすことを若者が期待すると言うのも皮肉である。

米国国勢調査局(U.S. Census Bureau)の推計では、2060年までに米国の人口は、2014年の3億1870万人から約1億人増えて4億1680万人となるとされている。人口は増加するがその増加は緩やかであり、2030年代の前半には、移民の増加数が国内出生数を上回るとされ、人口増加のドライバーが変わると予想され、移民国家であることが一層明確化する。その過程で着目されるのは、急激な高齢化と人種構成の変化である。

まず、高齢化では、2050年代の後半に、65歳以上人口が18歳以下人口よりも多くなるとされ、従属人口指数(dependency ratio:18歳以下人口+65歳以上人口/19歳~64歳人口)を見ると、2010年の59%から2020年の66%となり、その後2030年以降には75%前後で2060年まで安定するが、その増加の主因は、65歳上の高齢者である。その人口構成比は、2010年は21%、2020年は28%、2030年は35%、そして、2060年には39%となると予測されている。一方18歳以下は2010年の38%から2060年の37%と概ね安定している。

人種別の2012年~2060の平均年齢の変化をみると、白人(米国の統計ではノンヒスパニックホワイトと言う)の平均年齢は42歳から47歳へ、ヒスパニックの平均は27歳から34歳へ、全体平均は37歳から41歳となる。国民全員が老いていくが、白人の平均年齢とヒスパニックの平均の年齢の差はかなり大きく、歳老いる白人と若いヒスパニックと言う構図である。 

次に人種構成を見てみると、2040年代の半ばには、白人の人口は50%を割ると予測されている。つまり、人口的に、現在のマイノリティ(白人以外の少数派)が半数以上を占める多数派になると言うことである。アメリカは白人国家であることを疑わない現在のアメリカ人にとって大きな変化であろう。より細かくみてみると、2014年から2060年の間に、白人の比率は62.2%から43.6%、ヒスパニックの比率が17.4%から28.6%となり、ヒスパニックの増加が目立つ。18歳以下の人種別の人口で見てみると、白人の比率は52.0%から35.6%、ヒスパニックの比率が24.4%から33.5%となり、白人と拮抗する。ちなみに、現時点で、米国にいる不法移民の数は1100万人とも言われており、そのほとんどがヒスパニックであることを考慮すると、ここにあげた白人とヒスパニックの数値は、白人の数値が下がり、ヒスパニックの数値が高くなるといえる。国の中心は年老いる白人から若いヒスパニックへと転換していくことを意味すると言えよう(https://www.census.gov/newsroom/cspan/pop_proj/20121214_cspan_popproj.pdf )。

このように、2060年までのアメリカの人口動態の予測を見てみると、アメリカという国家が大きく変わるであろうという興味深い予想図が浮かんでくる。

老いていくアメリカ、白人マジョリティの終焉とそれを象徴するヒスパニックの台頭という構図は、いろいろな大きな問題を提起している。

現状のヒスパニックの社会的位置づけを前提に考えると、

・アメリカと言う国家の国力を維持できるのかという問題。

・一つのアメリカを維持できるのかという問題。つまり、白人、ヒスパニック、アジア系、

黒人という人種による地域分離が起こりうるのかどうか。その過程で、カナダとメキシコという国家との関係はどうなるのかと言う問題。

・極論は、世界には、中国も含めて、覇権を取る国家が存在しなくなる。つまり、イアン・ブレマーの言う国際社会において主導的国家が存在しなくなるGゼロの時代の行きつく先の問題。

上記の問題は、あくまで仮定の話であるが、アメリカ社会が直面するであろう大きな社会問題がひとつある。それは、日本も直面している高齢者を支えることから発する世代間格差による世代間の軋轢である。社会が高齢化する中で、豊かと言えるかどうか疑問のヒスパニックの若者が白人の高齢者を支えるという構図は、人種問題をはらむが故に、日本以上に厳しい世代間の軋轢を引き起こす可能性があるといえよう。

いずれにしても、そこに至る過程でアメリカ社会が通るであろう軋轢は、弱者・貧者の増加による社会主義的政策の要望の高まりと優位な地位を喪失することへの反発がもたらす白人優位主義の台頭ではないであろうか。

この意味で、白人優位主義者とも取れるトランプ氏と民主社会主義者を自認するサンダース氏が躍進している今回の大統領予備選の様相は、2060年に至るアメリカ社会の抱える課題の前触れと捉えるべきかもしれない。

今後の共和党の予備選の展開は、一位総取り方式の多い共和党の予備選の方が、決着が速く着きやすいと言えるので、3月1日のスーパーチューズデイ(Super Tuesday)を境に、一気に候補者は絞られ、トランプ氏とルビオ氏の決着までつくであろうか。実業家で、選挙資金を自前で賄うということを前面に押し出し、政策論ではなく、過激な発言とパフォーマンスに依存するトランプ氏が、候補者が絞られる中で、中道・穏健派も含めて共和党支持者の過半数の支持を得られるかは疑問であると言う識者の指摘は、妥当であろう。そうであるとすると、最終的には、まだ、一勝もしていないことが気にはなるが、共和党の大統領指名候補はルビオ氏になるという流れではないであろうか。

一方の民主党の方は、代議員数を比例配分するので、3月1日のスーパーチューズデイでも決着がつかず、オバマ氏の時のように、どこまで若者が予備選を主導できるかで、最後までもつれるかもしれないが、政策の現実性を問われ始めると、結果、クリントン氏が大統領指名候補に選ばれるのではないか。

いずれにしても、トランプ氏とサンダース氏が今後どの位健闘するか、予備選の結果を見守りたい。まずは、3月1日のスーパーチューズデイの結果に着目したい。

今回の予備選は、2060年に至るアメリカを考える端緒となる出来事となるであろう。今回の予備選、ひいては大統領選挙の結果がどうであれ、2060年に向かってアメリカ社会が基底で変わっていくことに変わりはない。

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