その規制は本当に子供のため?

緑が多いことでは恵まれている今の生活ですが(→『公園は誰のもの?』)、現代って子供が育つ環境としてどうなの?と思うことは少なくありません。

緑が多いことでは恵まれている今の生活ですが(→『公園は誰のもの?』)、現代って子供が育つ環境としてどうなの?と思うことは少なくありません。

ハフィントンポストの『学力だけじゃない、体力もカネで買う時代』を読んで激しくうなづきました。

一般に、「教育にカネがかかる」と言うと、塾通いや稽古事といった、上昇志向な教育費用を連想する人が多いかもしれない。 だが、現実はもっと厳しい。 生きていくための技能、基礎的な体力や持続力を身に付けるためにも、いちいちリソースを子どもに差し向けなければならないのだ。 ほったらかしでも子どもがバイタリティや生活技能を身に付けてくれる時代は過去のものになったのだから。

イギリスでは11歳以下の子供にはひとりで外出はおろか留守番すらさせることはできず保護者の同伴が必要です。 小学校には大人が送迎する必要があります、習い事も同様(→『ママ友ステレオタイプ』)。 働いていて自分で送迎できない場合はナニーを雇うので、給料のほとんどがナニー代に消えるケースは珍しくありません。

誘拐や性犯罪、交通事故から子供を守るために定められたものですが、子供が自由に出歩いていい自宅からの半径距離は1970年代から90%も減少しました。 1971年には7-8歳の子供の80%が歩いて通学していたのに対し、今日では10%以下だそうです(The Guardian: Back to nature)。

我が家には3人の子供がいて私の体はひとつしかないので同伴できる遊び場所は小さな子にも安全な近所のプレイグラウンドくらいしかありません(『公園は誰のもの?』の③のようなところ)。 家の近所のプレイグラウンドは落下事故がほぼないようにデザインされており、2歳の次男にも安心して遊ばせられます。 が、危険がないということは逆の見方をすると子供が自分で運動能力を判断しチャレンジする機会を奪っているということだし、4歳半の長男には直に簡単すぎてつまらなくなるでしょう。

昔のように、近所の子供たちで集まって大きな子たちが小さな子たちの面倒を見ながら車のない場所で遊んでくれたら、その様子に近所の人が目を光らせてくれたら、私は寒い中、新生児の長女に戸外で授乳しながら2人の男の子を追いかけ回さずに済むのにと思わざるをえません(どのくらいこういう理想郷があったのかは知りませんが)。

最近、私が最近一番怒りを覚えたニュースはこれ→The Atlantic: Working Mom Arrested for Letting Her 9-Year-Old Play Alone at Park

米サウスカロライナ州で黒人のシングルマザーが、自分がマクドナルドで働いている間、9歳の娘を公園で遊ばせていたら「児童ネグレクトだ」と通報されて逮捕された、というニュース(拙訳)。

Debra Harrell works at McDonald’s…

For most of the summer, her daughter had stayed there with her, playing on a laptop that Harrell had scrounged up the money to purchase. (McDonald’s has free WiFi.) Sadly, the Harrell home was robbed and the laptop stolen, so the girl asked her mother if she could be dropped off at the park to play instead.

Harrell said yes. She gave her daughter a cell phone. The girl went to the park—a place so popular that at any given time there are about 40 kids frolicking—two days in a row. There were swings, a “splash pad,” and shade. On her third day at the park, an adult asked the girl where her mother was. At work, the daughter replied. The shocked adult called the cops. Authorities declared the girl “abandoned” and proceeded to arrest the mother.

マクドナルドで働いているDebra Harrellさん

夏の間、ほとんど彼女の9歳の娘はママが働いているマクドナルドで、ママがお金を貯めて買ったラップトップPCで遊んでいた(マクドナルドには無料WiFiがある)。

ところが、家に泥棒が入りラップトップPCが盗まれてしまったので、「公園で遊んでもいい?」と聞く娘に、Harrellさんは「いいわよ」と答え、携帯電話を渡した。

娘は2日連続公園に行って遊んだ(とても人気のある公園で常時40人くらいの子供たちが遊んでいる)。 ブランコも水遊び場もあり木陰もあった。

3日目、公園で彼女に気づいた人が「ママはどこにいるの」と聞き、彼女は「仕事」と答えた。 ショックを受けたその人は警察に通報、警察は子どもが「遺棄された」とし、Harrellさんを逮捕した。

マクドナルドで働いている彼女に夏休みの間娘のためのナニーを雇うお金があるとでも思っているのでしょうか? 公園で遊ぶのと1日ラップトップを見ながらファーストフードを食べるのとどちらが子供の健康にいいのでしょうか? たったひとりの親を逮捕して子供から引き離すほどの犯罪を彼女は犯したのでしょうか?

誰もが「自分の老後を孫育てのために捧げてもいい」という寛大な親が近所に住んでいつでも手を差し伸べてくれるほど恵まれているわけではありませんし、ひと1人雇えるほど稼いでいるわけでもありません(良いナニーの時給はマクドナルドの時給より遥かに高く、しかも税後の給料の中から払う必要あり)。 むしろ、就労チャンスを求める若者は親元を離れて大都市に移動するため近所に親が住んでいない、ワーキングクラスではシングルマザーが増えている、のが現代の特徴です。

子どもに普通に健康的な生活・運動をさせるためのハードルが余りにも高くなっていると感じます。 こういう時代では全員の子どもにスポーツや他の習い事をさせるリソースがない家庭は、家に閉じ込めてテレビを見せるのが一番手っ取り早くなります(習い事は年齢別のクラスに分けられているので3人兄弟だと3回送迎が必要)。 実際、そうやって毎日を乗り切っている家庭が多くなっていることが、子供の肥満や他の問題の増加につながっているのでしょう。

現代の育児を大変にし、子供の体力・健康を犠牲にしているのは過剰すぎる規制だと思います。