伝説のホテルオークラのデザイナーのお宅訪問記 - 1

どこを見てもアート・アート・アート!

今年もあっという間に幕を閉じたロンドン・デザイン・フェスティバル、ブログを通してご連絡頂いた方、日本から毎年この季節に渡英するデザイン系の方と懐かしい再会あり、新しい出会いありの楽しい期間でした。

今年のハイライトは、フェスティバルとは直接関係ありませんが、期間中に伝説のデザイナーのお宅を訪問する機会を得たことでしょう。 私も所属する英国インテリアデザイン協会(BIID = British Institute of Interior Design)の日本から来たメンバーのために、澤山乃莉子さんがアレンジしてくださいました。 こんな世界にも稀にみるレベルの私邸を訪れ、デザインしたご本人に案内してもらうなど、一生に何度もない機会です。 乃莉子さん、ありがとうございました!

Stephen Ryan Design & Decoration

その伝説のデザイナーとは・・・ Stephen Ryanという人でデザイナー歴30年以上、世界最高のプロ集団BIIDの中でもそのアートとアンティーク・建築・クラフトに関する知識と美的センスが群を抜いており、数々の賞の受賞歴・メディア掲載歴があります。 現在は西ロンドンでStephen Ryan Design & Decorationという自分のスタジオを経営しています(プロフィール写真はウェブサイトから拝借しました)。

Stephenは、イギリスやデザイン界では知らない人はいないDavid Hicksという稀代のインテリアデザイナーがまだ存命だった時代にDavid Hicksのスタジオでチーフデザイナーを務めており、1980年代にホテルオークラ東京、神戸、アムステルダムの一連のオークラ系列ホテルの客室をデザインしています。 オークラ東京の数百室ある客室は全客室、異なったデザインですべて彼がデザインしたそうです。

日本が大好きで「日本でまたたくさんプロジェクトをやりたい。 日本の皆さんになら見せていいよ」と写真撮影とブログ掲載の許可を頂いたので、ご紹介します。 写真は全て私かご一緒したBIID日本人メンバーが撮影したものですが、プロのフォトグラファーが撮影したものはこちらから見られます。

ノッティングヒルにあるジョージア時代の建造物、総床面積130平米ほどの1階と地下1階がStephenの自宅です。 床も壁も全くない完全スケルトンの状態で10年前に購入しました。 1階から入ってすぐ廊下、地下1階に下る階段があり、左手にリビングルーム、右手にキッチンとダイニングがあります。 キッチンを通り抜けて庭に出られるようになっています。

Stephenの家のすごさは、どこを見てもアート・アート・アート!

長年のアート・コレクターであるStephenが集めたアートの数々が所狭しとディスプレイされています。 そしてアートが完全にインテリアと生活の一部になって生き方に溶け込んでいること、空間の全てが計算しつくされていて、間に合わせで買ったもの・選んだものが皆無であること。

Yoko Kloeden

1階のリビングを入ってすぐの景色。 部屋全体を煌々と照らす蛍光灯はもちろんありません。 全てが間接照明で天井光は調整可能。 床面積は広くないこの家ですが、ゲストを招いておもてなしができるようにリビングは広めに設計されています。

Yoko Kloeden

左を向くとひとつめのソファとアームチェアのペアのセット。 壁にかけられた絵を中心に左右対称の構図。 アートをデザインの起点とし計算し尽くされているのがわかります。 クッションの色はアートの中の赤・青のアクセントカラーから、両脇のアームチェアの布はアートの背景色グリーンです。

Yoko Kloeden

逆方向を向くとふたつめのソファセット。 こちらは暖炉を囲むように左右対称に置かれたシェーズロング(長椅子)ふたつで構成されています。 イギリスの古い家は暖炉があることが多いのですが、買った時には暖炉はなく、アンティークの大理石の暖炉サラウンド(枠)にぴったりサイズが合うように炉胸(鏡貼りになっている部分)を設計したそう。

Yoko Kloeden

ディテールがいちいちすごい。 一番初めの写真にあるコンソールテーブルの上に置かれたトルソー彫像とクリスタルガラスのコレクション。 写真では見えませんが、このうちひとつには中にどこかのお寺の絵が透かしで入っており、日本で購入したものだそう。

Yoko Kloeden

ひとつめのソファセットの左側。

Yoko Kloeden

そして右側。 ソファの肘掛けに高さを合わせてサイドテーブルは同じですが、置いてあるアートは違います。

Yoko Kloeden

大判のアート本・デザイン本のことを"コーヒーテーブルブック"と呼びますが、まさにコーヒーテーブルブックで埋め尽くされたコーヒーテーブル。 床の寄木細工パターンが個性的。 寄木細工の床は非常にヨーロッパ的でヨーロッパではよく見るのですが(イギリスでも最近リバイバル中)、こういうパターンはあまり見たことがない。

Yoko Kloeden

リビングから移動してこちらはキッチン。 いきなり木製の彫刻2台がお出迎え。 年代を聞くのを忘れましたが、数百年もののアンティークでしょう、オックスフォードのショップでお買い上げ。 椅子に座っているのは、この日一緒に歓迎してくれたDaniel Hopwoodという有名デザイナー。 BBCのThe Great Interior Design Challengeという番組に出演していたので、街で一般人が気づくレベルの有名人ですが、Stephenと同じくとても気さくです。

Yoko Kloeden

壁一面に造り付けのキッチン棚、真ん中にセミアイランドがありオーブンやIHの調理場が設置されています。 シンクは洗い物用のシンクが食器洗浄機の近くにひとつ、カクテルなど飲み物をつくる用に小さいものがひとつ、とふたつあります。 セミアイランドの端が高くなっているのは隣にあるダイニングからキッチンの上の汚れ物があまり見えないようにするためと薄型テレビを見やすい位置に設置するためでしょう(右手の壷の下にある黒い画面はテレビ)。

Yoko Kloeden

ダイニングの壁にももちろんアート。 アートを飾る際はライティングは致命的に大事で、絵の上のピクチャーライトは大きさも位置も完璧です。 このことからわかるように、家をデザインする際は、クライアントの手持ちのアートコレクションを把握し、どのアートをどのスペースに飾るか決め、足りないアートを一緒に探します。 イギリスにはアートのアドバイスだけを専門に行うコンサルタントもいます。 見えにくいですが、奥にある木製のサイドボード、これも非常に高価なアンティークで、サイドボードの幅に合わせて後ろの壁の長さを決めています。

このように、建築家が中心に家の箱を決めるのではなく、クライアントのライフスタイル、年齢・体格・ハンディキャップなどを考慮したアーゴノミクス(人間工学)、手持ちの家具・アート、住む予定の期間・目的などに沿って設計するのがインテリアデザイナーの仕事です。

長くなってしまったので次回に続きます。

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レベルの違いが甚だしく、この記事と時期がかぶってしまったのを悔やんでいますが(笑)、本日発売の R.S.V.P. 誌に『インテリアデザイナーが作ったロンドンの住まい』としてp.92より見開き4ページで今年春に改装工事が終了したばかりのロンドンの自宅が掲載されています( こちらの号です)。

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R.S.V.P. 誌はイギリスの暮らしをテーマにしたライフスタイル季刊誌で素晴らしいクオリティーの写真と緻密な取材に基づく充実した内容が特徴。 21号の特集は「美しき湖水地方を訪ねて」なので、特集の方が楽しみかも・・・

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