「民泊」は日本の「おもてなし」の概念に革命を起こした

旅行業界が学ぶことは多い。
LIONEL BONAVENTURE via Getty Images

住宅の一部に旅行客を泊めることができるようにする民泊新法が先月施行されたが、申請数は伸び悩んでいる。役所での手続きの複雑さが主な原因と指摘されるが、私は、日本と海外の「おもてなし」の概念の違いも一つの原因ではないかと考えている。

大手民泊サイト「エアビーアンドビー(以下、エアビー)」が日本語版をスタートさせたのが2013年。当時はコマーシャルで、主婦が自宅の一室に白人の若い男性を泊め、朝ご飯を作ってもてなす姿が映し出された。これにより、「民泊」を始めたい人は、ご飯を作ってもてなさなくてはならないという誤ったイメージを与えてしまった

私は、今月から新潟県南魚沼市の空き寺を改築し、簡易宿泊所の許可を取って、エアビーに掲載した。それを知った知人たちから、何度も何度も「ご飯は誰が作るの?」「送迎はどうするの?」「精進料理作らなくていいの?」などと言われた。

現在、エアビーには1万件の物件が掲載されているが、ほとんどが「家主不在型」だ。ゲストは、ネット上で予約をし、クレジットカードで決済され、ホストからドアの開け方などが書かれた案内文をメールでもらい、ホストとは一度も会わずに滞在を終える。日本でいう「おもてなし」はどこにもないのだ。私のお寺民宿も全く同じで、私がご飯を作ることも、妻に負担をかけることもない。

それでは、ここでいう「おもてなし」とは何なのか?海外からの旅行客はニーズが多様だ。食べる時間から、食べる物まで異なり、温泉が嫌いな人もいれば、好きな人もいる。そんなニーズに応えられるように、それぞれの宿泊先でどんな選択肢があるのか、しっかり情報提供するということが「おもてなし」なのだ。客が自分たちで情報が探せるように、Wi-Fiを設置することは当たり前で、彼らが出先でもネットに繋げられるよう、ポケットWi-Fiを無料で貸し出すところもある。

午前7時に焼き魚を食べる人というのは世界でもかなりの少数派である。外国人の多くは、長い時間かけて作った焼き魚定食を朝ご飯に出されるより、その分宿代を安くしてもらって、最寄りのコンビニへの案内図を部屋に置いてもらった方が喜ぶ。ハラールのご飯はどこで食べれるか?寿司屋、ラーメン屋、日本食に飽きた人のためにイタリアン、それぞれどこにあるのかを英語でガイドブックにまとめておくことが「おもてなし」なのだ。

これにより、送迎する人、会計をする人、料理を作る人などの人件費はすべてカットでき、一般の旅館よりも格安で泊ることができるようになった。これこそ、民泊が起こした「おもてなし革命」なのだ。

私のお寺民宿は、7月10日にエアビーに掲載され、すでに予約が12件入り、先週末にお客様第一号が来た。東京に住むオーストラリア人と日本人のカップル。南魚沼市は「観光地」としては全く有名ではないが、彼らは私が貸した自転車やJRのローカル線で周辺を散策し、ハイキングに行ったり、ラフティングに行ったり、ホタルを見たり、地元の花火を見たりした。ご飯は、コンビニで買ったり、人気の焼肉屋に行ったりした。

「民泊」=「インバウンド」というイメージがあるかもしれないが、予約してきた12人の内、半分が日本人だ。つまり、民泊が起こした革命は日本人にもある程度浸透しているということである。

特に小さい子連れの場合、20平方メートル以下のホテルの部屋より、洗濯機があって30平方メートル以上ある一般のマンションの方がありがたい。夕食が午後6時とか決められてしまうと、時間内に到着できるか不安になる。私の子どもが0歳の時、朝8時に朝ご飯を食べなければいけないのが一番辛かった。私が子どもの夜泣き対応をし、午前6時ごろに妻と交代するシフト制だったため、朝9時くらいまでは寝ていたいのだ。

「おもてなし」とは、お客様の身の回りの世話をすべてしてあげることではなく、お客様が自分たちの時間の過ごし方を自由に決めることができる環境を作ってあげること。「闇民泊」ばかりが報道されてネガティブなイメージばかりが先行するが、民泊が起こした革命から旅行業界が学ぶことは多い。

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