森友学園の実態にショックを受ける前に私たちが考えなければならないこと

声を上げやすい、風通しのいい社会がどうすれば作れるのだろう?

森友学園の一連の騒動で私が一番ショックだったのは、学園が運営する幼稚園で2015年秋の運動会で「安倍首相頑張れ」と園児が言わされていた事実が、1年以上も明るみに出なかったことだ。その場にいた保護者や学校関係者全員が「おかしい」と思わなかったのなら、そんな空間がこの国に存在するという事実に背筋が凍りつけられるし、もし「おかしい」と1人でも感じたのなら、それを何らかの形で私たち一般市民と共有してほしかった。そんな人たちが声を上げやすい、風通しのいい社会がどうすれば作れるのだろう?

そんな事を考えながら、先日、新潟県内のある専門学校の入学式に参加する機会があり、そこでちょっとしたヒントを得た。式には入学生と保護者合わせて400人近くが参加。こういう式典に参加するのは自分が高校生の頃以来20年振りだったから、少しは変わったかと期待したが、全く変わっていなかった。おそろしく退屈なのである。

退屈な最大の要因は、祝辞が長くてつまらない。学校のトップ、運営する法人の理事長、親大学の学長、自治体の首長、県議会議員、保護者の会会長と総勢6人がスピーチ。この学校がどんな偉人を輩出しているか、勉学だけでなく友人との交流や趣味を楽しんでほしい、主体性と生きがいをもってやってほしい、皆さんの分野は人材不足、などなど、6人がほとんど同じことを繰り返し話している。

個人的な話も、旬な話もなく、去年の入学式のスピーチ原稿をそのままコピペしていたとしても全然通用する内容だった。主体性のかけらもない演説をする人が「主体性」とか話しているのをみるのは苦痛でさえあった。

6人中5人が予め用意された文章を棒読みし、中には、それを読みながら「入学生の皆さんの緊張した表情を今日拝見し」とか言っていた。当日朝、学生の表情を確認してから、式が始まるまでの短時間で、来賓待合室で筆ペンで分厚い紙に長い文章を用意した可能性はなくはないけど、もしそうでないのだとしたら、とても失礼な話だ。

より深刻なのは、それを聞く保護者たちの様子である。かなりの割合でスマフォを眺めている。眺めているだけでなく、何かしら文字を綴っている人もいる。私同様、「つまらない」と感じているのだろう。駐車場にある車のナンバープレートを見ると、片道2, 3時間はかかる地名が多い。仕事を休んで、そんな遠方からきて、退屈な時間を過ごさなければならないことに不満はないのだろうか?

「つまらない」と感じるなら、「つまらない」と声を上げてみてはどうだろう。毎年、毎年、「つまらない」という声が届き続ければ、少しは入学式も変わっていくのではないか。

「そんなクレームをつけたら子どもが目を付けられる」と恐れるなら、匿名で電話や手紙で感想を述べる方法はいくらでもある。(私がこの記事で学校の名前を出さないのは、この理由ではなく、これがこの学校だけに限った問題ではないと思うことと、私がたまたま参加したというだけで、森友学園と同じ記事に登場させられるのはあまりにも酷だと思ったから)

私が入学生の親だったら、こういう提案をするだろう。

  1. スピーチ原稿の棒読みはやめてほしい。
  2. 学校関係者と来賓のスピーチは多くて2人までにしてほしい。
  3. スピーチの内容も、個人的体験を交えたり、お祝い行事なのだから、笑いを取り入れたりしてほしい。
  4. 入学生代表の宣誓がステージ上で来場者を背に学校長に向けて行われたが、来場者に向けてするものにしてほしい。そして、宣誓の時間を来賓の方のスピーチ時間よりも長く割り当ててあげてほしい。
  5. 来賓の選定は入学生と在校生にしてもらってはどうか。学校の卒業生の中から選ぶとか工夫がほしい。

こんなこと書くと「お前は日本の伝統を継承したくないのか」とか言われそう。でも、伝統は常に変容しているし、私は「つまらない」という自分の感覚に正直でありたいし、他の人にもそうであってほしい。大学や専門学校はどこも定員割れで大変な時だ。だからこそ、入学生や保護者の声には敏感にならざるをえず、こういう時こそ、「つまらない」慣行行事を変えるチャンスである。

飛躍した議論だとはわかりつつ、4、5歳児が「安倍首相頑張れ」と宣誓させられていた事実が1年以上も埋もれていたことと、私たち一般市民が教育機関の「つまらない」慣行行事に声を上げてこなかったことの間に、遠い因果関係があるような気がしてならない。

私も「モンスターペアレント」とレッテル張りされるのは怖いけど、自分の生後7カ月の息子が周りの空気を読みすぎて、自由な発想ができない「つまらない」子にだけはなってほしくないので、できる限り、息子を取り巻く教育環境について皆さんと情報共有していきたいと思っている。

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