育児は妻に任せ、「女性に重い物を持たすな」とか言う偽善行為はもうやめましょう

育児という時間に不規則な力仕事を妻に任せる男性の偽善ぶりに腹立たしくもなった。

昨年9月、長男出産後に妻が亡くなり、育児の肉体的ハードさを日々痛感している。一応、私は、オランダの元アマチュア野球選手で、週4〜5回ジムに通う「運動オタク」。そんな、私でさえ、生後1カ月ほどで腰や手首が痛くなった。

常時、睡眠不足の状態で8キロになった長男の世話は、力仕事以外の何物でもない。ベビーカーでお出かけ中に、階段を上らなければならない状況に出くわすと、気が滅入る。と同時に、「女性に重い物を持たすな」とか「女性に夜遅くまで仕事させるな」とか言いながら、育児という時間に不規則な力仕事を妻に任せる男性の偽善ぶりに腹立たしくもなった。

よく、「ミルクやお風呂もすべて黒岩さんがやっているの?」などと感心されるが、私にとって一番大変なのは「寝かせつけ」だ。抱っこしないと寝てくれないことが頻繁にあり、「腰が痛い」という77歳の母に頼みづらいし、姉や育児経験のある友人にも8キロの長男を数十分持ち続けてもらうのは心苦しい。先日、姉宅に遊びに行った際、大学でアメフトをやっていた義兄に抱っこしてもらい、簡単に長男を寝かせつけてくれた。「おにいさん、育児に向いているよ!」と義兄に深く感謝した。

母乳は女性にしかできないし、出産前の10カ月間、女性の体の中に子どもはいるわけだから、自然と育児の主導権を女性が握ってしまうのは仕方ない部分もある。私たち夫婦の場合、妻が国連職員で私が主夫だったため、妻が死ななくても、私が家で育児に専念するつもりだった。しかし、出産前の赤ちゃんグッズの準備は、妻が取り仕切っていた。自分の体の中に生命が宿っているわけだから、親近感に差が出てしまったのは否めない。

体力以外でも、女性より男性が育児に適していると思える部分は少なくない。まず、男性の場合、母乳は無理だから、粉ミルクで育てなければならない。母親の母乳が赤ちゃんにとって一番良いとされているし、それに疑問を呈するするつもりはない。

しかし、粉ミルクでの育児にも利点はある。赤ちゃんが欲しがる時に欲しい量だけあげられる母乳と違い、粉ミルクは胃に負担がかかりやすく、一定の時間を空けてからあげることが推奨されている。実際、私の長男も、最初、欲しがる度にあげていたら、頻繁に泣き、間隔を空けるようにしたら、よく寝るようになった。今は、1回で200ミリリトル以上を飲み、最低5時間の間隔を空けるようにしている。

この違いは親と乳児のコミュニケーション方法に大きく影響する。母乳なら、くずったらおっぱいを吸わせればそれでいいのだが、粉ミルクはそうはいかない。本を読ませたり、音楽を聞かせたり、抱っこしたり、話しかけたり、鏡を見せたり、散歩に連れて行ったりして、次のミルク時間まで粘ろうとする。これによって、どんな抱き方を好むとか、どんな絵本や音楽が好きとか、どんな座り方が落ち着くとか、日々考え、様々なあやし方を編み出していく。

完全母乳で育った1歳児がいる友人夫婦宅に1週間お世話になったことがあった。当初、友人は妻を亡くした私を気遣って「深夜のミルクやり、私が引き受けますから、ゆっくり寝てください」と言ってくれていたが、いざ、長男を抱くと、「母乳以外の子どものあやし方を知らないから怖くなった」と、結局、深夜のミルクは私がすべてやった。

保育園の一時預かりを利用したことがあるが、プロの保育士でさえ「すいません。泣き止まないので、ミルクあげてしまいました」と、たった2時間の間隔でミルクをあげてしまう。その日は、帰宅してから、長男からいつもの笑顔がなくなり、ぐったりした様子だった。何人もの乳児を世話してきたプロの保育士でもわからない、私と長男との間の特別なコミュニケーション方法が確立された証拠である。

女性より男性の方が育児に適している部分は他にもある。出産後、ホルモンのバランスを崩したり、母乳が出なかったりして、女性は精神的に追い詰められやすいが、男性にその心配はない。私の長男の様に、喫茶店に入ると大はしゃぎするような「お出かけ好き」な場合、赤ん坊が入ったベビーカーを持ち上げられる力が私にあるかどうかが、子どもの発育にとって、とても重要になりうる。

とにかく、育児を妻に任せておいて、「女性に重い物をもたしてはいけない」なんて言う偽善行為はもうやめましょう。その代わりに、男性にも育児に適している部分は多くあるのだから、それらを最大限に活用するにはどうすればよいか考えてみませんか?

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