年末年始の帰省ラッシュ。「大変だ」と決めつけず、こういう時にしかできない楽しいことにチャレンジしてみよう。

「あのー。すいません。その醤油いただけませんか?」

妻と1歳の長男と3人でグアムへ新婚旅行に行き、12月28日に帰国した。そしたら、運悪く、成田空港から新潟へ電車で行く際、年末年始の帰省ラッシュに飲み込まれ、東京駅は大混雑。乗り換え時間が1時間ほどあったから、どこか構内のレストランで昼ご飯を食べようかと思っていたら大間違い。スーツケースとベビーカーを引き連れて入れるような場所はなく、それどころか、エレベーター前にはベビーカーの行列ができ、ホームからコンコースにあがるのも10分ほどかかった。

弁当買うにもどこの店にも行列ができ、一番空いているという理由だけで、私はタイ料理の弁当屋で買い、妻は寿司屋でチラシ寿司弁当を買った。新幹線発車までの時間、どこかに座ろうにも、待合室は大混雑で、座る場所を見つけるのも大変だった。

やっと新幹線に乗って、さあ昼飯だ!と思ったら、妻が「醤油がない!」と言い出した。醤油を入れる用のプラスチックの薄い小さな皿やショウガのパック、割り箸などは弁当袋に入っているのに、肝心の醤油がないという。時間は午後1時でお腹はペコペコ。確かに、醤油なしでお刺身がたくさん入ったチラシ寿司弁当を食べるのはもったいない。弁当屋に文句を言うこともできない。かといって、新幹線内で醤油を手に入れるのも難しい。

私は「売店に行って聞いてみたら?」と言い、妻は行ってみたが、だめだった。妻は仕方なく、「保冷剤があるから、家に着くまで我慢する」という。うーん。私だけタイ料理のガパオライス弁当を食べるのも気が引ける。かといって、家に着く午後3時頃まで我慢はできない。醤油なんて、どこにでもありそうなものなのに、それがないがために、昼ご飯を食べられないなんて、あまりにも不条理だ。すでに旅で溜まった疲労はピークに達した。

その瞬間、私の頭の中の電球が「パ!」と光った。

私は周りを見回した。家族連れで満席のお昼時の新幹線内はお弁当だらけだ。いたるところでお弁当が開けられている。間違いなく、醤油が入った弁当を持っている人はいるはずで、その人が醤油を全部使うとは限らない。私の隣に座った50代くらいのおじさんも弁当を食べていたが、中身はそぼろ弁当で、残念ながら醤油はないようだ。

私は「『醤油分けてくれませんか?』って聞きまわったら、絶対くれる人いると思うよ」と妻に言うが、「そんなこと恥ずかしくてできないよ」と言われる。まあ、そうだな。そんな人見たことないし、そこまでやる話じゃないよな、と自分に言い聞かせた。

先月、歩き始めた長男は、座席でじっとしていることが苦痛のようで、車内の通路をテクテク歩きたがる。その長男に、私はボディーガードの様に後追いする。そしたら、車両の一番後ろの座席の台の上に、空っぽの弁当箱の中に「しょうゆ」と書かれたパックが視界に入った。パックは膨らみがあり、空っぽとは思えなかった。所有者の40代くらいの女性は、その弁当箱をビニール袋に入れようとしていた。

その瞬間、私の口が反射的に動いてしまった。「あのー。すいません。その醤油いただけませんか?」。女性は一瞬何が起こったのかわからない様子で「はい?」と聞き返し、私は「実は、妻が買ったチラシ寿司弁当に醤油が入っていなくて、お弁当に付いていた醤油が残っていたらいただけないかと思いまして」とビニール袋を指さして、聞き直した。

女性は「え?醤油?」と、慌ててビニール袋の中に手をやり、隣に座っている夫と思われる男性が「醤油ですか?ハハハ」と笑い始め、「半分くらいは使っちゃいましたけど」と申し訳なさそうに言った。それにつられて女性も笑い、私が「ショウガとかは入っていたのに、なぜか肝心の醤油だけはなくて」と言うと、女性は醤油を差し出しながら「箸はありますか?」と尋ね、「はい大丈夫です」と返した。

それを横で見ていた妻も大笑いし、「本当にやるとは思わなかった」と疲れも吹っ飛んだようで、チラシ寿司をパクパク食べ始めた。

家族連れで新幹線が満杯じゃなかったら、あれほどの数の弁当箱は車両になかっただろうから、帰省ラッシュならではのエンターテイメントだったと言える。年末年始に子連れの大移動は大変なことが多いが、やりようによっては楽しいこともたくさん見つかるかもしれない。皆さん、よいお年を。

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