ステージ4のがん患者が、治療に前向きになった2つの言葉

医師は、確実ではない言葉はかけないので、主治医も「絶対大丈夫」などとは絶対言ってくれません。

デザイナーの広林依子と申します。私は現在29歳の、ごく普通の女性で、独身です。友達とカフェでワイワイ話したり、おしゃれを楽しんだり、ときには海外旅行に出かけたりしている普通の生活を送っています。他の人と違うのは、3年前の26歳のときに乳がんを宣告され、そのときすでに骨に転移しており、それからステージ4のがん患者人生を送っていることです。

このブログでは、デザイナーの私が考えた、【ステージ4のがん患者のライフデザイン】の1例を紹介していきます。今回は、治療を一時放棄したときや、ネガティブになってしまったときに、私を前向きにしてくれた言葉についてお話しようと思います。

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・「患者が言ってほしいと思っている言葉」を言ってもらう

私は、ステージ4のがんと診断されたときに、医師の説明などから「治療すれば治るもの」と思ってしまい、本当は生きている限り"永遠に治療が続く"ということを、ちゃんと理解せずに治療に取り組み始めてしまった失敗がありました。

医師は、確実ではない言葉はかけないので、主治医も「絶対大丈夫」などとは絶対言ってくれません。

その事実を後で実感したショックから、一時期は治療を一切放棄してしまったこともありました。それまでもステージ4のがんを生き抜くための様々な方法を考え、行動してきましたが、やはり「永遠に治療を受け続けなければいけない」という事実は非常に重く、なかなか受け入れることができなかったのです。

かといって、自分の状況を人に相談することも難しいのです。親は第二の患者とも言われており客観的な意見を聞きづらいですし、同世代の友人のなかには、若くしてがんになった私とどう接すればいいのか分からなくて、去っていく人もいました。

その頃は、抗ホルモン薬と骨を強くする薬の投与を放棄し、主治医からの電話も無視し、病院に行くのを止めてしまいました。

一般的には死を悲観的に捉える方が多いかもしれませんが、死をそこまで暗いことだと考えていなかった私は、病気と向き合うのを一時的に止めてしまったのです。永遠に治療してまで生きることに強い意味を見い出せず、生き続けることに消極的になっていたのかもしれません。

しかし、治療を放棄して半年ほど経った頃、私の信頼できる友人、その名も【くまちゃん】が、私の手を握って力強く言ってくれました。

「長生きしてほしいから治療してほしい」と。

これが私の心に強く突き刺さり、「治療しよう」と決めるきっかけになりました。

そのときは、「絶対治る」といった励ましや、逆に「一度がんになったらもう治らない」といった意見など極端なことを言われることが多く、「長生きできる」なんて誰も言ってくれませんでした。だからこそ、言ってほしい言葉だったのだと思います。【くまちゃん】が思いをストレートに伝えてくれたことで、私は前向きになれたのです。

それ以来、【くまちゃん】は、診察に一緒に付いてきてくれ、治療をどうしていくか一緒に戦略を練ってくれる、非常に頼れるパートナーになってくれました。

「絶対に大丈夫」「長生きできる」。闘病中にそういうふうに言ってくれる人は、意外と少ないです。下手なことを言って、余計に傷つけてしまうんじゃないかと考える人が多いからです。だけど、体調が辛くて心細いときに、そう言ってもらえることは非常に力になります。

もちろん、患者さんと関係性によっても変わりますし、相談が必要ではありますが、患者さんの話をヒアリングし、どんどん前向きな言葉をかけてあげて欲しいです。

「元気でいてほしい」「ずっと味方だから」「がんの経験は価値のあるすばらしい経験だ」などでもいい。「治る」という極端な言葉をかけるのではなく、患者さんの気持ちがふっと上がるような、相手に対して素直に感じた想いを丁寧に言葉にしてほしいと思います。

・2016年10月、がんになった気持ちを吐き出せる『居場所』がオープン

もうひとつ、体調が悪くてどうしてもネガティブになってしまったときに、かけてもらった大切な言葉があります。

がん患者さんは、あまり人に悩みを話せないことが多く、悩みを溜め込んでしまう方が多いです。そんな人のために、2016年10月に東京・豊洲に【マギーズ東京】がオープンしました。

マギーズ東京とは、イギリスにあるがん患者や家族、医療者などがんに関わる人たちのためのケア施設【マギーズキャンサーケアリングセンター】の日本第1号施設です。

イギリスの各地にあるマギーズセンターの建築には、ザハ・ハディッドや黒川紀章など有名な建築家がボランティアで協力しており、どこもまるで居心地のいい家のような空間であることが特徴です。

がん患者さんの気持ちを理解し寄り添う、そんなマギーズキャンサーケアリングセンターの哲学に非常に感銘を受け、私は以前からマギーズ東京のプロジェクトを応援していました。

設立前のイベントなどに参加したときに出会った現マギーズ東京の初代センター長・秋山正子さんに、自分の素直な悩みを相談したところ、とても気持ちが癒され心がほぐれた言葉をいただけたのです。

当時は、自分が永遠に治療を受け続けながら生きていくことに苦痛を感じ、生き続けることに消極的になり、「どう主治医と向き合っていけばいいのかわからない」「抗がん剤治療を受けたくない」などといった自分のネガティブな一面に嫌気がさしていて、そんな自分と決別したいと思っていました。正直な気持ちを話したのです。

すると秋山さんは、「ポジティブな自分もネガティブな自分も自分であり、そんな自分をまるごと引き受けて、自分に【ご褒美】をあげてください」とおっしゃってくれました。

「そんな自分をまるごと引き受けて、自分に【ご褒美】をあげてください」

秋山さんの言葉を聞いて、「そうか、ネガティブな自分も自分なんだ。そんな自分を捨てるのではなく、癒やしてあげる。そんな姿勢が大切なんだ」と目からウロコが落ちました。この言葉がストンと自分の中にはいってきて、「ありのままの今の自分を受け入れてあげよう」と思うことができました。

マギーズ東京では、治療や悩みを相談するだけでなく、ただ泣きに来たり、くつろぐだけでも良い場所。どんな患者さんもそっと寄り添って受け入れてくれます。オープン後は私も何度か行って心地よい時間を過ごしています。

マギーズ東京は、施設の建築デザインにも特徴があって、とても居心地がいいのです。すべて仕上げ材が天然の木で作られていて利用した人の痕跡が残るようになっていたり、プライバシーを確保しつつ視界がとても広く感じられたり、植栽が可愛らしくみえるように植えられていたり。また、防音の配慮がなされ、柱が外周にあるので守られてる感じがしたり。マギーズの想いを汲む工夫がたくさんあり、非常に素晴らしい施設です。

大事なのは、患者さん本人が前向きに治療を取り組み、より良い人生を生き抜くこと。私は【くまちゃん】や秋山さんの言葉が、すごくうれしかった。誰かの言葉が、前を向くきっかけになることもあるのです。私も大切な友人には、相手に寄り添った言葉をかけるようにしています。みなさんも大切な人に、あなたの想いを丁寧に言葉にして伝えてあげてください。

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