想いだけでは地域活性を続けられない――地方食材の魅力伝える「ご当地酒場」とは

「ビジネスとして成立していないと地域活性は続けられない」
吉田瞳

「アンテナショップ飲食店」というジャンルをご存知だろうか?特定の地域をテーマにし、地域のこだわりの料理を提供する飲食店のことだ。

その中でも、民間運営でありながら、あまり知られていない町に目をつけて地域と二人三脚で歩む独自の展開で注目を集めているのが「ご当地酒場」。「北海道八雲町」「北海道厚岸町」「佐賀県三瀬村」など、全国的には決してメジャーとは言えない自治体の名前を店名に冠し、地域のこだわり食材を使った料理を提供している。

例えば、「ご当地酒場 北海道八雲町」では、八雲町の新鮮なホタテ、ホッキ貝、ツブ貝などを生きたまま楽しめるほか、直送で仕入れたトマトやじゃがいもなど、八雲町の食材をまるごと味わうことができる。

このユニークなお店の発案者、株式会社 fun function(ファン ファンクション)代表取締役の合掌智宏さんに、「無名の地域にビジネスで関わる」ために必要な視点を聞いた。

きっかけは、肉厚なホタテに感動したこと

合掌さんがこのビジネスモデルを着想したのは、北海道南部の八雲町に転勤した友人が送ってくれた魚介類がきっかけだった。

例えばホタテ。見たこともないほど肉厚で高い貝柱を持っていた。

「食材が素晴らしくて感動しました。良質なのに、そんなに高くない値段で食べることができるんです。それで八雲町のことを色々と調べました。そうすると、調べれば調べるほど素晴らしい食材がたくさんあったんですね。こんなに素晴らしい食材がたくさんあるのに知られていないということに驚きました」

fun function

地域のこだわり食材を使った飲食店を始めようと考えた合掌さん。感動した勢いそのままに、「八雲町の食材を使って一緒に飲食店を作りたい」というプレゼンをするため、北海道八雲町役場へ飛んだ。

「最初は、『何を言っているんだろう、この人は』みたいな感じでしたね」

「八雲町という名前を掲げて集客ができるとは思えない」「店の名前は、知名度のある"函館"にした方がいいんじゃないか」という声も多かったという。

「でも、八雲町の食材を使ってPRをすること自体は喜んでくださって、応援をしていただけることになりました。町役場の方と一緒に、生産者の方のもとへ仕入れの交渉に行った時に、役場の方のご協力のありがたさを感じました。『役場の方が一緒にやっているんだったら、ぜひそういうところに出してみたい』という生産者さんが多かったんです。役場の方にご協力いただけたことによって、生産者の方との関係構築がスムーズに進んだと思います」

初のご当地酒場「北海道八雲町 三越前店」をオープンしたのは2009年。オープン後半年が経った頃、八雲町の役場の方に公認を受けることができた。「地域のPRをするアンテナショップとして、ぜひ関わっていきたい」という言葉とともに。

「役場の方には、視察のために何度も僕たちのお店に足を運んでいただきました。その中で、自分たちの産品が食べられて喜ばれているところを見て認めていただけたんだと思います。公認のために何か特別なことをするというよりも、誠実にお店を運営している姿勢に共感いただいたのではないでしょうか」

現在でも、役場のフォローを受けてスタッフさんたちが産地へ実際に行き、生産者の方に会ったり、役場の方とお話しをしたりと、現地の協力があってこそ成り立っているのだという。

合掌智宏

「役場の方たちも我々を育てようとしてくれているんです。うちのスタッフが育って町のことを語れるようになれば、PRにつながると思っていただいているからこそですね。スタッフたちも、実際に行ったこともないところをPRするというのはなかなか難しいことです。現地に足を運んだことによって、こんなに素晴らしいところなんですよと伝えられるのはすごく大きいかなと思っています」

そして、「ご当地酒場」の拡大を通じて、八雲町と同じような動きが各地に広がっている。

カキの値段が1.5倍に!産地と二人三脚でのブランディング

ご当地酒場のもう一つの例として合掌さんが挙げるのが、「カキ酒場 北海道厚岸」だ。北海道東部に位置する厚岸町のカキを、厚岸漁協の協力を得て出品している。

「関わらせていただいてから、価格に一番貢献できたと思う産地です。驚くほど素晴らしい商品なんです」

fun function

合掌さんがこう断言するのには理由がある。

一般的に、カキの養殖は海だけで行われるが、厚岸では、汽水湖(海水と淡水が入り混じっている湖)と海の両方でカキを育てているのだ。汽水湖では落ち葉や土などの栄養分が豊富で、カキの餌となるプランクトンも多く発生している。湖と海、2つの環境を経験させることで、栄養分をたくさん摂取したおいしいカキを作ることができるのだそう。

カキを船に乗せるために移動させるのは重労働だし、作っていく上では海水のみで育てていく方が早い。しかし、1年程度出荷を遅らせてまで、厚岸ではカキの味にこだわっているのだ。汽水湖と海、2つの環境を経験しているカキは厚岸産のみだといわれている。

このこだわりのカキに合掌さんたちが関わり始めたのは5年ほど前。

漁師さんのご協力のもとでの現場の見学を始め、厚岸の食材について様々なことを教えてもらったという。スタッフたちが厚岸の食材について語ることができるよう、地域の方々は惜しみない協力を寄せてくれた。

地元の方々とスタッフさんたちの二人三脚で取り組んだブランディングの結果、現在の厚岸のカキの価格は、5年前の1.5倍となった。

「価格が1.5倍になるというのは本当にすごいことだと思います。つまり、漁師さんたちの年収も1.5倍になっているということなんですよね。決して僕たちだけが努力しているわけではありませんが、お互いに少しずつブランディングが成功しているという実感があります」

そんな取り組みの結果、「カキ酒場 北海道厚岸」は2016年・17年のミシュランガイド・ビブグルマンにも掲載された。

「漁協の方が僕たちに、お客様に伝えるための武器を多く与えようとしてくれているんです。こだわりにかけたぶんの手間を、もちろん味としてお客様に判断していただければいいんですが、『ここまでやっているんですよ、だからおいしいんです』という理由を伝えたかったんです」

地域に入りこむことに愚直に取り組んできたからこそ、その言葉には説得力が生まれる。

「ビジネスとして成立していないと地域活性は続けられない」

合掌さんが飲食産業に携わったのは、前職での内装の仕事がきっかけだった。もともと自分で商売をやりたいと考えていた合掌さん。そんなとき、飲食店の内装を手がける仕事があった。その仕事をきっかけに飲食店に興味を持った合掌さんは、仕事で知り合った飲食店の社長のもとでアルバイトとして働き始めた。

「飲食店の仕事は、直にエンドユーザーとお話しができる機会が多いですよね。それがおもしろかったんです。良いサービスと料理を提供したら、直接『ありがとう』という感謝の言葉をいただける。お金をいただいたのにもかかわらずです。こういう商売はなかなかサービス業以外にないですよね。人に喜ばれるのが自分にとって最大の喜びなので、すごく良い仕事だなと思いました」

それから出身地の福井県にある飲食企業に入社。店長として新規店舗の立ち上げに数多く携わった。そんな合掌さんが独立して生まれたのが「ご当地酒場」だ。

fun function

人を喜ばせることが原点となって起業をした合掌さんは、食による地域のブランディングに必要なことについてこのように語る。

「想いだけでものは作れません。ビジネスでお金を儲けるために作っているので、自分がやりたいことともの、そして価格が合致しないと、齟齬が生まれてしまいます。例えば、1瓶3000円のトマトジュースを作っても厳しいものがありますよね。農家さんが頑張って作ったものが全く売れないという日本中の現状があります。良いものを作るだけでは買ってくれる人はいないので、想いだけで作り始めるのは避けた方がいいなって思いますね」

「想いだけではいけない」と言う合掌さんだが、それは「想いがある」ことが前提だという考えの裏返しでもある。それは「今後やってみたいこと」への答えによく表れていた。

「地方の方たちが主体となって、東京でアンテナショップ飲食店をやりたい、という想いのあるところをお手伝いしていきたいです。きちんとビジネスとして成立していないと地域活性は続けられないし、想いだけではやっていけない。だからこそ、ビジネスとして成立させる部分を含めて貢献できるお手伝いが必要なんです」

吉田瞳

【編集後記】

合掌さんが繰り返し語られていた「想いだけでは続けられない」「ビジネスとして成立させないと地域活性はできない」という言葉が特に印象に残りました。

私自身も「よいものを書けば、何かにつながるはず」と感情だけでよく動いてしまいますが、それでは自分の想いの押し売りになってしまいます。自己満足に陥らない視点の大切さに気付かされた取材となりました。

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(この記事は、"ハートに火をつける"Webメディア「70seeds」から転載しました)

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