就職活動を始めた大学生はNHKのお天気お姉さん・井田寛子さんに学べ。

昨年の12月に大学生の就職活動が解禁されて2か月がたった。景気の好転によって採用の環境は多少マシな状況になったかもしれないが、企業は人数の確保を優先するとは思えず、「量より質」の厳選採用が今後も続く事は間違いないだろう。

昨年の12月に大学生の就職活動が解禁されて2か月がたった。景気の好転によって採用の環境は多少マシな状況になったかもしれないが、企業は人数の確保を優先するとは思えず、「量より質」の厳選採用が今後も続く事は間違いないだろう。

意中の企業・業界から内定が取れなかった学生はどうすればいいか。ここで困るのが卒業後3年間は新卒扱いという話だ。建前だけで実際には門前払いという事ではないようだが、不利になる可能性が高い事は間違いない。かといってもう1年余計に在籍して就職浪人をしたり、就職を先送りして大学院へ進学したりといった事は誰もが出来る判断ではない。

そこでお手本となるのがNHKのお天気お姉さん、井田寛子(いだひろこ)さんだ。

■井田寛子さんって誰?

井田寛子さんは現在、NHKで午後9時から放送されるニュースウォッチ9に出演しているお天気お姉さんだ。ウェブで検索してみると人気のある人のようで沢山の情報が出てくる。

以前はたまに見かける程度でさほど気にもしていなかったのだが、ニュースウォッチ9の気象コーナーは他の番組と何か雰囲気が違う。やけにテキパキしていて喋りが上手い。解説の仕方も普通のお天気お姉さんとは随分違うように見える。

この人は何か違うなと思ってウェブで調べてみると、大学では宇宙化学を学び、製薬会社を経て気象予報士になったという。なんとも異色の経歴だ。どうすればこんなルートになるんだろう?と不思議でしょうがない。最近では女子大生やAKB48のメンバーでもお天気お姉さんをやっている位なので、タレント等を経由したのかとも思ったが、ただ原稿を読んでいるだけの素人とも思えない。

■気象キャスターになりたい人へ伝えたいこと。

なんとも不思議な人だと思って井田さんの著書である「井田寛子の気象キャスターになりたい人へ伝えたいこと」を読んでみてやっとわかった。井田さんは度重なる挫折を経て全国区の気象キャスターになった努力の人だ(当初はお天気お姉さんと書いたが、書籍の中ではお天気お姉さんという呼び名も嫌いじゃないけど、私は気象キャスターという意識で仕事をしています、と書いてあるので、以降はそのように表記する)。

小さいころから動物・生物好きだったという「理系女子」を自認する井田さんは、大学受験で獣医学部を受験するが失敗してしまう。その後は就職活動でTV局を志望するが希望はかなわない。筑波大学出身で製薬会社に入った事を考えれば十分勝ち組のようにも思うが、意中の業界に入れなかったという意味では本人にとって納得のいかない結果に違いない。

もしこのような状況になったらどうするべきか? これは多くの学生にとって切実な問題だ。当初の夢はあきらめてそのまま内定を取った会社に入る学生がほとんどだろうが、どうしても行きたい会社、行きたい業界があれば最初に書いたように就職浪人や大学院への進学もありうるだろう。「新卒カード」をどのように使うかは学生にとって極めて深刻な問題だ。どうにかしてTV業界にもぐりこむならば下請け・孫受けの制作会社に就職する道もあるだろうし、あるいはアナウンサーになりたかった人が夢敗れてタレントになるような例もある。

結果として井田さんは製薬会社に就職するわけだが、書籍の中では仕事は充実していたように読み取れる。病院の医師に一対一で薬の説明をしたり、新製品発表会で商品の説明をしたりといった仕事をしていたという(いわゆるMR)。これだけTV業界と関係の無い職種についてしまえば当初の夢はあきらめるのが普通なのだろうが、井田さんは全く違ったようだ。 それどころかこの経験はTV業界で生かせると考えたに違いない。

具体的には医者や関係者へのプレゼンで磨いた能力は、TVで人前で喋る能力としても十分活用できると考えたのではないか。結果的に情報番組のキャスターとして採用され、その後は理系女子の経歴を生かして、多忙な仕事のさなかに何度も不合格になりながら気象予報士の資格を取り、気象キャスターになったと書籍には書いてある。

■気象キャスターへのステップアップは偶然か必然か?

さて、これは偶然なのだろうか。放送業界への夢を一度はあきらめた時期もあると書籍では書かれているが、経歴を見ると製薬会社の在籍期間は2・3年程度のようなので、かなり早い段階で「今のキャリアの延長線上にTV局への道を築く事は出来る」と考えたと思われる。表面的には薬に関する仕事と放送業界はあまりにかけ離れているが、「正確に情報を伝えるという本質の部分で応用がきく」と考える事が出来た事はおそらく井田さんにとってキャリアチェンジの大きなきっかけになったのだろう。

もちろん、このように書くと簡単だが、実際には全く畑違いの業界に転職する状況をリアルに考えてみれば「華麗な転身」などと軽々しく言えるわけもなく、胃が痛くなるような不安や悩みを抱えての決断だった事は想像に難くない。

■気象情報を「プレゼンテーション」する異色の人。

井田さんの解説は他の気象キャスターとかなりスタイルが異なる。これは過去の経歴を考えればそれが十分生かされていると考えて良いのではないか。そう、井田さんの天気予報は気象情報が書かれた原稿を読んでいるのではなく、「気象情報のプレゼンテーション」というオリジナルなスタイルだ(実際、原稿もカンニングペーパーも無いという)。

プレゼンテーションと考えればやけにテキパキとしている理由も説明がつく。そしてプレゼンであれば目的があるはずだ。製薬会社のプレゼンであれば薬を売ること、医師に処方して貰う事が目的だろうが、気象情報のプレゼンの目的はなんだろうか。書籍の中でそれが「災害による被害を減らすため」だと書かれている。天気に関する危険性を正確に伝えることが出来れば被害を減らせる、という意図で放送に臨んでいるという。

天気予報で災害防止なんて大袈裟な、という人はすでにいないだろう。近年のゲリラ豪雨や今年の夏に猛威を振るった台風に竜巻と、異常気象による災害は多くの災厄をもたらした。原稿を読んでいるだけの人ならばわかりやすく伝えることが目的になるのだろうが、それは本来目的ではなく手段だ。

井田さんをはじめとして、NHKに出演している気象キャスターは彼ら自身がどの様な内容を伝えるか会議でしっかり話し合ったうえで決めているというから、ただ喋り方を工夫しているというレベルの話ではなく、防災という目的に沿った内容にもなっているわけだ。

■目的のために最適化されたプレゼン。

井田さんの「気象プレゼン」は、全国区の放送であるニュースウォッチ9で放送されている(おおよそ午後9時40分頃)。したがって4分半という限られた時間で全国の翌日の天気を伝え、一週間の天気まで伝える必要があるため、よく聞いてみるとかなり早口でしゃべっている。言葉と言葉の間もかなり詰めている事もわかる。これらは全て限られた時間の中により多くの情報量を詰め込むための工夫だろう。

一般的なニュースをこのスピードで読んでしまったら視聴者は内容を理解する事が難しくなるだろう。しかし天気予報であればある程度の限られた範囲での情報伝達となるので、見たことも聞いたことも無い話が出てくる可能性は低い。これだけ早いスピードで説明しても問題ない、といった判断もあるに違いない。

見た目はおっとりとした雰囲気だが、井田さんの経歴や仕事振りを考えると将来のキャリアプランをしっかり考えて、自己実現のために努力を重ねてきた優秀なキャリアウーマンということになるのではないだろうか。

■井田さんから学ぶべきはリカバリーの方法。

就職活動は多くの学生にとって希望通りに行かないことが普通だ。就職活動が原因でうつ病になったり自殺する学生まで出ている。これは一発勝負で失敗すれば二度とやり直しがきかないという思い込みによるものだろう。もちろんそういった面も多々あるし、新卒でなければ入りにくい会社がある事も事実だが、必ずしもやり直しがきかないわけでもない。

井田さんはキャスターとして採用されてからは静岡で働き、その間に気象予報士の試験になんとか合格するも今度は東京でレポーター兼ディレクターのような仕事をやるなど、すぐに気象キャスターになれたわけではない。「せっかくの資格が死んでしまう」と焦った事もあったという。局内で気象キャスターのオーディションに落ちた事もあり、最初に気象キャスターになった場所は住んだ事が無ければ全く土地勘も無い、地名の読み方すらよくわからない大阪だったという。こんなにキツイ環境を乗り切れたのも、明確な目標とキャリアプランがあったからだろう。ストレートに目標に進む事だけが成功への道ではないという事だ。

どんな分野でもいいので、自分の尊敬している人、興味のある人の経歴を調べてみると良い。案外大失敗したり、遠回りしている人が多い事に気づくだろう。例えばマンガの神様・手塚治虫は医者としての経歴があり、「ブラックジャック」のような医者が主人公のマンガはもちろん、生と死を目の前で見てきた経験が作品のテーマに強く影響を与えた。これを余計な遠回りと見るか、遠回りや失敗が糧になっていると見るかで、その人のキャリアプラン、ひいては人生が変わる大きな差となるだろう。

■就職活動は人生の境目

就職活動は「学生でお客様」から「大人でビジネスマン」としての扱いへと変わる境目でもある。それは多くの学生にとって大きなストレスで戸惑いの連続である事は間違いない。企業は面接で落とした学生にその理由を説明すべきだ、といった話が以前話題になったが、これは押し売りを断られた営業マンが「何で買ってくれないのかちゃんと説明しろ!」と逆切れするようなものだ。多くの学生はこういったビジネスの常識(理由も説明も無く断られる方が普通)と折り合いをつけるまで苦労が続く。就職活動が上手くいかなければ人格を全て否定されたかのように思ってしまうのもある意味で仕方ない。

就職活動・企業分析等に関しては以下の記事を参考にして欲しい。

気休め程度にしかならないだろうが、ひとつだけ自分が言えることは、正解の無いビジネスの世界で成功した時ほど楽しい事は無い、ということだ。まずは社会人として「一つ目の成功」である内定を目指して頑張って欲しい。

注目記事