豪雨被災地の感染症対策で注意したい5つのこと。そして、ボランティアに心がけていただきたいこと

適切な支援体制をとっていけば、特殊な感染症の流行をみることはありません。
流された車両を調べる広島県警の警察官(手前)ら=7月8日午前、広島市東区馬木
流された車両を調べる広島県警の警察官(手前)ら=7月8日午前、広島市東区馬木
時事通信社

大規模災害に引き続く集団の避難生活では、しばしば感染症アウトブレイクの可能性が報じられ、そのたびに被災者は緊張と不安を募らせます。今回の大規模豪雨による被災地においても、感染症についての不安が広がっていく可能性があります。

とはいえ被災地だからと、むやみに特殊な思考回路を持ち込むべきでもありません。決して被災地は原始状態に帰るわけではありません。人々の結束はむしろ固くなりますし、(少なくとも日本の被災地では)衛生面の自治的な配慮が維持されるのが通常です。

適切な支援体制をとっていけば、特殊な感染症の流行をみることはありません。あくまで日常の延長線上で、どのような感染症のリスクがあるかを考えればよいのです。

以下、豪雨被災地の感染対策で注意したい5つのことを紹介します。そして、最後に被災地で活動しようとしているボランティアの方々に心がけていただきたい大切なことをお伝えします。

1つめ。安全な水を飲用してください。

浸水していないエリアであっても、井戸水は汚染されている可能性があります。水質検査で確認されるまでは飲用しないようにしましょう。また、一度浸水した家屋の貯水タンクの水が安全であるかも不明です。貯留タンクを含む水道配管の破損状況を確認し、水道水が汚染されていないことを確認するようにしてください。

水源の汚染が否定できないときには、飲用前に煮沸処理を行って緊急の感染対策とすることができます。とはいえ、なるべく飲用水とはせず、ペットボトルのお茶や飲料水を活用するのが安全でしょう。

安全な水を十分に確保できないときは、速やかに支援が得られるよう、行政や支援団体などに強く要請します。被災下における節水は大切な心がけです。たとえば、食器の洗浄を避けるため、使い捨ての紙皿などを活用することも検討してください。

2つめ。適切な数のトイレを確保し、そこでのルールを守ってください。

避難所のトイレが不足して待ち時間が長くなると、高齢者(とくに女性)は水分摂取を控えるようになってしまいます。トイレまでに段差があったり、屋外に設置されていたりすると、身体機能が低下している高齢者のなかには、オムツの着用を受け入れてしまうこともあります。これらは、いずれも尿路感染症のリスクを高めています。

誰もが利用しやすいようトイレを整備することは、被災地の感染対策において最も大切なことです。また、日ごろ、オムツや尿とりパッドを使用しているような方については、申し出なくとも手に入るような場所においておくといった工夫も必要ですね。

なお、日本人はトイレを清潔にすることにこだわる傾向がありますが、被災地の限られた人員と資源でトイレの清潔を保つことは困難です。むしろ、トイレのあとに手洗いをしっかりするとか、トイレと居住空間の履物を別にするといったことで、「トイレは不潔なものだ」という認識をもつことの方が感染対策上は有効だと思います。

3つめ。発熱、咳、嘔吐や下痢といった症状があるときは、早めに医師に相談してください。

災害のときには、皆が苦労しているということで、自分のことを後回しにしてしまう傾向があります。とくに日本のお年寄りはそうです。けれども、感染症については、早期に診断して、早期に治療することが有効です。我慢せずに申し出てください。

必要なときには、マスクを着用するなど感染対策に協力いただくこともあります。とくに避難所で生活されている方は、周囲を守るためにも、自分自身の健康に気を配っていただければと思います。

4つめ。高齢者の視点で避難生活の環境を整備しましょう。

高齢化した日本において、被災者の命を奪いかねない重大な感染症とは、高齢者が食事量を減らして体力を落としたり、脱水になったり、トイレを我慢したりといったことによる、誤嚥性肺炎や尿路感染症、褥瘡感染といった問題です。

ですから、被災生活の環境をしっかり整備することが大切です。たとえば、高齢者が避難所の床面に直に座って(あるいは座位保持が困難な方が寝転がって)食事をすることがないよう、避難所のなかにテーブルと椅子を用意して、共用の食事スペースを設けること。これは正しい姿勢で食事をすることによる誤嚥予防になるばかりでなく、被災者が一緒に食事をすることで心のケアにも活かされることでしょう。

また、避難所生活では、支援によって物資が配布されるため、発災前に行っていた日常の家事や近隣への買い物などの機会が失われてしまいます。とくに、ボランティアが(親切心から)支援物資を枕元まで届けていると、高齢者がほとんど横たわった状態で一日を過ごすようになりかねないので注意が必要です。

そこで、できるだけ避難所の外で生活必需品を配布するようにして、歩ける方には歩いて取りに行っていただくなど、なるべく通常の生活に近い形で基本的動作能力を維持させる、といった工夫をお願いします。

5つめ。傷口から感染する破傷風に注意しましょう。

日本でも、大規模災害の後に破傷風を発症する方が一定数おられます。これは土壌中に生息する破傷風菌が、傷口から体内に侵入することで感染するものです。被災後に手足が傷ついたまま、復旧作業に取り組まれる方がいらっしゃいます。洪水のあとには、土壌の環境がかき回されているので破傷風菌に曝露しやすい状態になっています。とくに手足に傷があるときには、傷を覆うなどの処置を受けるようにしてください。

破傷風には曝露後でも発症を予防する方法があります。傷口を土壌に汚染させてしまったようなときは、救護所の医師に相談されることをお勧めします。また、被災地で活動しようとしている方で、最後の破傷風トキソイド(または三種混合ワクチン)接種から10年以上経過している方は、破傷風トキソイド(または三種混合ワクチン)の追加接種を受けるようにしてください。

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最後に、被災地でボランティアに入ろうとしている方々へのお願いです。被災地に病原体を持ち込まないようにしてください。避難所のなかでインフルエンザは自然発生しません。必ず誰かが持ち込んでいます。幸い、いま国内では、ほとんどインフルエンザやノロウイルスの流行を認めていませんが、こうしたリスクを極力遮断しておくことが重要です。

とくにボランティアの方が不必要に避難所内に立ち入らないようにすること。物資の受け渡しなどは、できるだけ入口で済ませ、避難所の専属スタッフが搬入するようにしましょう。避難所の各エリアを個人の家と同じような感覚であつかい、その隔離性を維持することは、プライバシーに配慮することのみならず、感染対策上も大きな意味があります。

言うまでもなく、発熱や咳、下痢などの症状があるときは活動を控えてください。困難に耐える被災者を前にして、多少の体調不良であっても支援活動を継続しようとするのは、倫理観の誤った表出です。自らが感染症の媒介者にならないことを最優先として心がけてください。

以上のことは、私の限られた被災地支援の経験による一般論に過ぎません。被災地の状況は刻々と変化してするものです。常に被災地における最新の状況を確認しながら、被災した方々の健康を守っていただければと思います。

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