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2018年12月28日 14時19分 JST | 更新 2018年12月28日 16時24分 JST

インフルエンザについて診察室で説明していること

飛行機はやっぱりキャンセルしなきゃダメ? 「タミフル」や新薬「ゾフルーザ」の効果は…?

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Sarinya Pinngam / EyeEm via Getty Images
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インフルエンザの流行が始まっています。年末年始にかけては国民が大移動するため、これから全国へと感染が拡がっていくでしょう。かつ、お正月は世代間の接触も活発なため、あまり外出しないような高齢者もインフルエンザに感染するリスクが高まります。乳幼児、高齢者、そして持病のある方は重症化するリスクがあるので注意してください。

以下、インフルエンザと診断した患者さんとの診察室での対話を再現してみます。ここに登場する患者さんは架空のものですが、総じて、いつもの診療に即した内容になってます。実のところ、これほど丁寧に説明できる時間はないのが通常なのですが、たまたま救急外来に余裕があったということにいたしましょう。

インフルエンザについて、患者さんに知っておいていただきたい内容です。知識が十分でないセクションがありましたら、どうぞ拾い読みいただけると幸いです。

◇    ◇    ◇

「・・・というわけで、Aさん、残念ながら迅速検査でインフルエンザA型が陽性でした。この地域でもインフルエンザの流行が始まってますし、どこかでもらってしまったんでしょうね」

Aさんは48歳の男性。持病に糖尿病がありますが、しっかり定期の通院を欠かすことなく治療を受けられている方です。ただ、食事療法に課題があるようで、肥満もあって、血糖コントロールは必ずしも良くはありません。

このAさんが朝から発熱があるとのことで、日中は頑張って仕事をしていたようですが、夜間の救急外来に受診されてきたのです。

飛行機の搭乗延期について

「困ったな~ 明後日から子どもたちを連れて里帰りの予定だったのに・・・。飛行機に乗っちゃダメですよね」

Aさんは、とても残念そうにしています。旅行直前のインフルエンザ発症は無念でしょう。でも、こればかりは仕方がありません。

「そうだったんですか。でも、このシーズンの機内には、お年寄りや赤ちゃんのようにインフルエンザで重症化しやすい方が多いです。周囲に感染させないためにも飛行機に乗るのは延期してくださいね。もちろん、ご実家の方々・・・ ご高齢ですよね。皆さんに感染させないためにも、延期されることをお勧めしますよ」

「いつまで延期しなければならないのですか?」」

「おおむね発症してから5日だと考えてください。もちろん、Aさんの症状が長引くようなら、Aさん自身のためにも旅行は控えてください」

「キャンセル料がかかりますよね。4人家族だから大変ですよ!」

「あ、大丈夫です。私が診断書を書きますから、それを航空会社にFAXしてください。2親等以内なら家族についてもキャンセル料はかかりません」

「そうなんですね。それは助かります。では、先生、診断書を宜しくお願いします」

ワクチンの有効性について

「でも、先生」とAさんは不満そうに言いました。「私はワクチンを打ってたのに、どうしてインフルエンザになっちゃったんですか。やっぱりワクチンって効かないんですねぇ」

もっともな疑問です。今後のこともあるし、ここは丁寧にお答えします。

「Aさんが『効かないんですね』とおっしゃっているのは、たぶん、発症しないことを期待されてのことかと思います」と私は言葉を区切りながら説明しました。「その意味では、すごく効くとは言えないんですよ。いくつかの信頼できる研究を総合すると、65歳以下の健康な方については、ワクチンの接種により70%から90%ぐらいの発症を予防できるってことになってます 1) 2) 3)」

「なるほど、では2、3割はワクチン打っても効かないってことなんですね」

「そう、発症しないことを期待するならば、その通りです。ただ、実はインフルエンザのワクチンって、感染を予防するよりも、こじらせないようにすることに意義があるんです 4) 5) 6)」

「ああ、ワクチン打ってもらうときにも言われました。重症化を予防するものだって」

「はい、Aさんのように持病のある方では、肺炎などを合併して入院するほど悪化させてしまう方もいるんです。こうした重症化を予防するためにも、毎年のワクチンを接種するようにしてくださいね」

ワクチン接種の対象について

「なるほど、よく分かりました。ところで、私の子どもたちは打ってないけど、打ってた方がいいんですか?」

「お子さん、何歳ですか?」

「12歳と10歳です。両方、男の子」

「なにか持病がありますか?」

「いえ、元気そのもの」

「では、ハイリスク者ではありませんし接種しなくていいです」と私は言いました。

もちろん、受験生など健康なお子さんでも接種しておいた方がいい状況は考えられます。でも、医学的に接種が強く勧奨されるのは、2歳未満もしくは65歳以上の方、妊婦、持病のある方、施設入所者、赤ちゃんのケアをする人、そして医療・介護関係者といったところです7)。

「ただし、持病のあるお父さんにインフルエンザを渡さないため、同居する家族にも接種しておくという考え方はあります」と私は付け加えました。

「それはいいや。自分の身は自分で守ります」

「そうですね。Aさん自身がワクチンを毎年接種されることが大切だと思います。あと、糖尿病のコントロールをこれまで以上に心がけていただくこと、そして実は、肥満もインフルエンザ重症化の要因なのでダイエットしていただくこと。これらがインフルエンザから身を守るうえで大切ですよ 8)」

「耳が痛いですね。でも、わかりました」

タミフルの有効性について

「さて、それでは治療のお話に入りましょう。Aさんは40代とお若いですが、糖尿病もありますし、解熱剤のほかにインフルエンザ治療薬のタミフルもお出ししましょうね」

「宜しくお願いします。いまは熱っぽさと喉の違和感、そして関節の痛みだけですが、これから重症になるんでしょうか?」

「それは何とも言えません。水分や食事がとれないとか、息苦しいとか、吐き気や下痢などの症状が重なってきたりというときは、申し訳ないですが改めて受診してください。ただ、多くの場合、数日ゆっくり療養されれば元気になりますよ」

「わかりました。タミフルもいただけるのなら大丈夫ですよね」

「えーと」と私は言いました。ここは正しくお伝えしておくべきです。「いえ、タミフルは早めに楽になるためのお薬です。重症化を予防するかは明らかではありません」

「え! そうなんですか? 治すためのお薬なんですよね」

「治すのは自分自身です。タミフルは、それを応援するお薬なんですよ。まあ、1日ぐらい早く良くなると言われています。きつい思いをするのを1日でも短められるなら、それはそれで糖尿病のためにも良いかと思います。ただ、寝てれば治るという意味では、飲んでも飲まなくても結果は一緒です」

新薬ゾフルーザについて

「う~む。まあ、せっかくなんで処方してください。でも、ワクチンにせよ、タミフルにせよ、なんだか頼りないっすね~。あ、そうそう、先生、なんか新しいお薬が出たんでしょ。インフルエンザの新薬で、1回飲めば治療終了ってやつ」

「ゾフルーザですね」と私は苦笑いしました。

「名前は知りませんが、その新薬をください」とAさんは意に介さずに言いました。

「お気持ちは分かりますが、やめときましょう」と私は言いました。「新薬だから良く効くというわけではありませんし、むしろ未知の副作用のリスクがあるので注意が必要です」

「そうなんですか?」とAさんは疑わしそうにしています。なぜ出し渋ってんだという表情。

「そもそも、いままでの臨床研究によると、タミフルとゾフルーザの治療効果には差がないことが分かっています。つまり、1日ぐらい早く良くなるということ。これは双方とも一緒なんです 9)。一方で、ゾフルーザは1回分が4789円なのに対して、タミフルのジェネリック薬なら1400円ぐらいです。つまり、1回のむだけの利便性のために3000円以上ものコストをかけるのは、皆で支え合っている保険料の使い方としては、あまりお勧めできません」

「なるほどですね。まあ、それならタミフルでいいかな。でも、効果に差がないのに、どうして新薬なんかが出てくるんですか? 開発費だって無駄じゃないですか」

「いえいえ、私たちにとってゾフルーザは大切なお薬なんですよ。タミフルが効かない耐性ウイルスにも有効であることが動物実験で確認されてます。もし、将来、タミフルが効かないインフルエンザが流行するような事態になったら、そのときこそゾフルーザの出番となります。ですから、いまはゾフルーザを濫用しないことが大切ですね」

「たしかに、先生の言う通りですね。でも、製薬会社としては開発費を回収しなければならないでしょうから、そこは単純にはいかないでしょう」

「そうですよね。Aさんの言う通りで、製薬会社としても売れなきゃ努力した甲斐がありません。だから、売る努力をしている製薬会社を悪く言うつもりもないです。ただ、私たち消費者側も賢くなるべきで、やれ新薬だと一斉に飛びつくのではなく、本当に必要なものを選択していくべきでしょう。良いものであり、安全なものなら、いずれにせよ市場に定着していくはずです」

家庭内での感染対策について

「そうでしょうね。では、先生、タミフルと解熱剤、あと診断書をお願いします。数日、遅らせて里帰りできないか調整してみます」とAさんは言いました。「あと、家族に感染させないようにしないといけません。何か心がけるべきことがありますか?」

「奥さん、持病がありませんか? 妊娠されてませんか?」と私は確認しました。

「いや、どちらも大丈夫です」

「妊婦さんや持病のある方だと、タミフルの予防内服も考えますが、同居されてる皆さんが健康なら今から申し上げる感染対策を心がけてください。まず、一番良いのは、できるだけ御家族とは別の部屋で療養されることです。一緒の部屋にいるときは、マスクを着用するようにして、こまめに手洗いをしてください。マスクの着用はAさんだけで結構です。でも、手洗いはご家族皆さん頑張りましょう。次に、タオルや食器の共用を避けるようにしましょう。お風呂に入ってもいいですが、入るのはAさんが一番最後になるようにしてください」

「ウイルス除去の空気清浄機も回したほうがいいですか?」

「インフルエンザの予防にはなりません」と私は言いました。「できるだけ別室で過ごす。マスクをつけて、手洗いを心がける。Aさんが触れたものを他の人が使わない・・・ これに限ります」

インフルエンザの感染経路とは、飛沫感染(感染者のくしゃみや咳による"しぶき"を直接的に吸いこむ)もしくは接触感染(感染者の唾液や鼻汁を間接的に触れて自分の粘膜に擦りつける)です。空気の入れ替えは感染予防にはなりません。

「なるほど、よくわかりました。頑張ってみます」

「ただ、感染対策では頑張りすぎないように。リラックスして療養されることが大切ですよ。どうぞ、お大事になさってください」と私は言って、診療を終えました。

【参考文献】

1) Wilde JA, McMillan JA, Serwint J, et al. Effectiveness of influenza vaccine in healthcare professionals: a randomized trial.JAMA 1999;281:908-13.

2) Bridges CB, Thompson WW, Meltzer MI, et al. Effectiveness and costbenefit of influenza vaccination of healthy working adults: a randomized controlled trial. JAMA 2000;284:1655–63.

3) Demicheli V, Jefferson T, Rivetti D, Deeks J. Prevention and early treatment of influenza in healthy adults. Vaccine 2000;18:957-1030.

4) Patriarca PA, WeberJA, ParkerRA,etal. Efficacyof influenza vaccine in nursing homes. Reduction inillnessand complications during an influenza A (H3N2) epidemic. JAMA 1985;253:1136–9.

5) Arden NH,et al.: Presented at the Options for the Control of Influenza Conference, 1986:155-68

6) Monto AS, Hornbuckle K, Ohmit SE. Influenza vaccine effectiveness among elderly nursing home residents: a cohort study. Am J Epidemiol 2001;154:155-60.

7) Prevention and Control of Influenza. Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP), 2008.MMWR 2008:57(RR-07):1-60.

8) Maria D. Van Kerkhove, et al. Risk factors for severe outcomes following 2009 influenza A (H1N1) infection: a global pooled analysis. PLoS Med. 2011 Jul;8(7)

9) Hayden FG, Sugaya N, Hirotsu N, Lee N, de Jong MD, Hurt AC, et al. Baloxavir Marboxil for Uncomplicated Influenza in Adults and Adolescents. N Eng J Med 2018 Sep 6; 379(10): 913-923.