「好きなことで生きていく」はどんなこと? メルカリ子会社化「CARTUNE」代表らの働き方

「好きなことで生きている」と、そこに「好きなことで生きたい」という人たちが集まってくる。
写真: 剣持悠大
写真: 剣持悠大
A+Design

「好きなことで生きていく」。

いま、働き盛りの20代、30代の親たちの世代にぶつけたら、どんなリアクションとなるでしょう。そんな、時代を間違えるとちょっと心配されそうな働き方が、いよいよ根付いてきた? そんな夜明け前の"働き方"にふれてきました。

この日、訪れたのは「Passion*Tech」というイベント。

「産業革命、IT革命を経た我々人類は、社会的/文化的な成熟も相まって『好きなものは好き』と言い放ち、『好きなことで生きていく』土壌を手に入れた。全ての人々が持つ『特定の何かに対する高い熱量』は各々の情熱的なコミュニティとなり、さらにテクノロジーの進化によって可視化され、加速され、国境を超え、そして社会を変える大きな価値として猛烈な光を放ちつつある。そんな領域を事業ドメインとし、『自分が一番燃えること』に全力で取り組み、新たな文化圏・経済圏を生み出さんとするスタートアップを『Passion*Tech』と定義し、次の大きなトレンドを創っていきます」

ひらたくいうと、何かにハマったオタクたちが、そのままビジネスにしてしまったということ。同イベントにはそんな"4人のオタク"が登壇。マイケルで「CARTUNE」運用の福山誠さん、reblueで「NobodySurf」運用の岡田英之さん、ストロボライトで「LOVEGREEN」など運用の石塚秀彦さん、ラントリップで「Runtrip」などを運用の大森英一郎さんです。

写真: 剣持悠大
写真: 剣持悠大
A+Design

「CARTUNE」福山誠さんの場合

車のコミュニティサービスを仕掛ける「CARTUNE」の福山誠さん。最近、メルカリが簡易株式交換により子会社化することを発表。約15億円での買収となったことで話題になりました。

グーグル出身の福山さんは複数の事業を立ち上げたことで知られています。そんななかでも「CARTUNE」は、車好きに特化したサービス。自分の車をカスタムしたり、ドレスアップパーツの写真・動画を投稿し、ユーザー同士が交流できたりするものです(現在70万ダウンロード)。

そのメインユーザーは東京"じゃない"方々。こういったWEBサービスはまずは東京から、となりがちですが、そもそもの車との接点が多い地方の方が、相性が良いとのこと。北海道や福岡に住むユーザーが多いのも特徴的。

「車好きがターゲットですが、東京ではなく田舎にいてワゴンやワンボックスに乗っているけど、車で遊びたい人をメインにしている」(福山さん)

写真: 剣持悠大
写真: 剣持悠大
A+Design

車のサービスを立ちあげ、メルカリの子会社化になるなんて、ガチガチの車好きなのではと思ったら、「まったくそうではない」とは本人談。そもそも、最近まで車の免許を持っていなかったという距離感で車に携わっています。ですが、福山さんがハマッたのは"コミュニティ"。コミュニティビルディングを事業戦略にしているのです。

同サービスでは、オフ会が自発的に発生。毎週どこかで開催されており、数十名以上の規模感で集まっているそう。CARTUNE内で知り合った人同士で結婚した事例も、ユーザーの人生に大きな影響を与えたことに、福山さんも大きなやりがいを感じているそうです。

「(車に対する)パッションが一番ないのが自分です」と認めるように、人の集まる部分に特化してサービスを構築していく福山さん。決して車に詳しくなくても、人が人を繫いでサービスが大きくなる。サービスに対する専門性がなくても、ビジネスとして成立するという働き方のヒントが、ここにあるのかもしれません。

「NobodySurf」岡田英之さんの場合

写真: 剣持悠大
写真: 剣持悠大
A+Design

サーフィン好きにオススメの動画サービスが「NobodySurf」です。心地良い音楽とサーフィン動画が次々と再生されていくもので、その世界が好きな人には何時間も見ていられるサービスとなっています。クリエーターごと、サーファーごと、エリアごとに動画を見つけることができ、自分の好みを見つけることができます。

グロービス・キャピタル・パートナーズ(GCP)およびアドウェイズ、個人投資家・古川健介さん、元nanapi CTO・和田修一さんらを引受先とした総額2億3000万円の資金調達を実施。

NobodySurfを運用するのが、「reblue」の岡田英之さん。そのユーザーの見つけ方に学ぶべき姿勢がうかがえます。サービススタート時にどのように仲間を集めたかというと、徹底して広告を出すといったテクニカルなものではなく、徹底的にフェイスブックメッセージを送るといったもの。岡田さんがこれだ!と思う動画クリエイターに、ひたすらメッセージを送りのです。そんな地道な活動が身を結び、尊敬していたフランスの動画クリエイターから返信があり、「住所はどこだ」ということに。彼らのTシャツと書籍が届くといった関係も生まれたようです。扱うサービスのテーマが狭いからこそ、双方がマッチした時の熱量が高い。そんな一例ではないでしょうか。

「LOVEGREEN石塚秀彦さんの場合

植物と暮らしをテーマにしたWebメディア「LOVEGREEN(ラブグリーン)」などを運営するストロボライトからは石塚秀彦さんが登壇。植物の育成方法や飾り方などの情報を配信するWebメディアで、Facebookページには約12万の"いいね!"がつき、MAUは200万人ほど。1日あたり約10本の記事が掲載されています。ニッセイ・キャピタルを引受先とした第三者割当増資を実施。総額3億5000万円の調達を達成した会社でもあります。

写真: 剣持悠大
写真: 剣持悠大
A+Design

サボテンオタクでもある石塚さんは、採用時の話をしてくれました。同社のメディアにも熱量の高いファンが多く訪れます。ご自宅に数百の鉢があるお宅はまあまあ普通だそうで、なかには千鉢を超えるファンもいると明かします。当然、社内のメンバーもかなりの植物好きが。イベント当日、「植物と音楽は相性が良い。なかでも、サボテンとテクノが合う」という謎の"業界あるある"を展開するなど、そのマニアックぶりがうかがえました。

そんな同サービスですが、人材採用時にある特徴があるといい、写真を全面に出すウォンテッドリーと相性が良いようです。テキストベースの採用サービスではなかった反響が、ウォンテッドリーでは多くの応募者が。そして、そもそも転職活動をしている人ではなく、「ここで働けなかったら、今の職場でいいか」と、転職よりも植物に関心がある、極端に趣味性の高い人が集まってきていることがわかります。

「好きなことで生きている」と、そこに「好きなことで生きたい」という人たちが集まってくる。そういった採用時のメリットもあるようです。

こういった仲間の見つけ方について、ラントリップの大森英一郎さんが最後にまとめてくれました。

「Runtrip」大森英一郎さんの場合

写真: 剣持悠大
写真: 剣持悠大
A+Design

ラントリップは、ランニングを「楽しいアクティビティ」に変え、世界中の道を「地域資源」に変えることを目指し、ランナー向けのWebサービスやアプリの提供を行っています。株式投資型クラウドファンディング「エメラダ・エクイティ」で約3,000 万円の資金調達を達成しました。

同サービスはランナーがターゲットになるのですが、「運動したいけどなかなかできない、走りたいけどどうしたらいいかわからない。そういった人にランニングは自由で楽しいものと伝えたい」と大森さんは語ります。競技志向だけでなく、ライフスタイルの一部としてランニングを取り入れる人を応援しているのです。

こちらも"ランニング"といった趣味のなかから生まれたサービスであり、狭くて熱量の高いユーザーと結びついたよう。サービス立ちあげ当初から、台湾やオーストラリアから協力したいといった声が届きました。趣味性が一致すると、国内・海外の壁はもはやない。現在、実際に海外にいながら同サービスのWEBメディアで執筆するライターもいるといいます。そして、こちらでも「転職活動していなかったけど、出会ってしまったから行く」と、正式に入社したメンバーも。「一緒に働く人が友達になりやすいというのが、『好きなことで生きていく=パッションテック』の特徴かと思います」と締めくくりました。

イベントを終えて

今回、4者4様のハマっているものが明るみになりつつ、そして、その道でしっかりとビジネスの軸を置いていることがわかりました。自分のサービスを語る時の笑顔がはじけており、また、言葉に力があったのも、このような働き方をしている人ならでは。趣味だけに終わらずに、ビジネスとしての居場所を作り上げたという部分も共有していました。

周囲から嫉妬されても不思議ではない働き方ではありますが、「好きなことで生きていく」ことが当たり前の時代になる頃には、先駆者たちはまた違った価値観を優先していることでしょう。

今の自分を徹底的に楽しむ、そんな遊びの上手な4人のお話でした。

写真: 剣持悠大

注目記事