財源論としての「こども保険」

昨年から度々検討案として挙がっていた「こども保険」制度が提言としてまとめられた。しかし、この「保険」には多くの問題点が存在する。

昨年から度々検討案として挙がっていた「こども保険」制度が提言としてまとめられた。

自民党の「2020年以降の経済財政構想小委員会」は29日、幼稚教育や保育の負担を軽減するための「こども保険」の創設を提言。

小委員会の事務局長である小泉進次郎氏は記者会見で「子どもを社会全体で支えるとのメッセージを明確に伝える政策」として保育園などに子育てにかかる費用を社会全体で負担すべきだと主張している。

高齢者の扶養が社会化している現代において、 子どもを社会全体で支えるべきだという主張には全面的に同意する。

しかし、島澤氏が既に指摘しているように、この「保険」には多くの問題点が存在する(参考:「こども保険」に感じる違和感)。

「税」と「社会保険」の違い

その中でも最大の問題は、この「こども保険」が「保険」の機能を果たしていない点だ。

同じ財源でも「税」と「保険」ではその性質が異なる。

税金と保険料の最大の違いは、給付の権利性にある。

税金は警察などの公共サービスや学校などの公共施設に使われるが、受益と負担の関係性は明確ではない(=負担分が将来戻ってくるとは限らない)。

一方、保険は加入者のリスクに対応するものであり、受益と負担の関係性が明確になっていなければならない(=負担分が将来返ってくる)。

実際、現状の社会保険は医療・介護・年金保険、失業保険などが存在するが、それらはいずれも保険料を払っている人のみが対象であり、受益と負担の関係性も明確に存在する。

しかし、「こども保険」には受益と負担の関係性が明確に存在しない。

確かにこどもが増えれば、将来の社会保険料や税収が増え、将来の高齢者世代(=保険料を支払う今の現役世代)も利益を得られるが、この「こども保険」を払っていなくても年金や介護は受けられる。

また、現役世代に関しても、「こども保険」を払っていなければ、保育園や幼児教育を安く/無償で受けられないのか、という疑問も存在する。

こうした社会全体を支えるサービスの財源は本来税(もしくは国債)で調達すべきものであり、保険で調達しなければならない理由は考えにくい。

「こども保険」は何の保険か?

そして、保険とは何かのリスクヘッジでなければならないが、子育てのリスクとは何なのか。これも曖昧である。

スウェーデンには両親保険制度というものが存在するが、これは妊婦手当や両親手当(出産・育児休業時の経済的保障)といった子育てによる労働時間の減少=収入減に備えた保険であり、失業保険と同様の性質を持つ。

しかし、今回「こども保険」が対象としている保育や幼児教育の費用負担はリスクではない。もしそうであるならば、現在義務教育が税金で賄われている現状とも矛盾する。

財源論としての「こども保険」

ではなぜこの「保険」が提言されているのか。邪推してしまうと、財源調達先として現実的な選択肢が先行されている感は否めない。

昨年全党が消費税延期を支持したことに象徴されるように、日本における租税抵抗力(≒痛税感) は世界の中でも突出して高い。

一方、給料から天引きされる社会保険料の抵抗力は著しく低く、リーマンショックや東日本大震災時でさえ保険料は上がっている。

しかし、それへの批判も少なく、財源調達の容易さ・安定性という点では社会保険料の方が優れている。

だが、既に上記で確認したように、税と保険は本来役割が異なる。そうした本質的な違いを無視してまで抵抗力の弱い保険料から徴収というやり方は単なるポピュリズムに過ぎない。

財源はどうすべきか?

とはいえ、日本若者協議会という団体で若者政策を推進している筆者も当然 幼児教育の重要性の高さは認識しており、子どもを社会全体で支えるべきだと考えている。提言で示されている財源は3400億円だが(将来は約1.7兆円)、その方法として国債発行(教育国債)や増税、そして今回の「こども保険」が検討されている。

筆者としては、少子化の解決や教育は将来への投資であり(将来増収される)、教育国債で問題ないと考えているが、ここでは税金による徴収方法も考えてみたい。

まず、現役世代、特に貧困世帯に重い負担を与える消費税増税には反対だ。

2014年4月の消費税増税後の経済減速を見れば明確だと思うが、完全にデフレを脱却するまでは、需要を抑える消費税増税は避けるべきである。

では他に何が考えられるか。

一言で言えば、累進性の強化が最適である。というのも、日本は逆進性が高く、先進国で唯一政府による再分配後に貧困率が上昇しているからだ。

その点を考慮すれば、資産課税の強化、所得税の最高税率引き上げ、相続税の拡大(控除額の削減)、年金課税の累進化あたりをミックスさせて財源を確保する、というのが現実的な選択肢になるだろう。

例えば、現在の相続税は基礎控除が3000万円、配偶者は1億6000万円が控除の対象になるが、それらを大幅に縮小して、一律2%の税率上乗せを行えば0.5兆円ほどの増収になる。

もしくは働き方改革と連動して、上位30%である世帯年収約800万円以上の世帯だけ配偶者控除を全て撤廃すれば、0.9兆円の政府収入増(税収+社会保険料収入)に繋がり、女性が労働市場にさらに参加することでその他の税収増も見込める。

いずれにしても、子どもの教育や保育のような、誰もが受けられるべき公共サービスは社会全体が負担すべきものであり、一番取りやすい保険料で確保するというのはあまりにも国民に迎合し過ぎていると言わざるを得ない。

(2017年3月30日「Yahoo!ニュース個人」より転載)

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