ぜひ、ご覧あれ! 和菓子の老舗・とらやの77回にわたる挑戦、「虎屋文庫のお菓子な展示77」(上) 

日本の和菓子文化を社会的資源と捉えその継承を担ってきた虎屋文庫。

創業は室町時代後期。500年近い歴史を持つ老舗和菓子屋、とらや。

和菓子は「食品」としてお腹を満たすと同時に、私たちに安らぎ、季節感、暮らしの文化、風土の美しさといったものをしみじみと感じさせ、楽しませてくれる。

とらやが長い歴史の間で蓄積してきた奥行きは、まさしく「日本の食文化の宝庫」と言っていいだろう。

日本の和菓子文化を社会的資源と捉えその継承を担ってきた虎屋文庫。1973年に菓子に関する古文書、古器物、資料等の収集保管、和菓子全般の調査研究を目的に虎屋文庫を創設。機関誌を発行したり、一般にむけての展示活動も続けてきた。その展示について大回顧展が今、開かれている。

東京・赤坂のとらや2階の虎屋ギャラリーで、「虎屋文庫のお菓子な展示77」が開催中

「虎屋文庫のお菓子な展示77」(2015年5月20日~6月16日東京・赤坂のとらや2階・虎屋ギャラリー)。ビルの建て替えでギャラリーが3年間の休みに入る前に、過去の展示を振り返る内容だ。一歩入ると、壁一面に大きな年表が。1973年の第1回~2014年の第77回まで、展示タイトルがズラリ。

「富岡鉄斎と虎屋展」「和菓子の歴史展」「虎屋、寅歳、虎コレクション」「葛粉・蕨粉の、いま むかし」「栗づくし展」「お菓子とお酒の大合戦展」「子どもとお菓子展」......

年次に沿って虎屋文庫資料展全77回のタイトルが並び、これまでの展示のあゆみを俯瞰できる。初回からの来場者は約35万人。

実は本物です

虎屋文庫専門職の中山圭子さんは、展示についてこう振り返る。

「特徴の一つに、本物の和菓子を展示することがあります。時々『よくできたレプリカね』というお声をいただいたりしますが、実は本物です」

質感や色あい、あたたかみといったことは、レプリカではなかなか伝わりにくい、という。

「美味しそう、食べたいと思っていただくことが、私たちの展示にはとても大事なのです。その分、メンテナンスはたいへんで、毎日取り替えなくてはならないものもあります」

展示では、古い菓子の再現にも力を入れてきた。

「江戸時代の菓子などは古い史料を見て、製法を工夫しながら職人たちが再現しています。中には虎屋文庫のスタッフが再現したものもあります」といいながら、今展示中の「羊羹」のコーナーへと案内してくれた。

「これはスタッフが苦労して調理したんですよ」

羊羹一本の中に宿る、奥深い歴史

なにやら器に入った煮物が......?

「実は羊羹のルーツになった、羮(あつもの)の再現で、羊の肉を使った汁物です」

羊羹のルーツになった羮の再現

羊羹は、中国に留学した禅僧が日本にもたらした。日本では禅僧が肉食を禁じられていたことから、羊羹も羊の肉ではなく、植物性の小豆や小麦粉などを材料に作られるようになった。

いわば、見立て料理(菓子)で、蒸羊羹に近いものだったと考えられる。

そして今の主流は、「煉羊羹」。「煉」が生まれたのは、寒天が発見された江戸時代以降のことらしい。たしかに、寒天のきめ細かい感触に舌が触れた時、人々は驚喜したことだろう。

などと、羊羹一本の中に宿る、奥深い歴史を噛みしめる。

海軍に納めるために、太平洋戦争中に作られた羊羹「海の勲」。一本しか残っていない(写真は複製)

和菓子と他の世界とのコラボレーション

「和菓子を多彩な視点からとらえることも大事にしてきました」と中山さん。

「菓子という面だけでなく、たとえば、花と和菓子、歌舞伎と和菓子、殿様と和菓子といったように別の文化や領域とつなげたり重ねてみると、日本文化を再発見する楽しみが生まれてきます」

その一例が、人気を集めた「源氏物語と和菓子展」(1988年)だという。

第30回「源氏物語と和菓子展」(1988年)では、片野孝志氏作の料紙と菓子を組み合わせ、54 帖のさまざまな場面を表現。写真は「若紫」のシーン。(虎屋提供)

「この時に展示した菓子は、江戸時代から今まで虎屋にあるお菓子の中から選びました。源氏物語54 帖それぞれの場面にあいそうなものを選び出し、料紙と組み合わせ、優雅な世界を表現したのです。この展示は大人気で、その後も継続的に開催しました」

和菓子を口にした時に、そこから物語が紡ぎ出されてくる。

物語から、和菓子が生まれてくる。

なんとも美しいやりとり。日本の文化を心から誇りに思える一瞬だ。

「第67回の『和菓子アート展』(2006年)は、現代アーティストと和菓子のコラボレーション企画で、こちらも想像以上に大きな反響を呼びました」(下記は2006年開催時の写真・今回展示はありません)

2006年開催時の写真・今回展示はありません

木製の玩具の和菓子は青柳豊和氏による作品。手にとって組み合わせ方や感触を楽しむことができる。

菓子の木型を使った新たな和紙作品を生んだのは永田哲也氏。「和菓紙」の世界は幻想的。和菓子から意外性のあるユニークなアート作品が次々に生まれてきた。

今回の展示パネルには、スタッフの人間くさいエピソードも添えられていて楽しい。

「一日の来場者が一桁の時代で、スタッフの友人一人だけ、という日も」

「和菓子紀行は、明星食品のラーメン紀行をヒントにしたタイトルでした」

「縄文クッキーは肉を使っているとの説に従い再現を試みたところ、強烈な臭いに辟易......」

「いつもスタッフが試行錯誤しながら企画してきたので裏話や失敗談もたくさんありますよ」と中山さんは笑う。 (下に続く)

〒107-8401東京都港区赤坂 4-9-22 http://www.toraya-group.co.jp/

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