子どもの貧困対策法成立4周年のつどい開催 「今もスタートラインに立てない子がいる」

法成立からの4年間を振り返り、これからの支援はどうあるべきか、考えます。

2009年、子どもの貧困率が初めて日本で公表され、「子どもの貧困対策法をつくろう」と当事者の学生たちが声をあげました。子どもの貧困対策法が成立したのは、2013年6月19日。そして2年後2015年の同日、子どもの貧困対策センター「あすのば」が誕生しました。

2017年6月17日、国立オリンピック記念青少年総合センター(東京都渋谷区)にて、法成立4周年・あすのば成立2周年のつどいが開催されます。つどいでは、法成立からの4年間を振り返り、これからの支援はどうあるべきか、考えます。

つどいの企画・運営は、あすのばサポーターである学生たちが主体となって活動しています。そのメンバーである木戸寛捺さん(20・早稲田大学3年生)に、イベント準備の合間を縫って今の思いを聞きました。

木戸寛捺さん(20)

共有されていない、なぜ「子どもの貧困」に取り組むのか

――法成立4周年・あすのば成立2周年のつどいを、どんなイベントにしたいと思っていますか。

今日本では、多くの人がニュースや新聞で「子どもの貧困」という言葉に触れているのではないでしょうか。私や他のメンバーは、子どもの貧困問題のために活動することを当然のことのように考えています。

でも、社会全体では、子どもの貧困に対する意見はさまざまです。そして、子どもの貧困問題は複雑です。貧困問題には、子どもの親だけでなく、いろいろな大人の貧困があり、その周りには様々な社会問題があります。いわゆる「子どもの貧困」で焦点が当たる相対的貧困世帯の子どもでなくても、困難を抱え、そこから抜け出せない子どももいます。

なぜ「子どもの貧困」について取り組むのか。

今回のつどいではこの問いに改めて向き合い、共有したいと考えています。

イベント準備を進める木戸さん

「いくらお金がかかるか」ということばかり考えていた受験生時代

――木戸さん自身はこれまで生活に困難を感じた経験はありますか。

私の父は、障害があり働くことができません。私は高校1年からあしなが育英会の奨学金を利用しています。物心がつく頃には父に障害があることも理解し、当たり前のことと受け入れていましたが、大きくなるにつれて、友達と家庭環境が違うのだな、と感じるようになりました。

大学受験の時、自分は違う、と強く思いました。とにかく、大学受験にはお金がかかるのです。何をするにしても、お金が一番かからない方法を考えなくてはなりませんでした。大学受験が私にとっては一番つらかったです。

――受験勉強はどうやって乗り切りましたか。

大学受験は教科書だけでは完結しません。参考書も必要でした。でも何冊も買うことはできません。できるだけ学校の資料室から借りたり、古いものを譲ってもらったりしながら、本当に必要な参考書だけを買いました。

塾はぜいたく、と思う人もいるかもしれません。でも、現実には学校の授業だけでは足りません。周りの友達で塾に全く行かずに受験勉強をこなした子はほとんどいませんでしたし、自分も塾に行きたいと思いました。いくらかかるのか、費用で決めるしかありません。大手の予備校よりもお金のかからない、地元の小さな塾に通いました。

入学試験の受験料も高く、何校も受験することはできません。志望校は本当に行きたい学校だけに絞りました。入学試験のために実家の山口から上京するには、夜行バスが一番安く、他の選択肢は選びようがありませんでした。試験の度に山口から夜行バスで東京の試験会場へ行きました。

一番大切なのは「人」、すべての人の可能性を広げるのが「教育」だと思う

――木戸さんは大変でも大学に行きたいという強い意志がありましたが、支援制度の多くはそういう強い意志があって努力する人が対象です。それについてはどう思いますか。

私は、必死に勉強するしかないと思ってがんばりました。私ががんばれたのは、母がずっと私を支えてくれたからです。私は恵まれていて、心の貧困でなかったのだと思います。母は「経済的に苦しいから無理」と決して私に言いませんでした。私の力を信じて、将来の可能性をたくさん広げてくれました。大学受験でお金がかかるたびに親に申し訳ないと思いましたが、母はいつも後押ししてくれました。

――自分は幸運だったと思いますか。

そうですね、自分を支えてくれる人がいたという意味で幸運だったと思っています。さまざまな状況の貧困がありますが、親が働きづめで子どもと過ごす時間も余裕もないという家庭もあります。家族や身近な人に支えてもらうことが難しい子は、希望や意欲を持つことが簡単にできるとは限らないのです。スタートラインにさえ立てていない状態だと思います。

がんばろうと努力する人だけを支援すればよい、と貧困にある人を選別するのは違うのではないかと思います。やる気を出して、努力することが難しい状況もあり、そのことだけを持って切り捨てることはできないと思います。子どもの貧困は、相対的貧困率といった数字で表われる経済的な貧困もありますが、そこには含まれない心の貧困もあります。もっと広い範囲で考える問題だと思います。

社会で一番大切なのは「人」であるはずです。すべての人の可能性を広げるのは教育だと思います。貧困であるために教育を受けられない、選択肢が狭まってしまう、そういうことがなくなってほしいという思いで私は活動しています。自分にできることがあまりにも少ないし、自分はまだ何も知らない、と自分の力不足を痛感することばかりですが、教育の可能性を信じて、これからも活動に関わっていきたいと思っています。

昨年開催の全国キャラバンにて(最前列左端が木戸さん)

聞き手・野口由美子(ブログ Parenting Tips

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