子どもの貧困対策法(「子どもの貧困対策の推進に関する法律」)の成立から3年が経ち、子どもの貧困問題がテレビ、新聞やネットで話題になることも増え、こども食堂といった草の根の活動も広がっているようにも見えます。その一方で、子どもの貧困問題について実感がない、という声も聞かれます。
「子どもの貧困対策法が成立した時、都道府県の対策計画策定が「努力義務」であったことに危機感を持っていたんです。」
子どもの貧困対策センター「公益財団法人あすのば」事務局長を務める村尾政樹さんは、そのような危機感からずっと地方自治体の対応を注視していました。そして、共同研究プロジェクト(首都大学東京子ども・若者貧困研究センターと日本大学、公益財団法人あすのばによる、子どもの貧困対策「見える化」プロジェクト)のメンバーとして参画し、全国的な調査を実施、2016年8月には、「都道府県の子どもの貧困対策事業調査2016」として結果が公表されました。
なぜ調査が必要だったのか
今回の調査に先駆けて、2015年に、子どもの貧困対策について各都道府県の計画策定状況を把握する調査が実施されました。計画策定済みの自治体は多く、まだ策定ができていない自治体も計画策定の予定あり、という回答がほとんどでした。子どもの貧困対策法に定められた「努力義務」はある程度果たされているようでした。
しかし、肝心の中身はかなりのばらつきがあった、と村尾さんは説明します。独自に具体的な計画を策定している自治体がある一方で、大綱(2014年に閣議決定された「子どもの貧困対策に関する大綱」)を「コピペ」しただけのような計画も見られました。
「やる気のある自治体では取り組みが進む一方で、手探り状態のまま進展がない自治体も出てくる可能性がありました。このままでは地域ごとの対策に格差ができてしまう。それならば、都道府県の取り組みを「見える化」して、他の自治体が参考にできるような良い取り組み(グッド・プラクティス)を情報として提供できたらいいのではないかと考えました。そういう目的で都道府県が実施する子どもの貧困対策事業を調査したのです。」
子どもの貧困対策グッド・プラクティスとは
震災の影響で回答が不可能であった熊本県を除き、すべての都道府県から調査の回答を得ることができ、さらに独自に新しい試みも行われていることが明らかになりました。調査結果から、特に独創的で先進的と考えられた15の事業は「グッド・プラクティス」として報告書の中で紹介されています。
(出典:都道府県の子どもの貧困対策事業調査2016報告書)
調査から見えた、すべての自治体に必要な取り組み
さまざまなグッド・プラクティスがある中、今最も重要な取り組みは何か、村尾さんに尋ねました。
「「先ずは子どもに一番近い地域で子どもの貧困について理解してもらわなければいけない」ということがいつも大切だと考えています。」
実態に基づいた対策を行うために、まずは声を聞く仕組みを作ること。これはどの都道府県にも必要な取り組みである、というのが村尾さんの指摘です。
たとえば、グッド・プラクティスに選ばれている長野県の「子どもの声アンケート」や神奈川県の「かながわ子どもの貧困対策会議・子ども部会」などのように、子ども自身や、子どもに寄り添う団体や支援者の声を直接政策に反映させていく仕組みをすでに作っている自治体があります。貧困の実態を把握することは難しい場合も多く、「声を聞く」仕組み作りはどの自治体にとっても参考になるのではないでしょうか。
地域格差を生まないために
都道府県による取り組みは始まったばかりで、政策の効果を評価することまだできません。
しかし、調査や分析を継続していく中で、より良い事業を特定していくことができるではないかと考えられます。そのような良い事業については、法律改正や国の大綱見直しを通して各都道府県の必須事業として義務化されることが、プロジェクトの一つの目標です。
次のプロジェクトでは、市町村を対象に、子どもの貧困対策に関する調査を行う予定です。調査分析を積み重ねて、地域格差ではなく、各地域に根差した子どもの貧困対策を後押ししたい。調査にはそのような「想い」も込められています。
参考:
野口由美子(ブログ Parenting Tips)