2016年8月、30年ほど前に出版された絵本が復刊されました。
かこさとし しゃかいの本
「こどものとうひょう おとなのせんきょ」
という絵本です。
ネット上での反響から復刊へ
絶版となっていたこの絵本は、かこさとしさんという有名な絵本作家の作品でありながら、あまり知られていませんでした。私の息子が学校の図書館からこの絵本を借りてきて、親子で読んだ時のことを書いたブログ記事が広まり、初めて存在を知った方も多かったようです。
・ハフィントンポスト日本版ブログ記事
「投票って何?」ある絵本に驚きの答え (2016年06月25日)
・朝日新聞デジタル
「みんしゅしゅぎ」って何? ネットで話題、絵本が復刊 (2016年8月23日)
しかし、ブログ記事自体は、単なるきっかけに過ぎませんでした。
この本は、少数でもすぐれた考えや案を、狭い利害や自己中心になりやすい多数派が学び、反省する、最も大切な「民主主義の真髄」をとりもどしたいという願いで書いたものです。
そうあとがきに書かれた作者の思いは、人の心を突き抜く強さで伝わっていったのだと思います。「いいね」やツイート、シェアを通じて多くの方から反響をいただいたことが、復刊へとつながりました。
異色の絵本
絵本を紹介した私自身は、失礼ながら、この絵本は人気が出なかっただろうと思いました。人気のある絵本というのは、大抵、子ども自身が楽しめるものであり、子どもに読んであげる大人にとっても楽しいものです。
「この絵本を読んでどう思いましたか。」
ブログ記事を発表した後、よく聞かれました。私は「絵本に追い詰められているようで、つらかった。」と、答えています。正直なところ、全く楽しくありませんでした。
絵本の中で大人は「あなたは、投票を、民主主義を、勘違いしているのではないか。」と作者から批判されることになります。絵本を読みながら、批判されている大人を横で見ている子どもも戸惑っていました。しかし、それが始まりで、私も子どもも一緒に真剣に考えていました。
かこさとしさんの作品には楽しくて人気のある絵本がたくさんあります。あえてこのような絵本を作って、真剣な思いをぶつけてきたのです。今だからこそ、その衝撃を、受け止めようとする人が多いのかもしれません。
世代を超えて読まれる本に
復刊を手掛けた復刊ドットコムによると、この絵本は児童書や絵本の売り場に置かれるだけでなく、ビジネス書や実用書売り場で扱われることもあるそうです。これは珍しいことです。幅広い人にこの絵本を届けたい、大人にこそ読んでもらいたい、と考える人が書店にもいるのだと思います。
これは単なる子ども向けの本ではありません。大人も若い人も子どもも、多くの人が手に取って、考えてみてほしいと思います。
野口由美子(ブログParenting Tips)
(編注:記事内の画像は、使用にあたり復刊ドットコム社の許諾を得ています)