大切な人を失ったとき、子どももグリーフを経験することを知っていますか?
グリーフとは「深い悲しみ」や「悲嘆」を意味する言葉で、大切な人を失ったときに起こる身体上・精神上の変化を指します。死別に関わらず、離婚や引越しなどで喪失を経験したとき、私たちはグリーフになります。
大人のグリーフと比べ、子どものグリーフは複雑です。子どもは感情を的確に表現する言葉を持っていないため、気もちが行動にでてしまいがちです。グリーフを乗り越えられなかった子どもは、後に非行に走ったり、登校拒否やひきこもりになったりする場合もあります。
幼いころ母親を病気で亡くし、そのグリーフが原因で学校で問題を起こしていたオリビアという少女のストーリーを『ラスト・ソング』で紹介しました。彼女の母親はガンで亡くなったのですが、オリビアは母親の死を自分のせいだと思っていました。
父親は亡くなった母親の話を避けるようにしていたため、「お母さんは忘れられてしまった」とオリビアは感じていました。気もちを表現する場がなかった彼女は、学校で同級生と喧嘩したり授業をさぼるようになったのです。
音楽療法のセッションを通じて、オリビアは少しずつ自分の気もちを話せるようになり、母親の死は自分の責任ではないことを理解しはじめました。そして、母親を亡くしたグリーフと現在の自分の行動が関係していることにも気づいたのです。
周囲の大人の反応によって、子どものグリーフの過程は大きく変わります。大切な人を亡くした子どもたちに、私たち大人はどう接したらいいのでしょうか?いくつかのポイントをご紹介します。
1. 死について、なるべくシンプルに真実を伝える
「おじいさんは眠っているのよ」、「神様がパパを連れて行ったのよ」というような抽象的なフレーズは、子どもを混乱させます。子どもは言葉を文字通り受けとめるため、「おじいさんは眠っているのなら、いつか起きるだろう」と考えたり、「神様がパパを連れて行ったのなら、次はママが連れて行かれるかもしれない」と心配したりするのです。死についての理解力は子どもの年齢によって違いますので、その子の年齢に合わせて、シンプルに真実を伝えることが大切です。
2.亡くなった人の話を避けない
人が亡くなったとき、周囲の大人は子どもにつらい思いをさせまいと、死んだ人の話を避けようとします。しかし、このような行動は子どもにとって逆効果です。子どもは、死んだ人が忘れられてしまったと感じます。そして、死について質問したり、気もちを表現する場を失ってしまうのです。
3. 気もちを表現し、死やグリーフについて質問できる環境をつくる
子どもが安心して気もちを表現する場をつくることが大切です。音楽療法やアートセラピーは、子どものグリーフケアに効果的です。音楽やアートを使って感情を表現することが、グリーフを乗り越える力になるからです。子どもは長時間にわたってカウンセリングができません。言葉だけのカウンセリングは、子どもにとって強烈過ぎることが多いため、音楽やアートを使って遊びの要素を取り入れることでバランスをとるのです。
4.大切な人が死んだのは、子どものせいではないことを教える
身近な人が死んだとき、子どもは自分のせいだと思うことがよくあります。「私がいい子だったらお母さんは死ななかった」とか、「私が弟をいじめなければ、弟はまだ生きていたかもしれない」というふうに考えます。そのような思考が、子どもに悪い影響をおよぼすのは言うまでもありません。大切な人が死んだのは、子どものせいではないことを伝えてください。
死や離婚などの喪失の後も、人生は続きます。グリーフはつらく長い道のりですが、周りのサポートがグリーフを乗り越える力につながります。それは、子どもも同じです。グリーフになっている子どもたちをサポートするためには、まずは私たち大人がグリーフを理解し、受けとめることが大切です。
グリーフについて詳しくは、「グリーフ Q&A」や「グリーフが複雑になる6つの理由」をご覧ください。
(「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)
著書『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)
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