最新データからみる、アメリカのホスピスケアの現状

アメリカのホスピスケアはパーフェクトではありませんが、年月をかけて今の形ができたのだと思います。
Unsplash/Chungkuk Bae

数年前、「アメリカのホスピスについて知らなかった6つのこと」という記事を書きました。アメリカで死亡する人のほぼ半数がホスピスケアを利用すること、病名関係なくケアが受けられること、それらの費用は政府によって支払われること、などをご紹介しました。

この記事には多くの反響があり、さまざまな質問が寄せられるのですが、一部データが古くなってきましたので新しいデータをご紹介します。また、皆さんから寄せられる質問にもお答えします。

ホスピスや緩和ケアは「観念」+「システム」ですので、国によって若干解釈は異なりますが、基本的にはどちらも「患者さんに苦痛がないよう、医療だけでなく心のケアを提供すること」を目的としています。

緩和ケアとは早期の患者さんにも提供されるものですが、ホスピスケア(エンド・オブ・ライフ・ケアとも呼ばれる)は、「余命の短い患者さん」に提供されるものです。詳しくは、「ホスピスと緩和ケアの違いと共通点」を参照ください。

アメリカには、65歳以上になると給付の対象となる「メディケア」という公的医療保険制度があります(65歳未満でも、障害があり社会保障障害年金を受給している人も対象となります)。

昨年のデータによれば、メディケア対象者の46%の人がホスピスケアを利用しました。

患者さんの病名や病状に関わらず、ホスピスケアに必要な経費は全てメディケアから支払われます。医療保険制度が発達していないアメリカで......? と驚く方も多いかもしれません。末期の病気と共に生きている人々を支えるために、1982年に"The Medicare Hospice Benefit"という法令が定められ、多くの人がホスピスケアを受けられるようになったのです。

メディケアがホスピスケアを受けている患者さん一人当たりに費やす平均は、一日約153ドル(日本円で約17000円)です(Hospice and End-of-Life Options and Costs)。

訪問看護、ホスピスエイド(看護助士)、ソーシャルワーカー、医師、言語聴覚士、理学療法士、作業療法士のサービス、カウンセリング(スピリチュアルケア、栄養カウンセリング、など)、ホスピス病棟でのケア、医療器具、薬、遺族へのグリーフカウンセリングが提供されます。

音楽療法、アートセラピー、マッサージセラピー、アロマセラピー、ペットセラピーなどはすべてのホスピスで行われているわけではありませんが、これらのサービスを提供するホスピスは年々増えてきています。

65歳以下の患者さんは、個人の保険でホスピスケアを支払うことになります。アメリカ人の場合は保険がない人も多いので、保険がなくメディケアの対象にならない患者さんがたまにいます。そのような場合の対応はホスピスによって異なると思いますが、私が以前働いていたオハイオ州のホスピスでは、寄付金を利用してケアを提供していました。そのため、「費用が払えないからケアが受けられない」というケースはありませんでした。

ホスピスケアを受けるのに病名は問われませんが、最も多い病気はがんです。昨年のデータでは、ケアを受けている人の病名の比率はこのようになっています。

がん=27.2%、心臓病・循環器病=18.7%、認知症=18%、呼吸器疾患=11%、脳卒中=9.5%、その他=15.6%。

平均の滞在期間は23日。74.9%の人が90日間以内のケアを受け、180日間以上ケアを受けた人は13.1%でした。もっと早くからホスピスケアを受けて欲しい、というのがホスピス側の願いなのですが、それがなかなか難しいのです。

「ホスピス」=「死」というイメージはアメリカ人にもありますので、なるべくホスピスを避けたいとい気持ちがあるのでしょう。しかし、ホスピスケアを受けると寿命が延びる場合があるという研究結果も出ています。ホスピスケアについて正しい認識を広め、なるべく早い時期からケアを導入することが今後の課題と言えるでしょう。

大半のケアは在宅で行われています。昨年のデータによれば、44.6%のホスピスケアは患者さんの自宅で提供され、32.8%が老人ホームで提供されました。ホスピス病棟で行われたのは14.6%のみです。

日本と同様に、在宅ケアが主流となってきていることがわかります。その大きな理由は経済的なことです。ホスピス病棟でのケアにはお金がかかるため、すべての患者さんを病棟でケアすることは不可能です。そのため、患者さんが在宅で最期まで過ごせるようにサポートしていくことが大切になってきます。

ここで重要な点が家族へのサポートです。在宅ケアで負担がかかるのは家族ですので、家族が最期までケアできるように必要なトレーニングを提供したり、精神的サポートを行うことが大切です。ホスピスケアの対象は患者さんだけではなく、"loved ones(家族、友人、恋人など)" も含まれるのです。

そのため、ホスピスケアは患者さんの死後も続きます。グリーフ(悲嘆)を経験している遺族へのサポートを提供することはホスピスケアの一環と考えられています。その内容はホスピスによって若干異なりますが、個々のグリーフカウンセリングやグリーフサポートグループを提供したり、メモリアルサービスを定期的に行ったり、電話や手紙を通じて遺族と連絡を取り続けたりします。

音楽療法はホスピス病棟や在宅など、患者さんの生活している場所で提供されます。基本は音楽療法士がひとりで訪問しますが、患者さんのニーズによって、ソーシャルワーカーやチャプレン(聖職者)などと一緒に訪問する場合もあります。また、音楽療法を遺族のグリーフケアとして用いる場合もあります。

音楽療法について詳しくは「音楽療法とは?」を参照ください。

今回はアメリカのホスピスケアの現状をご紹介しました。文化の違いはあれど、人生の最期に人々が求めているものに国境はないと思います。苦しみたくない、しっかりとしたケアを受けたい、家族に負担をかけたくない、有意義な時間を過ごしたい、人間として尊重されて最期まで生きたい。アメリカでも日本でも患者さんの願いは同じです。

現在日本でホスピスケアを受けることができる患者さんは、ごく少数です。近所に良い在宅医の先生がいる、緩和ケア病棟があってそこに入院できる、入居している高齢者施設でホスピスケアを行っている、などの場合は問題ないのですが、地域によってかなりのばらつきがあるのが現状です。

アメリカのホスピスケアはパーフェクトではありませんが、年月をかけて今の形ができたのだと思います。日本にもホスピスケアが広まることを願うばかりです。そのためには、医療関係者のみならず一般の人たちにもっとホスピスケアを知ってもらうことが大切だと思っています。この記事が参考になりましたら、ぜひお友だちやご家族と共有ください。

(2018年9月7日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

佐藤由美子(さとう・ゆみこ)

ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院を卒業後、アメリカと日本のホスピスで音楽療法を実践。著書に『ラスト・ソング』『死に逝く人は何を想うのか』。