音楽の素質とはどんなもの? 

前回の記事「音楽療法とはどんなもの」で、皆様からよく寄せられる質問にお答えしましたが、大切なことを書くのを忘れていました。それは、「音楽療法を受けるのに、音楽の素質が必要か」ということです。
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前回の記事「音楽療法とはどんなもの」で、皆様からよく寄せられる質問にお答えしましたが、大切なことを書くのを忘れていました。それは、「音楽療法を受けるのに、音楽の素質が必要か」ということです。

まず、音楽の素質とは一体何でしょうか。歌がうまく唄えるとか、楽器を弾けるということでしょうか? それとも、音楽的才能があるということでしょうか? 実は、違います。私達は、みんな生まれ持った音楽の素質があるのです。もし、あなたがそうでないと思っているのなら、それは自分自身の音楽的素質に気づいていないだけです。

音楽的能力に関わらず、どなたにでも音楽療法の効果が現れる理由はもう一つあります。それは、音楽療法で肝心なのはプロセス(過程)であり、プロダクト(結果)ではないからです。歌をうまく唄えたかとか、楽器が上手に弾けたということは結果です。しかし、音楽療法で肝心なのは、その過程で得られることなのです。

私は音楽療法士になったばかりのころ、アメリカのオハイオ州にある、3歳から5歳児が通う地域の施設で音楽療法を行うことになりました。そこに来ていた子どもは20人ほどいて、半数の子どもたちは自閉症やダウン症などの障害があり、その他は障害のない子どもたちでした。

施設に行った最初の日、私は目の辺りにした光景に驚きました。障害のある子どもたちと障害のない子どもたちは、別々に遊んでいたのです。つまり、子どもたちはそんなに幼くても、自分と似たような子とそうでない子を区別することができるのです。そして、自分と似たような子と遊ぼうとするのです。障害のある子とない子の交流は、ほとんどありませんでした。

私は音楽療法の目的を、「障害のある子どもたちと、ない子どもたちが交流しあうこと」と決めました。

音楽療法のセッション中、セサミストリートの「Sing」という歌を使って、歌詞にあった手話を子どもたちに教えました。言葉が話せる子は歌を唄いながら手話をする。話せない子は手話だけする。すると、面白いことが起こったのです。ウィルというとても機転の利く子が、聞きました。

「なんで僕は唄わなければいけないのに、ケンは唄わなくてもいいの?」

ケンには障害があり、言葉が話せなかったのです。ケンは唄わなくてもいいけど、手話はできるのだから、みんなと一緒に手話をするのだと説明しました。すると、驚いたことにウィルはこれをすぐに理解し、他の子も納得したのです。

もう一つの驚きは、ケンが誰よりも早く手話を覚えたことです。それによって、ケンは言葉が話せなくてもちゃんと物事を理解しているのだということが、他の子どもたちにもわかったのです。ケンがお手本になってみんなに手話を教えたおかげで、クラス全員がちゃんと手話を覚えました。

そして、その年のホリデーコンサートで、子どもたちは、歌と手話をとても上手に披露したのです。私はそれを見て、子どもたちを誇らしく思いました。しかし、それはコンサートがうまくいったからではなく、音楽療法の過程でみんなが成長したからです。

子どもたちは、一緒に唄い手話をすることによって、交流をもつことを学んだのです。

音楽療法の目的は、音楽が上達することではなく、その過程にあります。ですから、個人の音楽的能力はセラピーと関係ないのです。

それに、音楽の素質は誰にでもあります。あなたにもあります。もしかすると、それに気づいていないだけかもしれません。

(この記事の英語版 「What Does It Mean To be Musical?」)

Twitter ID: @YumikoSatoMTBC

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