こんにちは。米国認定音楽療法士の佐藤由美子です。
昨年の2月、ハフィントンポストに私のブログ「佐藤由美子の音楽療法日記」が掲載されるようになってから、皆さんからたくさんのご質問をいただきました。
その中でも圧倒的に多いのが「音楽療法ってそもそも何?」という質問です。
基本的なことは「音楽療法 Q&A」でご説明しましたが、もっと音楽療法について知りたい方のために、今日は皆さんからよくある7つの質問にお答えします。
1.音楽療法はアメリカではじまったと聞きましたが、アメリカではどのように定義されているのですか?
音楽療法の定義や資格の内容は、国によって違います。米国音楽療法学会(American Music Therapy Association)の定義にはこのように示されています。
音楽療法とは、臨床的かつエビデンスに基づいた音楽の使用法。セラピストとクライアント(対象者)の治療関係の中で、個人の目的を達成するために音楽を使う。承認された大学を卒業し、資格をもった音楽療法士によって行われる。(Definition and Quote about Music Therapy)
ここでのポイントは、音楽を「治療関係の中で使う」という点です。音楽療法において一番大切なのはセラピストとクライアントの信頼関係です。音楽療法士は音楽を使って、クライアントとの信頼関係を築いていきます。
もうひとつのポイントは、音楽療法は資格をもった音楽療法士によって行われるものと定められている点です。アメリカでは、サウンド・セラピーやハープ・セラピーなど、音楽を使うさまざまなセラピーがありますが、音楽療法(ミュージックセラピー)とは区別されて考えられています。なぜなら、資格の内容が全く違いますし、行うことも異なるからです。
2.音楽療法士になるには?
音楽療法士の資格の内容や制度は、国によって異なります。米国認定音楽療法士(MT- BC)になるには、承認された大学の音楽療法のカリキュラムを終了しなければなりません。
音楽療法士になるには、さまざまな勉強が必要です。まず、音楽療法士はすぐれた音楽家でなければなりません。米国認定音楽療法士になるには、ピアノ、ギター、歌ができることが条件です。
そして、セラピーの過程を知る必要があります。大学では、音楽療法理論、音楽史、音楽理論、心理学、解剖学などを勉強し、臨床経験を積みます。その後、フルタイムで6ヶ月以上のインターンシップを実行すると、試験を受験する資格が与えられます。
日本音楽療法学会認定音楽療法士になる方法は、こちらをご覧下さい。
3.音楽療法士は何をするのですか?
音楽療法はクライアント(対象者)の身体的、感情的、認知的、精神的、社会的なニーズに対応するために、音楽を意図的に使用する療法です。
そのためにはまず、クライアントの「ニーズ」は何かを知る必要がありますので、アセスメントというものをします。アセスメントでは、音楽療法を委託されたクライアントに音楽療法が適しているか、その人が何を必要としているかを判断します。クライアントによっては音楽療法を行ったことが逆効果になる場合もありますので、アセスメントは重要な過程です。
そして、アセスメントの結果に基づいて治療法を考えます。例えば、不安やストレスを軽減することが必要な患者さんがいるとします。その不安の原因が、「息切れ」などの身体的なものからきている場合、音楽療法を使ったリラクセーションをします。また、その不安が人間関係等の悩みが原因の場合、音楽を使っての心のケアやカウンセリングをします。
4.音楽療法のセッションは個人で行うのですか、それともグループですか?
両方です。どちらがいいかは、そのクライアントのニーズによって決めるのが理想的です。例えば、グリーフ・サポートグループ(大切な人を亡くした人たちの集まり)で音楽療法をする場合、グループで音楽療法をすることによって、参加者同士がお互いを支え合えるというメリットがあります。
(グリーフに関してはこちら→「グリーフQ&A」)
しかし、もしそのグループの大半の人が配偶者を亡くした人たちで、その中に一人だけ若いお子さんを亡くしたお母さんがいたとします。その場合、彼女は他の人たちの経験と自分の経験とを結び付けて考えることが難しいかもしれませんので、個人での音楽療法の方が適しているかもしれません。
ホスピスや緩和ケアの患者さんの場合は、基本的に個人セッションが主となります。ベッドに寝たきりの方がほとんどですので、音楽療法士が患者さんのいる病棟、自宅、老人ホームに出向いてセッションを行います。
でも、ご家族が音楽療法に参加する場合はあります。そうすることによって、ご家族に心のケアを提供したり、ご家族と患者さんが有意義な時間を過ごすお手伝いをすることができるからです。
私がシンシナティで音楽療法士として活動していた際、ホスピスの患者さんとその娘さんとの音楽療法セッションを記録しました。その動画をご覧いただくと、実際の音楽療法の様子がわかると思います。動画はこちら ↓
5.音楽が弾けないと音楽療法を受けられないのですか?
音楽療法を受けるのに、音楽的能力は関係ありません。
音楽療法で肝心なのはプロセス(過程)であり、プロダクト(結果)ではないからです。歌がうまく唄えたかとか、楽器が上手に弾けたということは結果です。しかし、音楽療法で肝心なのは、その過程で得られることなのです。(→「音楽の素質とはどんなもの?」)
6.音楽療法士にはさまざまな専門分野があるのですか?
アメリカでは音楽療法が普及していますので、音楽療法士はいろいろな場所で活動しています。精神病院、リハビリ施設、医療病院、ホスピス、発達障害者にサービスを提供する機関、薬物やアルコール依存症治療のプログラム、刑務所、老人ホーム、学校など、さまざまです。
このような場所で働くためには、その分野に関しての専門知識が必要です。一人ですべてのことを知るのは不可能ですので、大抵の音楽療法士は専門分野を持っています。
7.ホスピスや緩和ケアの音楽療法士の仕事ってどんなことをするのですか?
私は終末期医療を専門とする音楽療法士として、10年間シンシナティのホスピスで活動してきました。その経験をまとめた本が、『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)です。
音楽療法士にとって、まわりの人に音楽療法を理解してもらうことが一番大変なことだと思います。それは、音楽療法が普及しているアメリカでも同じです。
音楽療法は、私たちセラピストとクライアントの信頼関係の中で音楽を使うことが基本ですので、それを知ってもらうためには、私と患者さんとのストーリーを書くことが必要だと思いました。
今まで看てきた何千人もの患者さんやご家族の中で、最も印象に残っている10のストーリーを紡いだのが『ラスト・ソング』です。
この本を通じて、多くの人に音楽療法士の仕事を知ってもらうことができればと願っています。
(「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)
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