研究結果からみる「音楽療法」と「音楽レク」の違いとは?

「音楽療法」をしているつもりが「音楽レク」になっている理由
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「音楽療法(music therapy)」と「音楽レク(recreational music making)」の違いは何でしょうか? これは音楽療法に関する最も多い質問のひとつです。今日はこの問いについて、いくつかの視点から考えてみたいと思います。

先日のBLISSエピソードでは、音楽療法士の生野里花さんにお話を伺いました。その中で、生野さんはこのように語っています。

レクリエーションは多くの場合、人を活性化することを目的とします。それに対して音楽療法の目的は、人と関わることです。

ー「音楽療法とレクリエーションの違いとは? 生野里花氏インタビュー」より

音楽療法において最も大切なことは、クライエントとの「関係性」です。

一般的にレクリエーションは「楽しむこと」が焦点となりますが、音楽療法は「治療目的」に焦点をおいたアプローチです。私の恩師であるジム・ボーリング教授はこのように語っています。

音楽療法は「楽しいこと」となり得るし、楽しいことには癒しの力がある。しかし、楽しいからといって必ずしも「音楽療法」ではない。

音楽療法とは簡単に言えば、クライエントのニーズに対応するために音楽を効果的に用いる療法です。「ニーズに対応する」という部分がいわゆる「治療目的」です。

まとめると、音楽療法はクライエントとの関係性の中で、治療目的を達成するために音楽を使用するアプローチと言えます。これは米国音楽療法学会の音楽療法の定義にも書かれています。

私の講演やセミナーに参加された方たちからよく聞くのが、「音楽療法をしているつもりだけど、レクになっている気がする......」という悩みです。

彼女たち(彼ら)に共通することは、高齢者施設で認知症の方を交えた大人数のグループセッションを行っているという点です。それがどうしてもレクになってしまうのは、なぜでしょうか? ボーリング教授は次のように説明しています。

(認知症高齢者との)音楽療法が大きなグループで行われた場合、クライエントの症状が見落とされてしまう。クライエントと密接に接することによって、症状を軽減するだけではなく、QOL (生活の質)を向上させることができる。

生野さんと同じく、ボーリング氏もクライエントとセラピストの「関係性」を強調します。関係性をつくるには、相手と密接に関わる必要があります。また、「治療目的」を達成するためには、ひとりひとりの症状に目を配る必要があるのです。

音楽療法をグループで行う場合、クライエントの状態やニーズによって参加者数を検討することが大切です。

では、音楽療法と音楽レクの違いや特徴は、どのように「結果」として表れるのでしょうか?

近年、ドイツの老人ホームで興味深い研究が行われました。117人の認知症高齢者をふたつのグループにわけ、ひとつのグループは音楽療法を受け、もうひとつのグループは歌唱を中心とした音楽レクを受けました。

音楽療法のグループは週に2回40分のセッションに参加し、音楽レクのグループは週に1回90分行われました。そして、6週間後と12週間後にうつの症状を評価したところ、音楽療法を受けたグループはうつ状態が軽減されたのです。

音楽レクにもさまざまなメリットがありますが、トレーニングを受けた音楽療法士によるセラピーの方が効果的であることが、この研究結果から読み取ることができます。

音楽療法と音楽レクについての疑問点が明確になったでしょうか? ぜひコメントをお寄せください。

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【参照】

(2018年10月11日「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

佐藤由美子(さとう・ゆみこ)

ホスピス緩和ケアを専門とする米国認定音楽療法士。バージニア州立ラッドフォード大学大学院を卒業後、アメリカと日本のホスピスで音楽療法を実践。著書に『ラスト・ソング』『死に逝く人は何を想うのか』。

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