アメリカのホスピスについて知らなかった6つこと

私は終末期医療を専門とする音楽療法士として、10年間オハイオ州シンシナティのホスピスで音楽療法を実践してきました。音楽療法の現状が日本とアメリカで大きく違うように、終末期医療に関しても国によってたくさんの違いがあります。今日はアメリカのホスピスに関して、皆さんからよくあるご質問にお答えします。

(シンシナティのホスピスでの音楽療法)

こんにちは。米国認定音楽療法士の佐藤由美子です。

私は終末期医療を専門とする音楽療法士として、10年間オハイオ州シンシナティのホスピスで音楽療法を実践してきました。2013年に帰国して以来、音楽療法や終末期医療に関しての執筆や講演活動をしています。

音楽療法の現状が日本とアメリカで大きく違うように、終末期医療に関しても国によってたくさんの違いがあります。今日はアメリカのホスピスに関して、皆さんからよくあるご質問にお答えします。

1. アメリカで死亡する人の約半数が、ホスピスのケアを利用する

アメリカで死亡する約45%の人が、ホスピスのケアを利用しています(→NHPCO Facts and Figures)。ホスピスはアメリカで驚くほど普及しているのです。その大きな理由のひとつは、ホスピスの数です。アメリカでは現在、5300のホスピスがあります。

日本でホスピスケアを提供する機関(ホスピス・緩和ケア病棟として厚生労働省に届け出ているところ)は、全国で308施設です。この内、一般病院と併設でない独立型のホスピスは7施設あります。日本にはホスピスの数が少ないため、ケアが受けたくても受けられない人がたくさんいるのです。

2. アメリカのホスピスケアを受けるのに病名は関係ない

ホスピスというと、末期がんの患者さんのための施設、という印象があるかもしれません。日本のホスピスは、主に末期がんやエイズの患者さんが対象ですが、アメリカでは6ヶ月以内の余命宣告を受けた人であれば、どんな病気でもホスピスのケアを受けることができます。事実、アメリカのホスピスの患者さんの60%以上は、末期がん以外の病気をもった人々です。(→NHPCO Facts and Figures)

ですから私はホスピスの音楽療法士として、認知症、ALS、心臓病、肝臓病など、がん以外の患者さんともお仕事をしてきました。

3. ホスピスは「場所」ではなく「ケア」のこと

ホスピスは単なる場所ではありません。ホスピスとは末期の患者さんやそのご家族のために行われるケアそのものを指すのです。その目的は、患者さんがやすらかに、尊厳を持って最期のときを過ごせるよう、医療だけでなく心のケアを提供することにあります (→『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)参照)。

アメリカのホスピスケアを受けている患者さんの66%が自宅か老人ホームで生活しており、その中でも自宅でケアを受けている人が42%です(→NHPCO Facts and Figures)。

最期を自宅で過ごし慣れ親しんだ場所で死にたい、という患者さんは多いです。そのためにケアを提供するのが、アメリカのホスピスです。日本でも自宅で死にたいという患者さんが増えてきています。そのためには、在宅ケアが今後もっと普及する必要があるでしょう。

4. アメリカのホスピスケアは政府によって支払われる

アメリカの医療システムや保険システムは遅れている、という認識がある人が多いと思います。確かに、アメリカの医療システムにはさまざまな問題がありますが、ホスピスケアに関しては普及しています。

大抵の場合、ホスピスケアは政府から出るメディケアによって支払われます。65歳以下の人の場合は、個人の保険から支払われます。私の以前働いていたホスピスは非営利団体でしたので、65歳以下で保険のない患者さんにも、低額でケアを提供していました。

5.ホスピスにはさまざまなスタッフがいる

アメリカのホスピスには必ず、医師や看護師のほかに、看護助士、ソーシャルワーカー、チャプレン(聖職者)、グリーフカウンセラーがいます。メディケアからお金をもらうためにはボランティアもいなければなりませんので、ボランティアのトレーニングも重要です。

音楽療法士(ミュージックセラピスト)、アートセラピスト、マッサージセラピストなどは、ボランティアではなくスタッフとして雇われています。このようなサービスがないホスピスもありますが、近年ではその重要性が認識され、セラピストを雇うホスピスが増えてきています。

6.ホスピス患者と働いている米国認定音楽療法士は600人にのぼる

私がこの仕事をはじめた12年前、ホスピスでの音楽療法は、アメリカでもまだあまり盛んではありませんでした。しかし現在は、600人以上の米国認定音楽療法士がホスピスや緩和ケアの患者さんと働いています。

終末期医療において、音楽療法士はかかせない存在になってきているのです。音楽療法によって、薬では抑えられない痛みの緩和をしたり、ストレスや不安の軽減をすることができます。また、心のケアを提供することで、患者さんやご家族が最期を有意義に過ごすお手伝いもします。

ホスピス緩和ケアにおける音楽療法に関しては、『ラスト・ソング 人生の最期に聴く音楽』(ポプラ社)を参照ください。

(「佐藤由美子の音楽療法日記」より転載)

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