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2015年07月26日 22時26分 JST | 更新 2016年07月25日 18時12分 JST

ふるさと納税で、地方の教育格差を解消しよう

 ふるさと納税が窮地に陥っているという。加熱する「謝礼競争」に歯止めをかけようと総務省が自粛を呼びかけたため、ふるさと納税が減っているそうだ。しかし常識的に考えても、税金の納付に高額の謝礼を出すというのはおかしな話である。

 私はふるさと納税の仕組みを使って、「地方の子どもたちのための奨学金」を分厚くすることを提案したい。なぜなら、東京と地方の教育格差があまりにも大きいためだ。

 私が代表を務める特定非営利活動法人キッズドアは、東京で低所得の子どもたちの学習支援を2010年より行っている。都市部では親の経済力と子どもの学力が比例する「教育格差」が深刻な問題であるからである。本来、すべての子どもに平等に与えられる「教育のチャンス」が保護者の経済力によって不平等になっている状況は不健全であるからだ。その後、東日本大震災を経て東北での活動を開始した。東京と地方の両拠点で、子どもたちの教育を取り巻く環境に接することとなったのである。そこで、私が非常にショックを受けたのは「教育」に対する温度差である。

 すべての親とは言わないが、東京では「良い教育を受けさせる」ことが,「子どもの将来を明るくする」ということが、ある程度共通認識になっている。「これからの時代、英語ぐらい出来ないと」「やはり大学に行かせたほうが良い」「チャンスがあるなら留学させたい」というような共通認識の上で、「経済的にそれが叶わない」層の子どもたちにどのような支援をするのかを設計すれば良い。子どもたちも「英語が出来るようになりたいけど、成績が悪い」ことに対して悩んでいるのである。それに対して、地方の中学生は、英語が苦手でも「英語なんて、学校出たら使わない。だから勉強する意味が無い」と本気で思っている子が少なくない。高校受験のモチベーションも、定員割れしている公立高校もある中、都心部ほど一生懸命にやる必要がない。総じて学力が低い傾向にある。

 日本の大学進学率は53.9%、50%を超えたと騒いでいるが、中味を良く見て欲しい。東京が最高で72.5%、京都が65.4%、神奈川64.3%,兵庫61.7%に比較して、鹿児島32.1%、岩手38.4%、青森38.6%など40%未満が5県ある。都道府県別の大学進学率の格差は急速に広がっている。20年間で東京は大学進学率が32ポイント、京都が27ポイントも伸びたのに対し鹿児島は8ポイント、岩手は16ポイントしか伸びていない。その結果、都道府県別の大学進学率の最大差は20年前は19.4ポイントだったのに、40.4ポイント、2倍に開いている。(出典:朝日新聞デジタル大学進学率の地域差、20年で2倍 大都市集中で二極化)都道府県別の18歳人口と考えると、大学以上の高等教育を受けた人数の東京と地方の差はますます開く。

 私は、良い大学を出ればいいという単純な学力信者ではないが、教育が人を育て、人が政治や経済を担うという点には多いに賛同する。

 以下の図は、2011年3月に弊団体の年度報告会で基調講演をお願いした当時の文部科学省生涯学習政策局政策課教育改革推進室 今村剛志氏が作成した『経済格差と教育機会の均等 「文部科学白書」を読み解く』の資料から抜粋したものである。

 

図1は公財政教育支出と実質経済成長率の各国比較

図2は一般政府総支出に占める公財政教育支出の割合

図3は各国の大学進学率の比較である。

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大学進学率が50%を超えて「高すぎる」という意見もあるが、これを見る限り、決してそうとは言えないだろう。

 図4は、人口100万人当たりの専攻分野修士号取得者数である。日本はここでも大きく遅れをとっている。

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 教育と経済成長率の話はここで語ると長くなるので、次の機会にするが、世界の常識は、高い教育が経済を成長させるというポリシーのもとに、教育投資を増やしているのである。

 

 図らずも世界の縮図が日本の都市と地方の関係になっている。大学進学率が高い東京だけが経済成長を続けており、大学進学率の低い地方は経済の縮小が止まらない。いかに優秀な人材を地域から出すか、一見遠回りに見える施策が、最も理にかなった地方創成策だと私は考える。

 なぜ、地方で高等教育が進まないのか?それは、地方の県民所得が少ないことが大きな要因であろう。東京都の1人当たり県民所得が442.3万円に対して鹿児島は238.7万円、岩手254.7万円、青森242.2万円である(出典:平成27年度6月3日内閣府経済社会総合研究所国民経済計算部 ) お金がないために、能力もあり、大学進学したいという意欲もある多くの高校生が,大学進学をあきらめているのである。実は、地方では、高校進学にも一つのハードルがある。奨学金がないと高校に進めない子どもも少なからずいるのである。公財政の教育に対する支出が先進国の中でも最下位の日本においては、個人の所得が教育レベルに直結する。県民所得と教育レベルの相関が強まれるなか、若者が「うちの地方はダメだから」と「地方」そのものを否定するような風潮も出始めている。地方の尊厳を保ためにも、教育投資は重要である。

 地方の優秀な子を、お金の心配なく高等教育に進む事ができる環境を早急に整えるべきである。そこで、私は、ふるさと納税の使途を奨学金に限定する「ふるさと納税奨学金コース」を提案する。ふるさと納税の謝礼をなくすかわりに、納税されたお金は100%その地域の子どもの奨学金にするのである。納税する側にとっては、そのお金が何に使われるのかがわからなければ、「豪華な謝礼」に目を奪われるが、もし自分のお金がその地方の「子どもの教育」に使われるのであれば、是非、「ふるさと納税をしたい」と思うのではないか。この仕組みが導入されれば、ほんの一部ではあるが、税金の使途を、市民自らが決めることになる。私の1万円の税金、10万円の税金は間違いなく「教育」に「次世代を担う子どもたち」のために使われるのである。

 「謝礼が出ないなら、寄付する人は減るのではないか?」と心配する人もいるだろう。しかし、「子どもの教育」を支援したいという人は非常に多い。例えばあしなが育英会は、毎年17億円近い募金を集めている。募金は純粋な支出であるが、ふるさと納税は、本来支払うべき税金と相殺されるので、自分の財布はほとんど痛まない。自分のふるさとに、お世話になったあの土地に、大好きな地方の子どもたちのために、自分の税金を使って欲しいと言う人は多いと思う。

 日本という国を考えたときに、地方創成は最重要課題であることは間違いない。そして、地方ではそれを支える人材がいない。人材を育てる事は、教育に他ならない。教育に回すお金が圧倒的に少ない地方に、教育のためのお金を回す仕組みが必要である。

「ふるさと納税 奨学金コース」の設立により、「自分も大学に行ける」と思えば、子どもたちの学習意欲は格段に上がる。低所得の学習支援に携わってきたものとして、自信を持って言える。「親に迷惑かけたくないから」と高等教育をあきらめている子どもたちに、一刻も早く手がさしのべられることを願ってやまない。