私は前職、かなり多くの会社で、いわゆる「社員教育」に携わってきた。
実際、「社員教育したい」という会社は多い。もちろん、素晴らしいことである。しかし、「教育したい」には実は2種類ある。
1つめは、教育して、「会社の言うとおりに動く人になってほしい」と考える会社
もう1つは、教育して、「自分で考える人になってほしい」と考える会社
どちらでも結構である。これは、「良い」「悪い」ではなく、経営者の社員に対する価値感の問題だ。
もちろん、多くの経営者はこの中間のことを考えている。「会社の言ったことを守らない」のは困るし、かといって、「言われたことだけしかしない」のも困る。要はさじ加減だ。しかし、経営者が「バランス」が大事だと考えていても、往々にして現場はそうならない。
それは、経営者が考えていることをできるだけわかりやすくしないと現場に伝わらないからだ。
多くの場合、上から現場へ考え方を伝える中で、その考え方は極端に単純化される。
したがって、多少なりとも「とりあえずはオレの言うことを聞いて欲しいよな~」と常々思っている経営者の会社は、社員教育は「躾」と「理念教育」、「今直ぐ使える知識」に振れる。
逆に、「自律性のない社員は要らない。オレの言うことは多くの意見の一つだ」と常々思っている経営者の会社は、社員教育のメインが「今すぐは使えないが、応用が効く知識の獲得」と「交流の促進」などがテーマとなることが多かったように思う。
以前、極端な社員教育に関する記事を見た。
こんな研修やっている会社があるのか?という疑問を持つ方もいるだろうが、私もこれに類する研修を行っている会社を実際に見たことがある。
彼等は品川や秋葉原の駅前で、見知らぬ人に対して「名刺交換してください!」と頼んで歩いていた。もちろん普通の人は気味が悪いと思ってか、これに応じることはない。
ごく一部の親切な人が、彼等を気の毒に思って交換に応じているが、交換に応じると後から「不動産を買いませんか?」というメールがくる。迷惑千万である。
だが、おそらく会社はこれを「躾」と思ってやっている。新人は基本的に「子供」であり、「大人」である我々が教育してやる、という訳だ。
まあ、それも悪く無いだろう。実際に大人になりきれていない社会人は数多い。手っ取り早く「子供」を社会に送り出すには、多少の荒療治は必要であると考えているのかもしれない。
これとは対照的に、「ユニークな研修」といわれるものもあり、このような研修は「大人」を対象としている。直接的に業務に役立つことはそこまで教えない。それは自分で勉強できると思っているからだ。
その代わり、「考え方」や「知識の獲得の方法」、「貴重な経験」を研修で伝える。いわゆる「メタ知識(知識に関する知識)」というものを提供する。
固定された考え方を伝えるより、すぐに使える知識ばかりを教えこむより、知識を扱う技術、経験をノウハウ化する技術を教えたほうがはるかに応用範囲は広い。
経営者にとっては、 どちらを選択するか、悩ましい問題だろう。だが、仮に「自分の子供が入社するなら、どちらの研修を行う会社を選んで欲しいか」と聞かれたら、選択するのは、当たり前だが後者だ。
・2013年6月12日 Books&Apps に加筆修正
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