まだ鼠蹊部圧迫しているの?〜伝統文化の課題はどのように価値を「ズラす」かと言うこと〜後編

最初は「使われなくなった下着=ふんどしを現代風に作り直す」という、明らかに合理的ではない選択をした自分自身を疑問視した時もありました。

「古きよきもの」や伝統文化はまず売れないし儲からない、というスタートを認識することから

前回の記事:

「まだ鼠蹊部圧迫してるの?」〜伝統下着ふんどしに私たちが熱中しているわけ〜前編

こうして起業してからあっという間に半年が経ちましたが、思った以上にスピード感を持って進められた一方で、多くの課題にぶつかっています。

最初は「使われなくなった下着=ふんどしを現代風に作り直す」という、明らかに合理的ではない選択をした自分自身を疑問視した時もありました。どうして学生である副代表の野田を退学させてまで、こんなに効率の悪いことをするのか、なんて思ったこともあります。また、周りの人の中には、善意で「やりたいことはお金貯めてからやったら」というアドバイスをしてくださる方もいらっしゃいます。

日本に限らず、ヨーロッパにおいても伝統産業は存在しますし、職人はいます。一例をとってみれば、イタリアのオーダーメイドスーツ。日本にもコアなファンがいるように、イタリア人もこの文化に対して、僕と同世代の友人も理解とリスペクトがあったとしても実際に着るのは量販店のスーツやZARA・H&M・ユニクロといったファストファッションがメインです。結局、背に腹は変えられないんですね。

日本でも職人を一定の敬意はあるといえども、実際に彼らが満足に生計が成り立っているか、といえばそんなことはありません。それは皆見るだけでお金を払わないからです。

したがって、私たちはこの縮小産業にどのような価値を生み出し突破口を見出すのか、それを具体的に実行するために、それ相応の覚悟と新しい価値を生み出す必要がありました。

心の底からやりたいことを徹底的に形にしよう。それが今後の世界にきっと必要だから。

振り返ってみれば、私も副代表の野田も大学の学びの影響が大きかったかもしれません。

在学時には東京大学のischoolという場所でイノベーションのためのアイディアを生み出す技法を1年間かけて学んだのですが、そこでは徹底的にデザイン思考、アイディアを発想する技術を学んでおりました。

具体的には、当時から自動運転を始めとする新技術や社会問題解決に取り組んだり、シンギュラリティを迎えた時における、個人がどう生きるべきか、人間らしさとは何なのか、ということを問われ続けていたのでした。

果たして「人間らしさ」、とは何なのか。

こうしたことを考え続けてきた末に、我々は事業を通して、

「自分が他の誰でもない、自分である、という存在感を示すこと」

と考えるようになったのでした。

また、その後返済不要の留学奨学金を学生に給付する「官民協働海外留学支援制度~トビタテ!留学JAPAN 日本代表プログラム~」で海外に留学したことで、日本の文化がどのように評価されているのかを過大評価でもなく、過小評価でもなく、認識することができました。

ふんどし、という一見イノベーションからはほど遠い分野ですが、それでも布一枚で我々がどこまで表現し、人々の生活観にどう影響を与えられるのか。そう考えた時、我々は衣服が持つ機能を一度再定義することから始めています。

私が海外から帰ってきて印象的だったのは、日本のスーツを着たサラリーマンが全然生き生きしていなかった、というもの。なぜなら、イタリアやフランスで着られるスーツは仕事着でありつつも、基本的にオシャレであり、自己表現のためのものとしての機能もあるからです。

一方で、ミラノにいた日本人の集団も、日本で見るサラリーマンもスーツを着れば、それは個性としてではなく、隣の人と同じ所属であることを示すためだけの服だからでした。したがって先述した人間らしさ、の観点から言えば、あるべき未来ではないというのが私たちのスタンスです。

ですから、白昼堂々、ふんどしで現れるのは当然ぎょっとさせられるのですが、一方で、「なぜそこまで自分をさらけ出せるのか」という驚きとともに一般的に持っている衣服への価値観を壊す、もしくはズラす、ということが出来ればいいと思ってます。

伝統文化の課題はどのように価値を「ズラす」かと言うこと

以上が我々なりのふんどしに対する価値のズラしかたなのですが、一般的に伝統産品は縮小産業であり、その理由は日常生活に使われなくなったことによります。

ですから、明快ではありますが「良いものはわかったけれど、実際は使わないよ」という認識を覆さないといけません。

例えば、0歳から6歳までの雑貨を取り扱った「aeru」は「ズラし」が明確に社会に伝わっている一つのモデルだと思いますし、こうした在り方をあらゆる方法で社会に提示すべきだと考えます。

しかし、イノベーションを起こす、と一口にいっても例えば自動運転技術やドローン、など、誰が見ても未来を予見させるようなものばかりでなく、既存の印象を丸ごと変えるような「価値のズラし」が我々が目指すイノベーションです。

少なくともまだ私たちのプロダクトに科学技術的に特筆すべきところはないのですが、普段何気なく着る衣服に対して疑問を投じ、人々の価値観に影響を与える、それが出来れば一つの事業として軌道に乗っている、と言えるのではないでしょうか。

まだまだ発展途上ではありますが、幸いにしてふんどし販売だけに限らず、現在業務は多岐にわたっており、例えば学生を対象にしたイノベーションワークショップや法人のプロモーションを前提にしたトレーニングなどの発注もいただいております。

どうやったら人々の認知不協和を起こせるのか。

株式会社ふんどし部のふんどし事業はふんどしそのものを売りたいからやっているのではなく、生き方・ライフスタイルを提案したい、というコアがあるからです。

そのために、常日頃から私たちは「人々の常識をどう破壊するか」、「どうやったら人々のWow!を引き出せるか」ということをコンセプトに活動しております。

一例として、歌舞伎町でTocacocanというスタジオで番組を持っていた時は、ふんどしゴミ拾い活動を行っておりました。

予想よりははるかに反響があり、訪日外国人用のメディアである、PLAYTOKYOにその様が取り上げられ大変反響を呼びました。中には今までで一番面白かった、と言ってくれた方もおり、一定の高評価を得られたようです。

さて、こうしてしばらくの時間が経過し、いざ自分達のやっていることを俯瞰してみると、私たちの事業は多くの方がこちらが必要なタイミングで手を差し伸べてくれたことを実感しますし、これをしっかり基盤にしていくこと、そのものが私たちが身を挺して社会に示したいメッセージだと思っています。

お金になる/ならないの価値観を超えて、そこからどうこれからの社会に価値を提供していくのか、そこから資本を回していくのか、決して優しくない道のりですが、新しい衣服のあり方として、会社のあり方として、提案していければと思います。

注目記事