あいまいなネイティブ広告に米FTCは苛立ち、ニュースユーザーは落胆を

てっきり編集記事と思って読んでいると、実はそれは広告であった。そのような時に、騙されたと落胆する消費者が米国で少し目立ってきているようだ。

てっきり編集記事と思って読んでいると、実はそれは広告であった。そのような時に、騙されたと落胆する消費者が米国で少し目立ってきているようだ。オンラインメディアでネイティブ広告が急成長するに伴い、編集記事との境界が紛らわしいネイティブ広告に対して、不満を漏らす読者が現れるのは仕方がないかもしれない。でもある割合以上に不満を漏らす者が増えてくると、米連邦取引委員会(FTC)も消費者保護の立場で無視できなくなる。

そこで、FTCのMary K. Engle氏が、6月3日に開かれたClean Ads I/O会議で講演した話に注目が集まった。彼女は広告業務のアソシエイト・ディレクター(消費者保護局)であるからだ。

図1 FTCのMary K. Engle氏

まず彼女は、コンテンツを作るパブリッシャーは、ネイティブ広告を紛らわしくしてはダメと強調した。FTCはネイティブ広告のコンテンツについてあまり気にしていなくて、それよりもサイト上でどのように広告であることを明示しているかについて、つまりラベル表示に注目しているという。ちょっとした "sponsored"といったラベル表示だけでは十分でないのではと。普通の消費者はたいてい見出ししか追わないもので、小さな文字なんかは見ていなかったりする。もし広告がある割合以上の人を惑わせていれば、それは消費者を欺いていることになると彼女は言い放った。ではある割合とは、どれくらいの割合なのか? その問いに、「通常は消費者の15%で、時には10%でも」と明らかにした。FTCの調査では、そのように判定しているようだ。

ネイティブ広告は本質的に人を欺くものと、私が捉えている。幾人かはそのように私のことを見ているようだが、そんなことはないとEngle氏は反発する。FTCは反ネイティブ広告ではないんだとも。でもネイティブ広告関係者に対し警鐘を鳴らしていることは間違いない。この講演で、ネイティブ広告のパブリッシャー例として、BuzzFeed、 Wired、 Gawkerの3サイトを挙げていた。

そこで、それら各メディアのネイティブ広告コンテンツ例を以下に載せておく。

図2 BuzzFeedのネイティブ広告。ラベルは「Brand Publisher」

図3 Gawkerのネイティブ広告。ラベルは「SPONSORED」

図4 Wiredのネイティブ広告。ラベルは「Sponsor Content」

いずれもネイティブ広告のコンテンツの出だし部分である。デザインやフォーマットが編集記事とほぼ同じなのに、ラベル表示の文字が小さい。そのラベルもBrandとかSponsorとなっているので、編集記事のつもりで閲覧している人も少なくないだろう。でもコンテンツが有益であったり面白ければ、編集とか広告とかを気にしない消費者も多いのかもしれない。

そのラベル表示の現況を、AdAgeがつい最近調べていたので、それを紹介する。ネイティブ広告を掲載しているメディア23サイトを調べた結果が、次の図5の表である。パブリッシャーであるメディアサイトでは、ネイティブ広告のコンテンツの中で示されているラベルである。SNSのようなメディアでは、フェイスブックのニュースフィードやツイッターのツイートのように、タイムラインの中に流れる誘導枠の中で示されるラベルとなる。

図5 ネイティブ広告掲載メディアとラベル表示

上の表のようにラベル表示は、次の3タイプが主流となっていた。

・"sponsored"

・"promoted"

・"presented by"

驚くことに、"Ad"とか"Advertising"と表示しているサイトは皆無であった。以前は散見されていたのだが、最近はメディア側が"広告"という言葉を敬遠している。フェイスブックも日本語版では広告と表示しているのに、english(US)版やenglish(UK)版ではSponsoredとなっていた。このように米国ではラベル表示が後退気味になっている動きに、FTCが苛立つのも当然かもしれない。

なぜ、広告とストレートに明記しないのか。パブリッシャー側の言い分は概ねこうだ。ネイティブ広告は、これまでの広告と違ってクリエイティブなコンテンツであるのだとの主張である。広告とラベル表記すると、押しつけがましいネット広告を連想されて、コンテンツを読んでもらえなくなる。確かにNYタイムズのネイティブ広告では解説風や調査風の質の高いコンテンツを提供しているし、BuzzFeedではリスト記事風の楽しめるコンテンツを数多く提供している。編集記事と比べてもひけを取らないコンテンツだけに、広告と言いたくないのは分からないでもない。でもこれは、メディアやブランド(スポンサー企業)やエイジェントなどの提供者側の言い分である。大事なのは、消費者(オーディエンス)がネイティブ広告に対してどう受けとめているかである。騙されたと見る消費者が増えると、先に述べたようにFTCも規制に動かざる得なくなるのだ。

Reuters Instituteが毎年発行する「Digital News Report」の2015年版が先ほど公表されたのだが、その中でちょうど、米国と英国のそれぞれのオンラインニュース・ユーザーがネイティブ広告(企業/ブランドがスポンサーのコンテンツ)をどのように捉えているかの調査結果が出ていた。これは、ネイティブ広告の提供者を震撼させる結果であった。オンラインニュース・ユーザーが読んだコンテンツがブランドや企業の提供であることが分かった時に、どれくらいのユーザーが落胆し騙されたと思うかの調査結果である。米国では43%、英国では33%であった。米国人の方が高いのは、ネイティブ広告がより普及しているからと見ている。また米国も英国も50%のユーザーは、ネイティブ広告は好きではないが受け入れると答えていた。回答者にネイティブ広告を知っているリテラシーの高いニュースユーザーが多そうなだし、アンケートの質問にもよるが、ネイティブ広告に否定的な結果となっている。

Reutersも以下のようにラベル表示例を取り上げて、やはり編集と広告の境界があいまいであることを指摘している。特にユーザーが信頼しているブランド力のあるメディアサイトで、そのニュースページ内のコンテンツが後で広告(企業が掲載料を払ったコンテンツ)であることを知った時には、かなり落胆するようだ。

図6 ロイターが参考事例で取り上げたネイティブ広告のラベル表示

そもそも、歴史の浅いインターネット広告は、伝統的なマスメディアの広告に比べて、どうしても押しつけがましいものが多かった。このため、ネットユーザーの多くはバナー広告などを無視するようななってきた。そして最近では、ネット広告をブロックするソフトの人気が上昇し、エコノミストの記事によると世界で2億人以上の人が毎月、使うようになっているという。PCだけではなくてモバイルでも急速に利用されてきている。そして気になるのは、ネイティブ広告も標的になリ始めていることである。Adblock Plusを利用して、BuzzFeedのネイティブ広告を表示させない事例(こちら)が紹介されたりしている。

ラベル表示に必ずしも広告と記さなくても構わないかもしれないが、ネイティブ広告を編集記事と思わせて読ませようとすることを強引に推し進めていると、大きな火傷を負いそうである。

◇参考

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(2015年06月17日「メディア・パブ」より転載)

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