政治

「選挙カーってうるさくない?」「名前を連呼する意味あるの?」 現役ウグイス嬢に聞いてみた

そもそも、ウグイス嬢ってどんな仕事? どんな人がなれるの? 1日の給料はいくら?

2017年10月13日 17時08分 JST | 更新 2017年10月13日 18時04分 JST
時事通信社
雨が降る青森市内で選挙カーから有権者に訴える田中角栄首相(左から2人目)(青森市内) 撮影日:1972年11月22日

10月22日投開票の衆院選に向けて、選挙戦も中盤を迎えた。選挙カーに乗って、手を振りながら候補者への支持を訴える「ウグイス嬢」の声を耳にする毎日だ。

何とか当選しようと候補者の名前を連呼するウグイス嬢の気持ちも分かるが、「うるさい」「意味があるのか」といった批判があるのも事実。そもそもウグイス嬢ってどんな仕事で、どんな人がなっているのだろう?

東京都内のある選挙区で連日声を張り上げている、50代のウグイス嬢に話を聞いた。

――「ウグイス嬢」歴はどれぐらいですか?

これまで3〜4回やっています。普段は一般家庭の主婦をしています。

――え?ウグイス嬢って、プロなのかなと思っていましたが、そんなことはないんですか。

ウグイス嬢も実はピンきりでして。この道数十年のベテランや、フリーアナウンサーのような方もいらっしゃいます。

例えば、ずっと連続当選している人であれば、毎回同じウグイス嬢に依頼する場合が多いようです。中には「あの人にウグイス嬢をやってもらえたら当選する」なんてジンクスもあるようです。選挙では験も担ぎますから。

一方で、今回のように急に選挙が決まったり、新しい政党が立ち上がったりした選挙だと、ウグイス嬢が足りないなんてこともあります。

そういうときには、専門の派遣業者が活躍することになります。私もそうでしたが、未経験の人でもある程度の練習と場数を踏めば、なんとか様になります。

業者に登録している人の多くは、知人の紹介が多いようです。スパイを警戒して、身元がしっかりしている人が良いみたいですね。誰がどの陣営のウグイス嬢をやるかは、情報漏れを防ぐためにも、直前に知らされたりするようです。

いらすとや

――報酬はもらえるのでしょうか?

これは公職選挙法で決まっていて、車上等運動員(ウグイス嬢)は、1人1日あたり1万5000円以内となっています。

ただ、午前8時から午後8時まで12時間拘束で、ずーっとしゃべり続けるわけですから、割に合うかと言われると、ちょっと悩みますね(笑)。
​​​​​

公職選挙法施行令の一部を改正する政令概要
公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年法律第25号)の一部の施行(要約筆記者に対する報酬支払の解禁)に伴い、選挙運動に従事する者のうち専ら要約筆記のために使用する者に対する報酬の額の基準について、車上等運動員や手話通訳者と同じ1人1日につき15000円以内と定める。

――アナウンス原稿は選挙事務所が用意するんですか?

私の場合、原稿は自分で用意しています。政党の公約や、候補者のホームページ・パンフレットなどを参考に、事前に調べて原稿にします。その上で、陣営の幹部に一度チェックをしてもらっています。

大抵の場合は公約の謳い文句などをそのまま使う場合が多いですね。印象的なスローガンやフレーズは、聞いている人の耳にも残りやすいので。

例えるなら、小・中学校の読書感想文のように、題材から需要なところを探して、抜き出して、評論する...そんな感覚に近いかもしれません(笑)。

Kei Yoshikawa/HuffPost Japan
アナウンス原稿の草稿。何度も書き直したり、推敲の後がみてとれる。(※プライバシー保護のため一部モザイクをかけています)

私が今いる陣営には複数のウグイス嬢がいますが、それぞれ自分でアナウンス原稿を考えています。なので、それぞれでアナウンス内容にも違いが出ます。

ただ、政党や陣営によっては、すでに読み上げ用のアナウンス原稿が用意されているようです。そこまで準備ができているところは、なかなかないようですが。

――アナウンス原稿を作る上での注意点は。

候補者の人となりを、いかに織り込めるかでしょうか。国政選挙では、どうしても大きな政策の話がたくさん出てきます。でも、それだけでは小選挙区の有権者へのアピールとしては乏しい。

陣営からは、親近感やフレッシュさをアピールしてほしいなど要望があります。

例えば、子どもがいれば「自身も2児の父親(母親)として子育て中」とか、地元の地名を使って「幼少の頃から〇〇で育ちました」とか。いかに有権者に身近な存在だと思ってもらえるかなどですね。年齢が若ければ、それもアピールになります。

また、候補者が公認をうけたり推薦されている党の有名弁士が応援演説に来ることがあります。その場合は、その有名弁士の名前とともに候補者の名前をアナウンスします。

たとえば、「〇〇と、しっかり手と手を携えて、ともに改革をすすめて参ります」といったように。

時事通信社
第48回衆議院選挙が公示され、候補者らの街頭演説を聴く有権者ら=10日、東京都中央区の日本橋高島屋前 撮影日:2017年10月10日

一方で、原稿では使ってはいけないとされている言葉があります。たとえば「(〇〇候補者名に)仕事をさせてください」という表現。よく耳にしがちなのですが、「仕事」という言葉は強制的なニュアンスや、給料が発生するイメージが強いとされ、NGとされています。

代わりに使われるのが、「(〇〇候補者名に)を働かせてください」という表現です。国民に対する奉仕者というニュアンスが強くなり、良い印象を与えるとされています。

――アナウンスをする上で、気を付けていることはありますか。

アナウンスのルールなどは、それほどガチガチに決められているわけではありません。たとえば、アナウンス原稿の内容に合わせて、声の抑揚を変えることなど基本的なことを大事にしています。

あとは、学校・病院・斎場などの近くでは、TPOに合わせてアナウンスをしないようにしています。これらも公職選挙法で定められています。

公職選挙法 第140条の二の3
前項ただし書の規定により選挙運動のための連呼行為をする者は、学校(学校教育法第一条に規定する学校及び就学前の子どもに関する教育、保育等の総合的な提供の推進に関する法律第二条第七項に規定する幼保連携型認定こども園をいう。以下同じ。)及び病院、診療所その他の療養施設の周辺においては、静穏を保持するように努めなければならない。

――選挙カーのウグイス嬢はよく名前を連呼していますよね。「〇〇です!〇〇をよろしくお願いします!」と。でも、名前だけ叫ばれてもうるさいだけで、投票行動に結びつかないような気もするのですが。

そうなんですよね...。選挙では日々の終わりに陣営が反省会を開くのですが、その場でも「名前を連呼し続けるのはいかがなものか」という声が出ているようです。

ただ、選挙カーは移動しながら候補者を宣伝するものですから。それに、小選挙区では、投票用紙に候補者の名前を書いてもらわなければなりません。

「ゆっくり政策を説明したところで、意味があるのか」「まずは名前を覚えて貰わないことには仕方がない」という意見もあり、悩ましいところです。

選挙区によっては、対立政党が同じ名字の候補者を立てている場合があります。そういうときには、下の名前を連呼することになります(笑)。

ただ、それが果たして有権者にとって、候補者を選ぶ上でよいことなのかというと、疑問ですよね。

時事通信社
衆議院選挙(10月22日投開票)に向け、急ピッチで製造されるアルミ製の投票箱。解散の報道が出ると、全国の自治体から注文が入り大忙しとなる=3日、静岡県藤枝市の向田工業所 撮影日:2017年10月03日

――ウグイス「嬢」といわれますが、男性はいるのでしょうか。

私の知る限り、男性はいません。女性のほうが声が通りやすいからだと言われています。年齢は本当にピンキリです。

――選挙事務所のボランティアはどんな人がいるのでしょうか。

候補者の支援団体から来ている人が多いですね。あとは地元の支持者とか。個人でお店を経営している人、個人商店のおかみさんなどが多いです。

時事通信社
当選し支持者の万歳の中、喜びいっぱいの田中真紀子さん(新潟・長岡市の選挙事務所) 撮影日:1993年07月18日

――ウグイス嬢をやっていて困ったことはありますか?

うーん、私自身の話ではないのですが。以前の選挙で、知人のウグイス嬢が選挙カーで選挙区をめぐりながらアナウンスをしていたときです。道の途中で急遽、地元の有力議員が乗り込んできたことがあったそうです。「おれもマイクで応援する」と。

ただ、その時すでに車は満員だった。で、ウグイス嬢がその場で車から降ろされて、近くの駅から自力で選挙事務所まで帰ってこいと言われたようです(笑)。慣れない土地で迷いそうになったと聞きました。

――えぇ...なんという混乱ぶり。

今回なんて特にそうですが、準備万端で選挙に突入する陣営なんて早々ないですよ。いきなり決まった総選挙ですからね。人でも足りない、時間もない。

ウグイス嬢も足りないようで、この3日間は東京の候補のウグイス嬢をやっていた人が「明日は岡山に行ってくれ」「明後日から青森いけますか?」と、いきなり打診されるようなことも出てきています。ベテランだけでは足りず、ウグイス嬢初心者の人もいっぱい来ていますね。

事務方を仕切る人の能力によって、選挙事務所の運営にも影響がでます。例えば、選挙ポスターの貼り方ひとつとってみてもそうです。

Kim Kyung Hoon / Reuters

選挙では、決められた掲示板に候補者のポスターを貼ることができます。でも、きちんとボランティアさんに指導が行き届いていない陣営もある。

急いでセロテープで張ってもらったら、時間とともに剥がれてきて、強力な両面テープで貼り直すはめになった...なんて話もあるようです。

――なんというか、選挙のバタバタ感が現れている話ですね。

こんな話もあります。ある日、陣営の幹部が「見知らぬやつが事務所の近くにいたぞ!敵陣営のスパイかもしれない。調べてこい!」と若いスタッフに指示していました。でも、調べてみたら、事務所が間借りしているオーナーがビルの周りを掃除しているだけだったそうです(笑)。

時事通信社
当確が決まり、ビールで乾杯する社会党の土井たか子さん(兵庫・西宮市の選挙事務所) 撮影日:1993年07月18日

選挙事務所には、候補者以外に私たちのような選挙スタッフや、チラシを折ったり公選ハガキの宛名張りをするボランティアの方々、地元の支持者や自治体の議員、そして候補者の配偶者(妻・夫)ですね。

選挙期間中、候補者の配偶者は選挙事務所に詰めて、支持者や応援弁士などの応対や、ボランティアの人たちへの気遣いなどに従事しています。

候補者や候補者の配偶者の中には、偉い人にだけペコペコする一方、自分に挨拶をしたボランティアを無視したり、自分の陣営の人を無下に扱ったりする人もいます。

――候補者の人徳がわかってしまうエピソードですね...。

そうですね(笑)。選挙期間中は、街頭などで候補者を見かけることも多いと思います。握手を求める有権者に、候補者は笑顔で接していると思いますが、「政治家の人となりを知りたい」という方は、候補者が陣営のスタッフにどういう態度で接しているかに注目すると面白いと思いますよ。