ビットコインの課税を逃れる 「億り人」の知恵とは?

国税最強部門「資料調査課」出身の著者が、ビットコインと課税の実情を語る。

国税最強部門、「資料調査課」(税務署では調査できない困難案件、例えば、悪質、海外、宗教事案などを扱う部署)出身であり、タックスヘイブンの実情を描いた『税金亡命』の著者でもある佐藤氏が、ビットコインと課税の実情を語る。

仮想通貨で得られた「利益」は、どう課税される?

仮想通貨の代表は言わずと知れた「ビットコイン」。ビットコイン以外の仮想通貨は「アルトコイン」などと呼ばれている。

佐藤弘幸(さとう・ひろゆき)1967年生まれ。東京国税局課税第一部課税総括課、同部統括国税実査官(情報担当)、電子商取引専門調査チーム、課税第二部資料調査第二課、同部第三課に勤務。主として大口、悪質、困難、海外、宗教、電子商取引事案の税務調査を担当。退官までの4年間は、大型不正事案の企画・立案に従事した。2011年、東京国税局主査で退官。現在、税理士。他の著作に「国税局資料調査課」(扶桑社)がある。国税局課税部資料調査課(機能別に派生して設置した統括国税実査官を含む)は、税務署では調査できない困難事案を取り扱う部署である。資料情報及び決算申告の各係数から調査事案を選定、実地調査する。税務署の一般調査と異なり、「クロ」をターゲットにしているので、証拠隠滅や関係者との虚偽通謀を回避する必要があり、原則として無予告で調査を行う。

ビットコインにあっては、2017年の1月12日に約9万円だったものが、12月17日には約222万円まで暴騰。さらに2018年に入ってからは2月6日時点で約66万円と大暴落してしまった。スピード感や高低差は富士急ハイランドの「ド★ドドンパ」並みの勢いである。

投資ファンドや為替取引などと違い、値を左右する指標や運用目標のベンチマークがないのが特徴で、仮想通貨への投機はまさに「ただのバクチ」といえる。「中国で取引禁止」だとか「韓国が禁止、いや禁止と決定していない」などというニュースが出るたびに乱高下するのである。私も仮想通貨の実感を知りたくコインを購入したが、投機の喜びを知ることなく元金が半分になってしまった。

本記事は「ダイヤモンド・オンライン」からの転載記事です。元記事はこちら

仮想通貨によった得た利益は、法定通貨に換金した場合以外でも、「実質的に経済的利益が発生した」なら、課税対象となるので注意が必要だ。例えばAコインからBコインに交換した場合を考えてみよう。

Aコイン取得時の価額よりもBコインに交換した時の価額が高かった場合は、「保有していたポジションをいったん法定通貨に換金した後に他のコインを買ったのと同じ経済的効果」といえる。つまり、「公平な課税」を原則とする税務では、課税対象となるのである。

国税庁の見解は、2017年9月のタックスアンサー(国税庁HPで税の質疑応答を公開しているコーナーの名称)、「ビットコインを使用することにより利益が生じた場合の課税関係」で公開されており、「ビットコインを使用することで生じた利益は、所得税の課税対象になる」としている。

さらに国税庁は、2017年12月、「仮想通貨に関する所得の計算方法等について(情報)」を公開した。そこには、売却、商品との交換、計算方法、所得区分、損失の取扱い、ハードフォーク(コインの分岐、株式分割に相当する)があった場合、並びにマイニング(コインの取引承認に必要なコンピュータ計算をした人にコインを付与すること)した場合の税務Q&Aが載せられている。

国税庁が公表した見解は、「ビットコイン」と個別指定ではあるが、アルトコインも性質が同じなので税務についても同様の取扱いになると考えている。

ビットコインで儲けている人は、どんな人?

個人税務(所得税)については、国税庁の見解で雑所得(総合課税)ということで落ち着いた。総合課税になると、所得が高い人ほど高い税率を適用する「累進課税」になる。最高税率45%に住民税10%を加えると、ざっくり利益の55%がお上への上納金になる。さらに、他の所得との損益通算不可(他の所得との相殺禁止)、赤字の翌年繰越不可(翌年黒字の場合には即課税)と手厳しいものとなった。将来、いつになるかはまったく不明だが、法改正でFX並みの扱い(利益の20%を分離課税、赤字の3年繰越可など)になる可能性もなくはない。

仮想通貨の場合、法的に通貨ではないし(2014年政府見解答弁)、かといって金融商品としても微妙な立ち位置にある。とはいえ、これだけ注目されると実務上の諸問題が出るわけで、2017年4月には「改正資金決済法」で「決済手段」として正式に認められた。これを受けて、2017年7月に消費税法では仮想通貨が非課税(サービスや物販ではなく支払手段の譲渡)となった。

ビットコインで儲けている人はどんな人か?

詳細は良書『アフター・ビットコイン:仮想通貨とブロックチェーンの次なる覇者』(中島真志著/新潮社)をご覧いただくとして、保有上位1%未満の人が全体の9割のビットコインを保有しているのが実態のようだ。

他のビジネスモデルも言えることだが、「一番乗りが一人勝ち」の様相で、「億り人」の多くは早期から保有していた人達で、はじめから投機目的で保有していたかは分からない。マイニングを業とする中国人(組織)が圧倒的な存在らしい。マイニング自体は複雑な計算を最初に解いた1人にコインが付与されるので、激戦を勝ち抜くために24時間365日、大型コンピュータをフル稼働させることになる。マイニングには膨大な電力が必要なため、どうしても電気代の安い国・地域が有利となり、中国が圧倒的優位な位置にある。

昨年の仮想通貨の動きを見て、税務的にヤバいなと思うことがある。

それは、売買を繰り返して利益が膨らんだ場合や、長期間ポジションを持っていて年末に法定通貨に換算した場合で、さらにポジションを「持ってしまった人」である。ただのバクチなので、二匹目のドジョウを狙うのは自然な行動なのかも知れない。

仮に昨年の利益が1億円あったとする。納税のための手持ち現金がある人は問題ない。しかしポジションを持ってしまった人は「含み益」に課税されてしまうような状況だ。さらに悪い条件が、今年に入ってからのコイン相場の暴落である。実際に価値が半減してしまっている。

昨年の税金が5,500万円(ここではシンプルに計算する)になる訳だが、手持ち金のない人は仮想通貨を売却し、それを納税資金にすることになる。1月に法定通貨に換価できたのが5,000万円(売却損5,000万円)だとすると、納税資金が500万円持ち出しになる。しかも今年の売却損は、今年の仮想通貨の利益など雑所得の中でしか相殺できないのである。泣きっ面にハチとはこのことだ。

「税金なんか払いたくない!」という思いには少しだけ同情するが、賛成はできない。「バレないから大丈夫」という書き込みをネットで見ることもあるが、1億円を脱税すれば刑事手続きでの処理になる。マルサ(国税局査察部)事案となるわけだ。「マルサに調査されてしっかり絞られる 検察庁に告発後に検察官調査を受ける 起訴される」。初犯であれば執行猶予がつくケースがほとんどだが、前科者になってしまうのはいただけない。

国税局は「何」を見ているのか?

国税局というのは、脱税に関する情報収集に余念がない。当たり前である、彼らのお仕事なのだから。

仮想通貨の損益情報は、取引所や販売所に行けば大体はわかる。問題は、個人間取引や外国の取引所・販売所を利用した取引である。ノード(ネット上につながっているPCやハブなどの機器)を特定して追跡すれば、追跡調査はある程度可能だ。ただし、仮名・借名取引、ノードの特定ができない手法などの取引にあっては、「帰属を割る」(真の取引者を特定する)のは困難だ。帰属が割れたとしても時効の壁がある。筆者は東京国税局の「電子商取引専門調査チーム」の創設メンバーで、ネット取引の調査手法開発などに携わった経験があるので、こういった案件が調査困難なのは承知している。

いまのところ、仮想通貨については源泉徴収票などの調書(取引所・営業所などの支払者が税務署に報告する書類)にはなっていない。

参考までにFXのときはどうだったかというと、当初は調書の対象ではなかったが、申告漏れが多く、すぐに制度化された。制度化されると「申告しないとバレますよ」という風評が広がって申告水準が高くなった。どうせバレるなら申告したほうがいいに決まっているからだ。ちなみに、調書提出義務が導入される前は、無申告や過少申告が散見された。金額によっては国税局査察部(マルサ)により刑事告発されている。

仮想通貨のケースもFX同様、多額の申告漏れをした脱税者に対しては、国税局査察部が処理することになるだろう。一罰百戒、人身御供、さらし者。いろんな言い方があるが、申告水準を高めるにはマスコミリリースが一番である。

国税当局はどこまで「億り人」のデータを持っているのか?

少なくても国内の大手取引所・販売所のデータは既に入手しているだろう。来年の今頃には仮想通貨の脱税ニュースが流れているのではないか。余談ではあるが、FXで儲けた人の大半は翌年に同額以上の損失を出していた。2億円の所得隠しをして追徴されても、利益金までポジションに突っ込んでいて納税資金がないというわけだ。赤字の年は何の救済もなく目も当てられない悲惨な状況だった。仮想通貨も似たような道をたどるのだろうか。

「億り人」と国税局の攻防

ところで、「億り人」の中には、「税金申告しなくていい人」になりたい人も少なくないようだ。香港やシンガポールの同業仲間のもとに、昨年から移住希望者が増えている。仮想通貨の税金を払いたくないからだ。

「そんなことできるの?」と思われるかもしれないが、理論的にできなくはない。日本の「非居住者」になってから仮想通貨を売却して法定通貨にすれば、少なくても仮想通貨に関する部分の所得税は払う必要はない。

移住(キャピタルゲイン&国外所得が非課税の国・地域を選択)した後にコインを売却。所得税のみならず、さらには相続・贈与税スキームをプロモーター提案のスキームで実行したいというリクエストも寄せられている。言葉は悪いが、どうせ「あぶく銭」なのだから、スキーム提供の報酬として10%を払っても痛くも痒くもないわけだ。税金55%に比べたら「安い買い物」という感覚らしい。

ただし、非居住者と認められるのは、仕事の状況、保有資産の状況、家族の状況、居住場所の状況などを「総合勘案」して事実認定を行った結果となる。分かりやすく言うなら、税務調査というフィルターを問題なくスルーし、追徴の対象にならなかった場合だけである。時効は7年。あなたは、租税回避ゲームに耐えることができるのか。

出国税にも触れておく。多額の有価証券などを保有する富裕層が海外移住(日本脱出)する場合、「将来日本に納税される相続税・贈与税」の流出を防ぐために、2015年度の税制改正で「国外転出時課税制度」、いわゆる出国税が導入された。

課税対象になるケースは、ざっくり言うと、1億円以上の有価証券(含み益も計算)などを保有する人が海外に移住した場合、15.315%の申告納税が必要になる。仮想通貨は、この出国税の対象にはなっていない。

※ここで書いた出国税は、最近の観光関係の出国税とは異なる。

ところで、私が一番興味があるのは、ビットコインの提唱者とされる「ナカモトサトシ」なる人物が本当に実在するのかということ、そして実在するならば申告義務があるのかという2点である。私の経験上、IT関連の天才たちは申告漏れが少なくないから(笑)

ナカモトサトシは、100万ビットコインを所有する稀代のビリオン長者と言われている。さきほどのレートに100万を乗ずると時価が計算できる。なんと1兆2千億円! 下手な増税をするよりも、ナカモトサトシに適正課税したほうが手っ取り早い。

くれぐれも言っておくが、「億り人」が「送り人(マルサ)」に「あの世(刑務所)」に送られないように、少なくとも確定申告だけはしておくべきだ。

国税最強部門、「資料調査課」出身だから書けたこと

私の本業は税理士です。顧客の税務相談、税務申告の代理、税務調査の立会などを生業としています。 そんな私が、なぜ本を書くようになったのか? 拙著「税金亡命」が誕生するまでのお話をさせてください。

この「税金亡命」は日本と香港が舞台になっています。香港はアジアでトップクラスのタックスヘイブン地域です。日本居住者が、資産運用、資産回避、ときには脱税のために利用しているタックスヘイブンです。物語は租税回避から始まり、キャピタルフライト、そして脱税者自身までもフライトしてしまう「タックスエグザイル」に展開します。

仕事で香港に行くことが多く、現地のファンドハウス、プライベートバンカー、公認会計士、保険会社、日本からアウトバウンドで香港に進出した経営者などと、数多くのミーティングを重ねてきました。租税スキームのリーガルチェックも受任してきましたが、クオリティの高いものばかりではなく、なかには、ただの脱税に近い残念なものが散見されました。

本来の「租税回避スキーム」は、A国の税法で考え、B国の税法で考え、A国とB国との租税条約で考え(3か国以上に及ぶものもある)、そこにある「ループホール」を見つけて構築します。いわゆる、「国際二重非課税」となる利益移転を仕組む訳です。どこの国からも、あるいは高税率国から課税されない仕組みを作って、納税者の利益最大化を図るわけです。

小説を読まれる方は、専門家だけではありません。したがいまして、高度な租税回避スキームを作品の中で展開しても、理解どころが一般専門書になりかねません。そこに注意して出来るだけ身近にありそうな、専門家以外でも想像しやすいような材料で書き上げました。「税金亡命」は国際税務事件などの入門書として興味をもっていただけたらと思います。

「へぇ、そんなことがあるんだね」という本にしたかった。国税、富裕層(脱税者)、国税OB税理士という対立軸の中で、それぞれの思いが交錯し、グローバルな物語が描けたと思います。

(佐藤弘幸)

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