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CYBERDYNE社IPO 種類株を持ったままのIPOは日本で根付くか?

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先日、東京証券取引所は筑波大学発のロボットベンチャー、CYBERDYNE社(茨城県つくば市)の東証マザーズ上場を承認したと発表しました。上場は3月26日です。上場株式の10倍の議決権がある種類株を経営者が持ち、上場後も実質的に支配権を握る仕組みをとる。こうした種類株を使った新規上場はグーグルやFacebookなど米IT企業に多いですが、日本では初めです。


■株式時価総額・ファイナンス額について

それでは、有価証券届出書を見てみましょう。

今回のファイナンスは想定発行価格2700円で普通株式の発行済株式数は963万1400株で、公募122万2000株、売出89万5700株、オーバーアロットメント(以下、OA)30万4200株となり、株式時価総額301億円、ファイナンス額65億円、株式流動性を示す指標のオファリングレシオ(公募株+売出株)/ 本件公募含む発行済株式総数)は21.7%となり、これ自体はIPOとしては割と普通の水準となります。(全てOA含む)

但し、この普通株式以外にB種類株式が777万株発行されており、今回B種類株式はIPOしても市場では売買されません。

また、株式時価総額だけであれば、直接東証一部にも上場出来るのですが、現状赤字なので、マザーズへの上場となります。それでは少し種類株そのものを見てみましょう。


■そもそも種類株とは何か?

種類株は、株式の権利の内容が異なる株式のこといいます。これは、配当の支払いや株主総会での議決権などに関し、普通株式とは権利の内容が異なる株式を指し、企業(株式会社)にとっては多様性のある資金調達を図ることが可能になっています。

日本では2003年にイー・アクセスが種類株を持ち越したまま上場しましたが、その後は種類株を持ったまま上場したケースはないと記憶しています。
(合併前の※国際石油開発帝石が上場する時に経産省が黄金株を1株持っていますが、国策が背景にあるので今回参照しません。)

会社法で明記されている種類株を一般論で大きくグルーピングしてみましょう。

1. 財産に関する権利
配当を優先して受ける権利、残余財産の分配を優先して受ける権利を持つ、配当、資産分配に関する種類株です。
2. 株主そのものの地位に関する権利
株主が発行体に対して株式の取得を請求したり、若しくは発行体が株主から株式を取得出来る権利を持った株式を強制的に買取る種類株です。
3. 議決権に関する権利
ある議題に対しては拒否権を有したり、役員を選解任出来る等、個別事由にのみ議決権を有する種類株となります。


■従来、種類株の資本政策はほとんど開示されていない

今まで種類株の運用は業績不振の上場会社に対して、金融機関や若しくは国(財務省)が事業再生の一環として使用した場合が多く見受けられましたが、実際にはIPOを目指す資本政策で一部のベンチャーキャピタルも種類株を活用して来ました。但し、上場会社では株主は持株比率において平等であるとの認識が強く、証券取引所から、IPO時には全て普通株式で上場する旨の指導があります。

よって、仮にIPO前に種類株があったとしても、IPO時までには普通株式に転換されていることがほとんどであり、その過程は目論見書にも記載されないため、なかなか一般には認識されて来なかった背景があります。これが種類株の資本政策があまりまだ一般化されてない理由だと考えています。

■CYBERDYNE社のB種類株式の内容は?

現在は今までの資本政策を整理統合した形になっており、B種類株式は昨年の10月に付与され、現在の保有者は代表者の山海社長が776万9600株と、その山海社長が関連する一般財団法人が200株ずつ保有しております。

B種類株式の権利は配当、残余財産の分配は普通株式と同順位同額で行われ、B種類株式主は発行体に対していつでもB種類株式を取得請求することができ、発行体はB種類株式1株に対して普通株式1株を交付することになります。ということは、特に普通株式とその内容は変わりません。

一方、単元株式数で普通株式とB種類株式に違いがあり、普通株式の単元株式数を100株とし、B種類株式の単元株式数を10株とし、1単元1議決権となるため、結果としてB種類株式が普通株式に比べて、10倍の議決権数を持つことになります。

B種類株式を残した理由としては、山海社長がサイバニクス技術(人・機械系・情報系の融合複合技術)の中心的な存在であり、発行体グループの企業価値向上(株主共同利益)には、当面の間、山海社長が経営に安定して関与し続ける必要があると記載されています。


■Facebookのスキームとの比較

FacebookがIPOする時に、共同創業者のマーク・ザッカーバーグ最高経営責任者(CEO)らに通常の株式の10倍の議決権がある種類株を割り当て、さらに同CEOが既存株主の一部と議決権を代理行使する契約を結んでおり、株主平等の原則に反するとの意見がありました。

また、種類株を持ったままのIPOは2004年に上場したGoogleが先駆けであり、同社では2人の共同創業者と当時のCEOに通常の株式の10倍の議決権がある種類株を付与し、上場後も3人で37.6%の議決権を維持しました。昨年上場したクーポン共同購入サイト最大手のGrouponや、オンラインゲーム大手のZingaも同様の仕組みを採用していました。

先ず、Facebookのスキームを見てみましょう。

facebook

FacebookはClassA、ClassBと2種類の株式のうち、ClassAのみをIPOしました。ClassA
は1株1議決権に対してClassBは1株10議決権となっており、1株自体の議決権が違います。

一方でCYBERDYNE社ですが、

cyberdyne

あくまで議決権は1単元に対して付与されており、1株単位ではありません。結果として、B種類株式に議決権で差異を付けるためには、1単元の括り方を普通株が1単元100株、B種類株式を1単元10株とすることで、疑似的にB種類株式議決権を10倍としています。

なぜ、1株の議決権を10倍にせず、こんな面倒なことをするのか?

会社法上、種類株式の内容として「株主総会において議決権を行使することができる事項」(会社法第108条第1項第3号)との規定があり、株式の内容として定められるのは、ある事項について株主総会で議決権を行使できるか否かという点だけであり、1株につき複数の議決権を付与することはできないと解されているようです。

そうは言っても、単元の括り方で、実質的に同様な機能を種類株式に付与することが可能になりました。日本では当面この方法で議決権に差異を付けることになりそうです。


■B種株主の権限を抑制する仕組み

当然IPOする以上は普通株主の権利が保護されなければならず、B種類株主の権限を抑制する条項がいくつかあります。

① ブレークスルー条項
発行体には、発行済株式総数のうち、一定割合の株式を取得した者が現れた場合には、スキームを解消する条項(ブレークスルー条項)があり、本件では普通株式の公開買付(TOB)が行われ、4分の3を取得する者が現れた場合には、B種類株式の全部を普通株に転換する旨が記載されています。

② サンセット条項
また、議決権種類株式導入の目的が終了した場合、スキームを解消させることが出来る条項(サンセット条項)もあり、山海氏は一般財団法人に無償でB種類株式を譲渡することを予定しており、自身の取締役退任や死亡した場合でも、本スキームが継続出来る様になっています。但し、その財団の議決権行使が普通株主の意思と合致しないことも想定されるため、山海氏が退任した場合、普通株主とB種類株主の3分の2以上の賛成によって、B種類株式の全部を普通株式に転換する旨が記載されています。

上記の条項は本来、種類株式自体をIPOさせるための上場審査ガイドラインに記載されている条項であり、今回はB種類株をIPOさせるわけでは無いにせよ、普通株主の権利への配慮も含めた上でのスキームと考えられます。


■上場審査基準との整合性

マザーズでは流通株式比率という規則があり、上場する株式のうち、発行体の役員等以外の株式保有比率が25%以上なければなりません。言い換えれば役員等の株式保有比率は75%までは認められていることになります。そして、今回上場するCYBERDYNE社の普通株式だけを勘案すれば、山海氏の持分比率は49.31%であるため、上場規則上では上場可能ということになります。

但し、B種類株式を含めると約90%となってしまい、実質的なコーポレートガバナンスが機能するのかということになりますが、東証も現状の規則で75%までと、3分の2以上の株式保有比率を認めている以上、正直、CYBERDYNE社の90%もあまり変わらないと思われます。投資家はどうしても山海氏の90%の議決権が嫌なのであれば株式を買わなければいいわけで、結局は投資家の判断次第ということなのでしょうね。


■今後この様なスキームのIPOで増加するか?

個人的には、かなり限定的だと思われます。

今回は山海氏にCYBERDYNE社のノウハウが集約されており、それが山海氏以外の多数株主に支配された結果、サイバニクス技術が平和利用以外の目的で使用されることを防ぐために構築されたスキームだと思われます。

本来、IPOの審査には上場の適格性として、経営の継続性と安定性が確保されているか否かが審査されるため、一創業経営者のみにその経営を依存する体制というのは、従来からの上場審査の意図が汲まれたものではありません。ですから、今回のCYBERDYNE社のIPOは極めてレアなケースだと考えています。

もう一つ考えられるのは投資家から見た時に、複雑な投資スキームを使っている発行体への投資がどのくらい需要があるか疑問です。今回CYBERDYNE社の時価総額は300億円程度ですが、一般的に機関投資家が投資出来る時価総額は100億円以上からであり、日本のIPOの平均時価総額が30億円程度であることを勘案すると、通常のIPOを志向する企業は審査上、種類株を持ったままIPOすることは可能でも、それをしっかりと理解した投資家がついてくるかどうか疑問です。それなりの株式時価総額と株式流動性を持った発行体でないと現実的には種類株を持ったままのIPOは難しい様な気がします。

それでも、今回CYBERDYNE社が米国型の種類株を持った形態でIPOを行うことが出来る様になったのは、日本のIPO市場にとって大きな進歩だと思います。ぜひこのIPOが成功することを願いたいと思います。

(2014年2月23日「Hiroの 『グローバルで負けないリスクテイク出来る日本』より転載)