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『ワレサ 連帯の男』―尊敬・支持されるポイント 宿輪純一のシネマ経済学(36)

2014年04月07日 19時15分 JST | 更新 2014年06月07日 18時12分 JST

年配の映画好きだったら誰もが知っているポーランドの巨匠アンジェイ・ワイダ監督(88歳)の新作。彼はレジスタンス系映画が真骨頂で『地下水道』(57年)、『灰とダイヤモンド』(58年)、『大理石の男』(77年)等が代表作。最近でも『カティンの森』(07年)、『菖蒲』 (09年) と精力的な活動を続けていた。『鉄の男』 (81年)では既に一回ワレサを描いたのでこれが2回目(ワレサは本人役で出演)。ちなみに、ワイダ監督の父は将校で「カティンの森の虐殺事件」(40年)で亡くなっている。

ノーベル平和賞受賞者のレフ・ワレサ元ポーランド大統領を描いた長編作。(ちなみにポーランド語ではワレサとは発音せず、ヴァウェンサと呼んでおり少し驚いた)ソ連を中心とする共産主義国家が倒れた「東欧民主化」の口火となった(ソ連の崩壊は91年)。ポーランド北部のグダンスクにおける造船所における共産圏初の自主管理労組「連帯」の戦い、そして大統領になっていく初代委員長レフ・ワレサと奥さんや家族との日々を通して人間的な面も含め描かれる。

70年物価高騰に対する労働者たちの抗議行動を政府が武力で鎮圧する事件が発生。両者に冷静になるよう呼びかけていたワレサも検挙される。公安局に協力するという誓約書に署名を強制される。家族とともに質素な生活を送っていた、単なる一電気工だったワレサが、この事件以降、ポーランドの歴史的転換期の中心となっていく。

80年8月、レーニン造船所のストライキ指導部のトップに立ったワレサは、「連帯」委員長として自由と権利のために戦う反体制の世界的象徴になり、大統領(90年~95年)にまでなるが。

当初、彼は一電気工(技師)であったが、一気に民衆の気持ちが集まり大統領に上り詰めていく。筆者は最近、『人間学』というものを研究している。一言でいうならば、「どのような人を人は尊敬・支持するか」ということがテーマである。新しい分野であり、いろいろな考え方があるが、筆者の考えるポイントは4点で、①知識、②コミュニケーション能力、③自己管理能力、そして④生き方(哲学)に因数分解できる。確かに言われてみればと納得される方も多いのではないか。

筆者はここでも書かせていただいているが、人間のやることの本質は、会社の経営だろうが、国の経済の運営であろうが変わらないと考えている。人間学の観点で、会社の経営を見ると、知識とは商品力、コミュニケーション能力とは営業力、自己管理能力とは財務等、生き方(哲学)とは経営(企業)理念ではないか。確かに、経営分析の切り口である。

国も見てみよう。知識とは産業力、コミュニケーション能力とは外交力、自己管理能力とは財政等、生き方(哲学)はこの国の将来の目標ではないか。そう言う意味で、日本を見てみると、産業力は徐々に落ちてきている、外交も何とも言えない、財政はGDP比率でも国の借金は世界一悪化している、国の将来像も描かれていない、と少々辛い状況である。

83年にノーベル平和賞を受賞したワレサも大統領になったが、状況にもよるがやや強引な政治手法で徐々に支持を失っていった。最近では、連帯も縮小が続き、経済改革の抵抗勢力とみられることもあり、ワイダ監督も嘆いている。

筆者も好きなアイルランド出身のロックバンド「U2」のヒット曲『ニュー・イヤーズ・デー』(83年)は連帯をテーマにした曲であった。

「宿輪ゼミ」
経済学博士・エコノミスト・慶應義塾大学経済学部非常勤講師・映画評論家の宿輪先生が2006年4月から行っているボランティア公開講義。その始まりは東京大学大学院の学生さんがもっと講義を聞きたいとして始めたもの。どなたでも参加でき、分かり易い講義は好評。「日本経済新聞」や「アエラ」の記事にも。この2014年4月2日の第155回のゼミで"9年目"になりました。
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