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家賃を下げろデモ! 〜住宅問題でも声を上げ始めた若者たち〜

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「家賃下げろデモ」のサウンドカーの前で。
「住宅保障に税金使え!」

家賃が高すぎる――。

賃貸物件に一度でも住んだことがある人ならば、誰もが思ったことがあるだろう。私自身も今まで、家賃には散々苦しめられてきた。特にフリーターの時なんか、月収15万円くらいなのに半分は家賃で持っていかれる。家賃を払ってしまったおかげで電気、ガス、電話などが止まった経験は数知れず。ゆえに当時は「電気が止まった時のロウソク」は必需品で常にストックがあった。

それでもいよいよ家賃が払えず追い出されそう、という状況になると、恥を忍んで親に泣きついていた。そんなことを繰り返していると、「あー、親が死んだらホームレスだな・・・」と普通に思うようになっていて、その「最悪の予想」は、2000年代なかば、同世代のホームレス化という形で現実のものとなったのだった。

一方、「高い家賃」ゆえに親元を離れられないという人々も多くいる。特に非正規層では深刻な問題だ。「低収入で実家を出られない」という問題は、確実に未婚や少子化の背景にある。
 
さて、そんな状況を受け、6月12日、若者たちがとうとう声を上げ始めた。「家賃を下げろデモ」が開催されたのだ。新宿の街には、こんなコールが響き渡った。

「住宅手当で家賃を下げろ!」「公営住宅今すぐ増やせ!」「住宅保障に税金使え!」「最賃上げて家賃を下げろ!」

主催は「Call for Housing Democracy」。この日が初めてのデモだという。昨年夏、安保法制反対で学生や若者たちが声を上げ、9月にはAEQUITASが結成され、「最低賃金1500円」「経済にデモクラシーを」と訴えてデモや街宣を積極的に開催してきた。そうしてこのたび、「住宅費」の問題で若者たちがデモをすると聞いて駆けつけたのだった。

主催の一人である佐藤和宏さん(27歳)は、なんと東大の大学院生。住宅問題を研究しているのだという。そんな彼に、なぜこのようなデモを主催したのか聞いてみた。

「2014年に、ビッグイシュー基金が若者の住宅問題について調査をしましたが、あの調査で明らかになったように、若者が自立できないか、自立しても家賃負担が重すぎるという現実があります。そういう中で、選挙があるのに全然住宅政策が取り上げられていない。

自公政権は三世代同居とか近居とか、お金持ちの住宅支援はしますけど、僕ら若者にとって重要なのは、公営住宅増やしたり住宅手当増やして、家賃が高すぎるって問題をなんとかすること。ここ最近、SEALDsやAEQUITASがデモをすることで考えるきっかけを与えていますが、今日のデモも、見た人が自分の住宅問題を考えるきっかけになればなって」

そうして午後2時半、サウンドカーを先頭にデモ隊は出発! デモ隊が新宿西口にさしかかると、佐藤さんが早速マイクを握ってスピーチを始めた。

「今、若者は自立が難しくなっています。20代30代で未婚、年収200万円以下の若者は4分の3が親元にいるとする指摘があります。(中略)この20年間、手取り収入に占める住宅費の負担は上がり続けてきました。これを解決するために、住宅保障に税金使いましょうよ。昨年、(生活保護の)住宅扶助が削られました。都営住宅はもう作られていません。住宅手当はほとんどの人が使えません」

「第一に、私たちは住宅手当の抜本的拡充を求めます。今の制度は失業している人がわずか数ヶ月受給できるだけです。だけどヨーロッパの国では5世帯に1世帯が受給しており、働いても働いていなくてもどのような家族の形でも受給できます」

「第二に、私たちは公営住宅の抜本的拡充を求めます。皆さん都営住宅の倍率見たことありますか。2人以上の世帯で倍率27倍、一人世帯では57倍です。単身の若者は入ることができません。今の政府は本当に困ってる人のために公営住宅に入れる人を選別すると言ってます。必要なのは困ってる人と困ってない人の線引きではなくて、公営住宅を今すぐ増やすこと。そう思いませんか」
 
そうして佐藤さんは、叫ぶように言った。

「なぜ、社会保障だけ税金ないって言うの? 税金は取れるとこから取ってそれをみんなに配る、そうすべきだと思いませんか?」

「そうだー!」。デモ隊から声が上がる。

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主催の「Call for Housing Democracy」の佐藤和宏さん


さすが住宅問題を研究しているだけあって、佐藤さんの話は非常に具体的だった。彼の言う通り、日本の住宅政策はあまりにも貧弱で、持ち家政策ばかりがとられてきた。よって、賃貸に住む人への支援はないに等しい。が、彼が指摘した通り、ヨーロッパには住宅手当や家賃補助制度が存在し、多くの人が使っている。ちなみにフランスでは、留学生にまで住宅手当が支給されるという。わざわざ「あなたの収入では家賃が高すぎるので住宅手当を支給する」と役所から電話がかかってくるのだそうだ。

また、公営住宅も日本は少なすぎる。以前、シンガポールでは住宅の6割が公団だと聞いて驚愕したことがある。生活・生存の基礎となる住宅問題について、各国それぞれ取り組んでいるのだ。が、日本に唯一くらい存在する賃貸に住む人向けの住宅手当はあまりにも使い勝手が悪い。住む場所を失ったか失うおそれのある離職者のみが対象で、敷礼金などの初期費用は出ない。よって別途、社会福祉協議会からの貸し付けが必要になるものの、この審査が厳しい上に、晴れて住宅手当が支給されてもたった数ヶ月――等々。

さて、佐藤さんの次にスピーチしたのは、住まいを失った人にシェルター提供などをしている「つくろい東京ファンド」の大澤さん。彼も学生だ。彼は支援の現場の話として、ネットカフェ難民の男性の話を紹介した。住む場所を失い、アパートに移りたいものの住所がないと就活もできない。低賃金の日雇いの仕事で食いつなぐものの、毎日のネットカフェ代に消えてしまう。そんな生活をしていると「自分がなんのために生きているのかわからなくなる」という。

そんな男性は、5年前の3・11の時もネットカフェにいたそうだ。東京でもひどい揺れに襲われたあの瞬間、あちこちで見知らぬ人同士が声をかけあう光景が見られた。が、彼のいたネットカフェでは、誰一人として声をかけあう人はいなかったという。周りにたくさんの人がいるにもかかわらずだ。そうして彼も、誰かに声をかけることができなかった。その時、彼は「本当に自分は一人なんだ」と感じたという。

「家がないことは、その人から仕事を奪います。希望を奪います。そしてその人を孤独にさせます」

大澤さんは家を「当たり前の生活をするためのチケット」と定義し、「誰でもチケットを持てるような社会を作っていきたい。一緒に声を上げていきましょう!」と締めた。

そうしてサウンドカーに立ったのはAEQUITASの原田さん。彼が東京の家賃の高さと住環境の劣悪さを訴えると、その次に、住宅問題に取り組む弁護士の林治氏がマイクを握った。

日々、「家賃払うのが大変」「住宅ローンを払えなくなってしまった」という相談を受けてきた林弁護士が触れたのは、脱法ハウスの問題。脱法ハウスとは、事務所や倉庫を住居として貸し出している場所のこと。2畳3畳に仕切られただけの狭いスペースに、5万、6万円払って住んでいる人々。なぜ、そんな劣悪な場所に住むのか。敷金礼金が用意できないなどの事情もあるわけだが、林弁護士の言った理由に納得した。

「この方々は、次に仕事をする場所がどこだかわからない。3ヶ月間はこの会社だけど、4ヶ月目以降はわからない」

だからこそ、そのような場所に住まざるを得ないのだ。雇用の不安定化が、住む場所をも不安定化させている。ちなみに住宅手当は、このような「準ホームレス」である脱法ハウス住まいの人々にこそ必要だと思うのだが、彼らは対象とはならない。多くの人は働いていて、「離職者」ではないからだ。使い勝手が悪いとは、このような理由である。
 
そうしてこの日、スピーチのトリを飾ったのは「ハウジングファースト」という言葉をこの国に広めた第一人者、もやいの稲葉剛氏。

稲葉氏は、新宿で20年前から野宿者支援を続けてきた経緯を振り返る。バブル崩壊によって仕事を失い、路上に追い込まれた人々。新宿西口にできた段ボールハウス村。しかし、そこからも野宿の人々を排除した東京都。

「私は現場にいましたが、多くの人たちの反応は冷たかった。仕事がなくなってホームレスになる。そして路上からも追い出されてしまう。そういうことが自分の身に起こるとは、当時はほとんどの人が思いませんでした。しかしこの20年間で、私たちの社会はどうなったか。私は20年間、住まいを失った人たちの相談支援を行なってきましたが、10年ちょっと前から、20代30代の若い人の相談にのることが多くなりました」

「かつてはごく一部の日雇い労働者の人の問題だった”住まいを失う”という問題が、若い人にまで広がっている。今、沿道を歩いている人にもいつ起きてもおかしくないんです」

そうして稲葉さんは、熱を込めて叫ぶように言った。稲葉さんと出会って10年ほどになるが、この10年間で、もっとも熱い姿だった。

「家賃の負担が苦しいなら、声を上げればいいんです。賃金が低くて困ってるなら、声を上げればいいんです。奨学金の返済に困ってるなら、声を上げればいいんです。困ってる、給料上げろ、保育園見つからない、日々の生活どうしたらいいのかわからない。そういう人たちが今やマジョリティなんですよ。マジョリティの私たちが声を上げて、この社会を、政治を、変えていきましょう!」

そうして約一時間半後、デモ隊は出発地点の柏木公園に辿り着いた。3.8キロのコースを私たちは歩き終えた。デモの後、佐藤さんに「感想は?」と聞くと、初めてのデモを無事成功させた安堵感を漂わせながら彼は言った。

「今日をきっかけに、住宅問題って大事だなって思ってほしい。公営住宅が増えるのは若者にとってもいいことだと思うし。そうして関心を持ってもらって、選挙に行ってほしいですね」

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デモ隊。プラカードの言葉にいちいち納得です


帰り道、新宿駅に向かうと、ちょうど駅前で保育園問題に取り組む人たちが「保育所増やして待機児童なくそう」というプラカードを持ってアクションをしていた。保育園で働くという若者がスピーチし、子どもを抱えた若いママも飛び入りでスピーチする。

安保法制反対、最賃上げろ、家賃を下げろ、保育園見つからない――。今、本当にあちこちから声が上がっていて、それはこうして休日の新宿の街の風景を変えている。そして道行く人に、「考えるきっかけ」や「こういうテーマでも言ってもいいんだ」という気づきを与えている。そこからまた新たな声が上がり、共感が広がる。

少し前だったら考えられなかったことだ。

もうすぐ、選挙だ。

あなたの「おかしい」を、投票に結びつけてほしい。
(2016年6月15日「雨宮処凛がゆく!」より転載)