北朝鮮が核・ミサイル開発をやめない理由。脱北外交官が「サンデーステーション」に語った

テ・ヨンホ元英国公使が、日本のテレビ局初の独占インタビューに応じた。
サンデーステーション

「韓国が軍事境界線近くで平昌オリンピックを開催すると決まったとき、金正恩氏も馬息嶺にスキー場を作る決定をしました。馬息嶺は平昌にもっとも近い場所の一つです。このスキー場を建設することで、韓国と平昌オリンピックを共同開催できればというのが、北朝鮮の秘めたる野望でした」

2年前、韓国に亡命した北朝鮮の元英国公使・太永浩(テ・ヨンホ)氏は言った。脱北した外交官としては最高クラスの地位にあったテ・ヨンホ氏が、日本のテレビ局の独占インタビューに応じるのは「サンデーステーション」が初めてである。居場所、日時を一切明かさない条件で、テ氏は私たちの前に現れた。英語が堪能で、いかにもエリート外交官という雰囲気をたたえた物腰の柔らかい紳士だ。テ・ヨンホ氏に話を聞いたのは、北朝鮮が平昌オリンピックに選手団を送ると表明する前のことだったが、その時すでにテ氏は平昌オリンピックへの北朝鮮の並々ならぬ執着と野心について話していた。「平昌オリンピックの共同開催」という言葉を聞いたとき、私は「そんなこと考えているの?」と驚いたのだが、韓国と北朝鮮による南北会談が実現してからの、まるで北朝鮮主導にもみえる一連のオリンピックをめぐる動きを見ていると、テ・ヨンホ氏の話の現実味を実感する。

「北朝鮮は韓国とアメリカの合同軍事演習を中止させる判断を求めるでしょう。それは韓米にとって難しい判断です。しかし、もし共同軍事演習を行えば、北朝鮮は元山から短・中距離ミサイルを発射するなど、自分たちのやり方で挑発するかもしれません」という彼の発言についても、その後オリンピック・パラリンピック開催中は共同軍事演習延期という形に落ち着いている。では、平昌オリンピック・パラリンピック終了後の北朝鮮はどのような行動をとっていくのだろうか。

「アメリカが交渉の大前提にしているのが朝鮮半島の非核化だが、北朝鮮が核開発をあきらめることはあるのか」という私の質問に、テ・ヨンホ氏は「ありえません」と即答した。

「核とミサイルは、金正恩氏が長期政権を維持できる唯一の手段です。もしあきらめることがあれば、彼の『王朝』の終わりを意味するのです」

サンデーステーション

北朝鮮が核・ミサイル開発をやめない理由の一つは、アメリカの核の脅威に対抗する抑止力。しかし、テ・ヨンホ氏によるとむしろ北朝鮮の軍をコントロールするためにも開発をやめることができないのだという。

「北朝鮮軍は『韓国をいわゆるアメリカの支配から解放するため戦い』にむけて訓練されていますが、軍の指導者はこの戦いに勝てないことがわかり始めました。巨大な軍が使命や直近の目標を失えば、将来的に考えを変え、何かしらの北朝鮮の内部の問題に目を向けるかもしれません。なので、巨大な軍の力をコントロールし、何かできるかもしれないという希望や直近の目標、軍事行動の可能性を与えるというのは金正恩氏にとって、とても大きな仕事です。その希望を与え続ける目標が核・ICBMなのです」

対アメリカにのみならず、むしろ国内統治のために核を手放せないという北朝鮮。テ・ヨンホ氏は軍だけではなく、北朝鮮国内にも劇的な変化が起きていると指摘する。

「北朝鮮で自由市場の数が劇的に増加しています。人々は実際、政府や指導者に言われたことを信じていません」

変化の実例として挙げたのが、日本海沿岸でも相次いだ北朝鮮船籍とみられる漁船の漂着だ。

「以前は獲った魚をすべて政府が管理していたので、漁師たちは魚を獲ることに熱心ではありませんでした。しかし、今は資本主義的な市場が拡大しているので、漁獲量を増やそうと必死になる漁師が増えているんです。また、JSAから若い北朝鮮兵士が銃撃されながら亡命しましたが、彼が意識を回復してまず求めたことは韓国のポップソングを聞かせてほしいということでした。今、北朝鮮には巨大な商用ネットワークができて、韓国の文化コンテンツが流入しており、もはや金正恩政権が必死に防ごうとしても止められません。これらの流れが北朝鮮に変化をもたらすと私は信じています」

北朝鮮の制度と金正恩政権は内部から崩壊すると確信している、と断言するテ・ヨンホ氏は、とにかく今我々のやるべきことは、人権や民主主義の基本的な概念を一般の人に与え続け彼らに選ばせることだという。インタビューはさらに多岐に及んだテーマで行っているので、引き続き「サンデーステーション」で放送していく予定である。

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