BLOG

ヨーロッパ最後の中世 マラムレシュ – 3

マラムレシュ紹介シリーズ最終回

2017年08月31日 15時02分 JST | 更新 2017年08月31日 15時03分 JST
Yoko Kloeden

マラムレシュ紹介シリーズ最終回!

前回までは今もほとんど変わらないBreb村の生活様式の話でしたが、今回は変わりつつある側面の話。 引き続き、William Blackerの著作"Along The Enchanted Way"から。

-----

共産主義政権が倒れた後、初めにやってきたのは文化人類学者や言語学者たちだった。 その後、国内経済が極度の困窮に陥り西側諸国のチャリティー団体から支援物資が送られてきたが、自給自足で食べるものにも着るものにも困らないBrebの人々はなぜ物資が送られてくるのかわからなかったそうだ。

生活が徐々に変わり始めたのは2000年代初頭だった。 村に舗装された道路が通った。 荷馬車が主な交通手段だった村に車がやってくるようになった。 それまで子どもたちは朝から晩まで自由に外を出歩いて農業を手伝ったり家畜の世話をしたりしていた。 村で初めての交通事故で8歳の男の子が死んだ。 西側の多国籍企業の商品をたくさん積んだ行商の車がやってくるようになった。 見たこともない品物の数々に人々は心を踊らせた。 今まで全ての物をつくっていたのに、物を持っているかどうかはお金を持っているかどうかのバロメーターになった。 若者は民族衣装ではなくTシャツにジーンズを着るようになった。

2010年頃には村にサテライトTVがやってきた。 外の世界の人々が住んでいる世界、見たこともない品々の数々に村の人々は驚愕した。

2007年、ルーマニアがEUに加盟してからは他のEU諸国に出稼ぎに行く人が出てきた。 村の男性は誰でも自分の家くらい建てられる。 出稼ぎ先で建設労働や農業などに従事して貯めたお金で帰国してからは高級車に乗ったりコンクリート製の家を建てる人が出てきた。

-----

2017年夏、私たちが訪れた時点で、村の家のほとんどには電気が通っていました。 電灯や洗濯機など最低限の電化製品はあるのでしょう。 サテライトTVのある家もあり、テレビが主な情報ソースなよう。 私たちが泊まった家(AirBnB)にはブロードバンド(おそらくサテライト、もしくはADSL)が通っていてWifiもありましたが完全にゲスト用。 オーナーはネットもメールもせず携帯(非スマホ)が連絡手段で、ルーマニア語しか話さないオーナーとはブカレストに住む知り合いに電話越しに通訳してもらってコミュニケーションを取りました。 村の半分は家の中まで上下水道が通っているが、まだ半分は家の外にあるそうです。

Yoko Kloeden

Brebでは珍しいコンクリート製の家。 おそらく建築規制などないに等しいのでしょう、この次の写真の1622年築の木造教会のすぐ横に建っていたので余計違和感がありました。

Yoko Kloeden

1622年築で土台は1530年築のためルーマニアで最古とされている木造教会。 正教徒が祝う8月15日の"Assumption of Mary"(聖母の被昇天)の礼拝に行く機会があったのですが、この世のものとは思えないほど厳かで美しいものでした。

Yoko Kloeden

Yoko Kloeden

20人も入ればいっぱいになってしまうこの教会ではミサを進行する牧師の他に賛美歌を歌うおじさんがひとりいて歌をリードし何十分にも渡り賛美歌を歌っていました。

この教会は非常に古く小さいので何年も使われていなかったそうですが、数年前に村に建設されたのがこのコンクリート製の大きな教会(尖塔の上の方まで写っていなくてすみません)。

Yoko Kloeden

日曜にはこちらの大きな礼拝堂の方でミサが行われており、村中から人々が集まっていました。

Yoko Kloeden

古いものが良くて新しいものは悪だ、とか言うつもりはないのですが、古い教会が良すぎて完全に見劣りしてしまいます。

季節による生活の区切りとともに、キリスト教の祭日が人々の暮らしに大きく影響しており、伝統的なグリム童話のような生活が今も根付いているBreb村。 9年前に移住したイギリス人夫婦がVillage Hotelという宿泊施設を経営しており地味に世界中から旅行者がやってきます。 あくまでかなり「地味に」だったのですが、近年ルーマニア国内でこの地方の美しさが「発見」されブカレストなど都市からのツーリストが増え始めました。 私たちがいた間は上記「聖母の被昇天」祝日の前だったこともあり、この小さな村で2回もルーマニアのテレビクルーに遭遇しました。

私は以前から、外国人だからわかるその国・その土地の良さがあって地元の人は今までのやり方に固執してしまい良さを壊してしまいがち、というような趣旨のことを熱心に書いているのですが(*1)、ルーマニアも例外ではありません。

*1・・・例:『佐賀の民家、NYのホテルに』『外国人だからわかる良さ』『田舎にヨーロッパ旅行客を呼び込もう』

四方を山で囲まれている谷の川沿いの絶景ピクニックスポットでピクニックした後、川遊びをしようとしたら、ペットボトル・食べた後のすいかの皮・タバコの吸い殻などが散乱しているのです。 ちょっと片付け忘れたというような量ではなく、明らかに持ち帰るのが面倒で投棄した様子。 その他、不法投棄っぽい巨大ゴミの山が燃えていたり、先進国の基準からすると残念なモラルが多々見られました。

仮にイギリスであればBrebは景観保護地区になって上記のコンクリート製の家が17世紀の木造教会の横に建つこともないでしょう。 建築規制などがないために、Brebでも土地を買わずに上物の建造物だけ買ってどこかよその土地に持っていく業者が現れたそうです。

Yoko Kloeden

一方、これが9年前に移住したイギリス人夫婦DuncanとPennyが経営するVillage Hotelの中の一棟。 ここは一棟貸しの家が敷地内に何軒もあって敷地内に小川も流れる素敵なまさに「ビレッジ」ですが、元々の敷地内に建っていたのは2軒であとの家はBreb内の他の物件を買って梁一本一本・外壁一枚一枚に番号をつけて移築したもの。 見てのとおりだいぶすっきりしたいでたちで、イギリスのインテリア雑誌「ELLE DECORATION」や「COUNTRY HOMES」に出てくるようなお洒落なカントリーハウスに仕上がっています。 ルーマニアの伝統木造建築は通常平屋なのですが、高さがあるため中に2階もつくって、天然光を入れるためイギリスでは頻繁に見かける天窓が屋根に入っています。

オーナーPennyと話しましたが、「ルーマニアの他の地域ではEU諸国に出稼ぎに行ったまま帰ってこない人が多い地域はあるけどBrebの人は帰ってくる。 子どもの数も減っていない。 20年経ってもほとんど変わっていない、あと10年くらいは大丈夫よー」と言っていました。

あまり「発見」されることなく、知る人ぞ知る『ヨーロッパ最後の中世』のままでいて欲しいと願います。