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黒田日銀総裁の骨太発言が市場心理の安定化のカギか

2013年06月07日 16時47分 JST
Reuters

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株安と円高は止まらず、4月4日の黒田日銀による「異次元緩和」決定後の上昇幅を失いかけている。米金融緩和の早期縮小観測をきっかけに、海外勢が日本株買い・円売りポジションを巻き戻していることが直接的な要因だが、下落の恐怖感が広がるなか押し目買いは乏しい。

日米景気の回復期待が崩れたわけではないが、ドル/円は企業の想定為替レートの上限に接近しつつあり、上方修正期待も低下してきた。市場は催促相場的な色合いを強めており、来週の日銀決定会合への注目度が高まっている。

<円安による収益上振れ期待も後退>

黒田日銀が「異次元緩和」を決定した4月4日のドル/円は95.60/61円(東京時間午後5時)、日経平均<.N225>終値は1万2634円54銭だった。その後、ドル/円は5月22日に103円74銭、日経平均は5月23日に1万5942円まで上昇した。だが、直後に急反落し、いまだ下げ止まる気配をみせていない。

昨年11月半ば以降、大胆な金融緩和期待を織り込みながら円安・株高が進んでいたことから、4月4日の水準が「スタート」というわけではないが、7日の日経平均は一時1万2548円まで下落、ドル/円は一時95.55円まで下落しており、為替と株式のマーケット上では、緩和効果を失いつつある。

円高・株安の直接的なきっかけは、日銀とは関係のない米金融緩和の早期縮小観測だ。米連邦準備理事会(FRB)幹部発言や経済指標で、「出口」に対する思惑は強化と後退を繰り返しているが、量的緩和が縮小されるかもしれないとの不安感を強めたことが、グローバル緩和マネーの巻き戻しにつながっている。特に日本においては、海外短期筋を中心に過剰ともいえる円売り・日本株買いポジションが構築されていただけに、調整の幅もスピードも大きくなっている。

米商品先物取引委員会(CFTC)が発表したIMM通貨先物の取組によると、5月28日までの週で、短期筋の円ショートポジションは9万9769枚と昨年11月半ばからの「安倍相場」で最高となっていた。

東証の主体別売買動向によると、海外投資家は昨年11月半ばから約10兆円、日本株を買い越していた。その後の円高・株安でポジションはかなり縮小しているとみられているが「売り仕掛け的な動きも加わり相場は荒れている。ボラティリティの高さを嫌気して、長期投資家の押し目買いが入らない」(国内銀行)という。

7日の東京株式市場では、トヨタ自動車<7203.T>、ホンダ<7267.T>、キヤノン<7751.T>など主力輸出株が軒並み下落するなど円安期待も後退気味だ。主要輸出企業の今期前提レートは、対ドルが90―95円。現在の為替水準で企業の収益計画に変更はないとみられるが、市場が期待していた業績上振れの可能性は薄れつつある。一方、長期金利は0.8%程度と「異次元緩和」前の0.550%(4月3日)に比べ上昇したままだ。株高と円安の効果が失われれば、金利上昇の悪影響だけが残ることになる。

<米経済は堅調に回復中>

今夜発表の5月米雇用統計を前に、ポジションを中立にしておこうという動きが円高・株安を加速させた面もあり、マーケットに広がる「恐怖感」が収まれば、円安・株高基調に戻るとの見方は根強い。「米経済の相対的な堅調さは変わらない。ポジションの投げが円高を加速させたが、5月米雇用統計後のリアクションを先取りしたともいえ、非農業部門雇用者数が市場予想を上回れば、緩和縮小観測からドル高・円安に動く可能性が大きい」と三菱UFJ信託銀行・資金為替部グループマネージャーの塚田常雅氏は話す。

実際、米経済は財政緊縮などによる振れはあるものの、着実に金融危機から回復しつつある。米連邦準備理事会(FRB)が6日公表した資金循環統計によると、第1・四半期の家計資産は、3兆ドル増加し70兆3000億ドルと過去最高を記録した。株価や住宅価格の上昇が資産を押し上げ、2007─9年の景気後退(リセッション)前の水準を超えた。

量的緩和第3弾(QE3)はそう簡単に縮小できないとの見方もある。4月米コアPCE指数は前年比1.1%と1960年の統計開始以来、最も低い伸び率になった。ディスインフレ傾向が強まる中で、逆資産効果を生むかもしれない「出口」戦略を急ぐことは、慎重派で知られるバーナンキFRB議長が決断しないとの予想も少なくない。

第1・四半期の米家計資産を押し上げたのは、株式資産(約1兆5000億ドル)と不動産資産(約7840億ドル)だ。緩やかながらも景気が回復するなかで、超金融緩和を維持できる背景となっている欧州や中国などグローバル景気の減速懸念もまだ強い。

<黒田総裁の骨太発言に期待>

ただ、恐怖感にかられたマーケットはオーバーシュートを起こしやすいため、警戒が必要だ。「現在の円高・株安は催促相場的な面もある。金融相場を崩さないためにも日米中銀からのアクションやメッセージが必要だ」とSMBCフレンド証券シニアストラテジストの松野利彦氏は指摘する。

来週10─11日の日銀決定会合では、金融・資本市場の動向とその影響、対応策などについて幅広く議論を進めるほか、長期金利上昇の対応策として、資金供給オペの期間を2年以上に延長することを検討するとみられている。

とは言え円債市場が不安定化した最大の理由は流動性の低下であり、共通担保オペの期間延長だけで、イールドカーブ全体を安定化させるのは容易ではないとの見方も多い。また、黒田東彦日銀総裁が「2%の物価目標達成のために、必要な措置はすべて取った」と発言したことと非整合的との指摘もある。

三井住友アセットマネジメント・シニアストラテジストの濱崎優氏は、小手先の緩和策よりも、黒田総裁が緩和継続のポリシーをあらためて表明することが、市場心理の安定化に資すると話す。「円債市場の不安の原因は日銀への不安だ。黒田日銀総裁は、間に合わせの緩和策よりも、デフレ脱却まで金融緩和を続けるという信念を繰り返しマーケットに伝えるべきだ。日米の金融緩和姿勢が変わらなければ、年末にかけて景気回復が期待できる」と述べている。

(伊賀 大記 編集;田巻 一彦)

[東京 7日 ロイター]