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岩手県紫波町「オガールプロジェクト」 補助金に頼らない新しい公民連携の未来予想図

2014年09月10日 14時59分 JST
猪谷千香

少子高齢化による人口減少、国からの地方交付税や補助金の削減。厳しい財政状況の中で地域活性化に悩む地方自治体は少なくない。従来型の公共事業のあり方が問われる今、補助金に頼らない公民連携で地域活性化を進め、全国から注目を集める町がある。人口3万3800人の岩手県紫波町(しわちょう)。「オガールプロジェクト」と呼ばれる計画で、駅前の町有地10.7ヘクタールを中心に、ホテルやバレーボール専用体育館、図書館、カフェ、産直マルシェなどが入居する施設を相次いでオープン。年間80万人が訪れるようになっている。紫波町はどのような未来予想図を描き、走り始めたのか。この夏、紫波町を訪れてみた。

■図書館や産直マルシェが入る「オガールプラザ」

盛岡駅から東北本線に乗り換え、20分ほど揺られると、紫波中央駅に到着する。駅前に広がるのは新しい街並みだ。芝生のグリーンが映える広場には白いテントが張られ、ビールや食べ物を楽しむ大勢の人たちでにぎわっていた。ここは「オガール広場」。紫波町が現在、取り組んでいる「オガールプロジェクト」のシンボルともいえる場所だ。

紫波町を訪れた8月2日、オガール広場に面した官民複合施設「オガールプラザ」の開業2周年と、オガール広場を挟んで真向かいに位置する新たな施設「オガールベース」のオープンを記念したイベント「オガール祭り」が開かれていた。まず、2012年6月に開業したというオガールプラザから見てみよう。

オガールプラザは、延べ面積5800平方メートルの2階建て建築。紫波町産の木材がふんだんに使われたという建物に親しみやすさを感じる。1階中央には、中核施設となる紫波町図書館がある。紫波町はフルーツやもち米の生産地として知られ、農業が基幹産業だ。そのため図書館では、さまざまな農業支援を展開している。農業に関する書籍をそろえるほか、農業専門データベース「ルーラル電子図書館」の利用促進、農業にまつわるトークイベントなどを実施。住民や農家の新たなコミュニティの場として、機能し始めている。

図書館に隣接するのは、「紫波マルシェ」。ここは、その日の朝に採られた新鮮な野菜をはじめ、ソーセージやベーコンといった畜産加工品、三陸産の魚介類、スイーツなどが並ぶ市場だ。図書館も販売に協力しているところがユニーク。食材に図書館おすすめの料理本の紹介POPを設置している。

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紫波マルシェに設置された紫波町図書館のPOP

図書館とマルシェのほか、1階にはカフェなどの飲食店、眼科、歯科といった民間テナントが入居する。2階を上がると、メインは音楽スタジオやアトリエスタジオ、市民ギャラリーが併設されている町の「交流館」。隣接して、紫波町の子育て応援センター「しわっせ」が入っている。民間の学習塾も同じフロアだ。

■日本初バレーボール専用体育館を備えた「オガールベース」

2年前にオープンした時から、オガールプラザの入居率は100%。しかも、民間テナントはほぼ県内事業者が占めている。そのオープンに先がけて、2011年4月には岩手県サッカー協会が運営する「岩手県フットボールセンター」が盛岡市からオガールプラザ近くに移転。オガールプラザと合わせて、2012年は目標30万人の2倍以上にあたる70万人が訪れ、黒字を達成した。70万人のうち町外の訪問客も多かったという。2013年も80万人とさらに集客力を高めている。

そして、7月31日。オガールプラザと対となる新しい施設「オガールベース」がいよいよオープンした。オガールベースの特長は、日本初というバレーボール専用体育館「オガールアリーナ」だ。オリンピックやワールドカップといった世界的な大会で採用されている床材を用いたトレーニング施設で、オープンを記念して8月3日には、Vリーグのチームが記念試合を披露した。アリーナには、宿泊施設である「オガールイン」が隣接している。ビジネスや観光の拠点として宿泊できるホテルだが、合宿用のドミトリーも用意。さらなる集客を目指している。

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7月にオープンしたオガールベース

■オガールプラザと従来の公共事業との違いとは

オガールプラザとオガールベースを両輪に、順調な滑り出しをみせる公民連携による「オガールプロジェクト」。「オガール」とは、フランス語で「駅」を意味する「Gare」(ガール)と紫波の方言で「成長」を意味する「おがる」を合わせて名付けられた。このプロジェクトは、紫波町が2009年に策定した「紫波町公民連携基本計画」に基づいて進められている。

基本計画によると、紫波町が抱える課題として、若い世代の人口流出や商店街地区の活性化、子育てしやすい環境、雇用の確保などが指摘され、解決策として新たな町づくりが提言された。そして、計画を実施する上で導入されたのが、「公民連携手法」だった。「VFM(Value for Money)の最大化」「民間事業者の採算性・安定性の確保」「町と民間事業者との適切なリスク分担」が留意されている。

例えば、補助金を10億円確保できたら、10億円をフルに使い、その後のランニンコストを考えず、稼働率の見積もりも甘いまま、空きテナントが目立つ立派な施設を建設するのがこれまで多くみられた公共事業の失敗だった。

しかし、オガールプラザはスタートから違っていた。まずテナントを固めてから、建物の規模や建設費用を算出した。建設費用のコストカットのため、特別目的会社がオガールプラザを約11億円で建設。その後、公共施設部分を紫波町に売却した。売却した費用以外は、東北銀行の融資や町と政府系金融機関の出資で賄った。補助金に頼らない町づくりが、こうして始まった。

■オガールプロジェクトを支える民間ブレーン

「補助金やめますか? それとも人間やめますか?」

有名な覚せい剤追放キャンペーンのパロディで、地域活性化事業の補助金依存体質に警鐘を鳴らすのは、エリア・イノベーション・アライアンス代表理事の木下斉さんだ。全国各地で地域の再生を手がけ、公共事業の現場で実践してきた立場から、「補助金がないから事業をやらないとか、補助金があるから事業をやってみるとか、本来補助金とは事業者を補助する目的のはずが、いつの間にか補助金が先頭を走っている事業が数多く存在しています。そして、そのような事業は例外なく失敗しています」と指摘する。

木下さんは、「オガールプロジェクト」も影で支えてきた一人だ。実は、このプロジェクトには木下さんを始め、民間の立役者が存在する。まず、中心となっているのが、オガールプラザやオガールベースを設立、運営をしている会社(施設名と同名)の代表取締役、岡崎正信さん。東京の大学を卒業後、国交省などを経て、家業を継ぐために紫波町に戻った。

そんな岡崎さんを支えているのが、「オガールプロジェクト」のファイナンシャルアドバイザーで、経済金融評論家の山口正洋さんや、同じくプロジェクトアドバイザーで、全国で地域再生のプロデュースを行っているアフタヌーンソサエティ代表取締役の清水義次さん。そして、「オガールプロジェクト」のマスタープランを担当した建築家、松永安光さんだ。

オガールプラザでは8月2日、木下さんをコーディネーターに、「稼ぐインフラ」をテーマにしたシンポジウムが開催され、岡崎さんや山口さん、清水さん、松永さんが登壇。紫波町のオガールプロジェクトとこれまでの公共事業がどう違うのかが話し合われた。その議論に耳を傾けてみよう。

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紫波中央駅駅前の町有地に広がるオガールプラザとオガールベース

■「補助金やめますか? それとも人間やめますか?」

まず、「成功と言われる再開発・区画整理などの過去の地域活性化手法は、現在の社会環境には通用せず、9割9分は失敗しています」と厳しく批判したのは、木下さんだ。自治体が大型の公共事業で立派な施設を建築したものの集客に失敗、赤字となっている全国の事例を紹介しながら、問題点を指摘した。

「成長時代には、税金をぶちこんで施設開発などを行えば、それで『成功』とされてきた。しかし、今ではこれはだめです。社会が縮小して需要全体が縮んでいく中で単に公共が投資したからといって、民間がついていくわけではありません。公共は作ることが目的で、民間は儲けることが目的ですから、儲かりもしない事業を公共が率先してやって誰もこない、施設経営として損をしている状況をみた瞬間に、民間はその地域ではやはり儲けられないとわかり、民間投資は別の場所にシフトします。今後は公共は民間より先んじて、しっかりと稼げる投資をしなければ、少なくとも地域活性化には寄与しません」

補助金に依存して失敗する公共開発事業は、自治体財政を長期にわたり蝕むという。

「建物のライフサイクルコストは大体、総工費の4〜5倍かかるといわれています。300億円かけたら、そのうち半分を国が出してくれたとしても、維持し続けるためには、1500億円分を地元が払わないといけない。これは自治体の負担になります。全国でこういう事例を増やしたら、本当に公共がやらなければならない福祉などサービスにお金がまわらなくなる。これがまさに、『補助金やめますか、人間やめますか』ということです」

通用しない活性化事業の制度を活用するのではなく、しっかり採算をとらなければ、活性化どころか、地域の衰退を加速することになると警告する。

■公共事業が誘い水となって民間を呼びこむ

公共事業における建築費用の問題点を指摘するのは、清水さんだ。

「どの町に行っても、税金を投入して作ったものが上手に使われているケースを見たことがない。特に、公共事業では工事費の問題が大きいです。民間で同じものを作ろうとすると、大体7割の工事費で作れます。このオガールプラザは、民間工事発注でコストを切り詰めて、民間で建てたものを図書館など公共施設部分を区分所有で町が買うという形で、コストの適正化をはかっている。これで、2、3億円は浮いています。貴重な税金がまともに使われている珍しい事例です。これを他の自治体に説明すると、『民間発注すれば安くなるのはわかっています。でも、それを議会でどう説明したらいいのかわかりません。面倒くさいです』と役所の幹部職員が言うんです」

さらに清水さんは、2000年代になってから日本の局面は変わったと述べた。

「だけど、いまだに今まで通りの成長を前提とした補助金の投資の仕組みが変わっていない。しかし、どんなふうに使っているのかということに主眼が置かれるようになると、もう少し本質に目を向けられやすくなるんじゃないかなと僕は思っています。この地域、この都市の経営課題はなんなのかということを、行政だけでなく、市民も考えることはすごく必要だと思います」

欧米の事例に詳しい松永さんは、「PPP(パブリック・プライベート・パートナーシップ)とかPFI(プライベート・ファイナンス・イニシアティブ)などの公民連携は、アメリカで始まった考え方ですが、民間が基本的に主体となって町づくりをやるような流れになりつつあります。イギリスもアメリカとは違って、国の手当が厚い国であったわけですが、公共事業が誘い水になって、役所がやるなら民間の我々もやろうという世界になっている。EUも基本的にそういうスタンスです」と説明。公民連携事業の新しい潮流を示した。

■「公共より民間の方が高くつく」は本当か?

「民間事業のほうが、公共事業より高くつくのでは?」というイメージがあるが、果たして本当なのだろうか。ここで、岡崎さんはオガールベースと盛岡市の施設「つなぎスポーツ研修センター」を比較してみせた。

「つなぎスポーツ研修センターは、岩手県から盛岡市が土地を無償で借りています。資金原資は税金と補助金です。建物も無償で借りています。建物改修原資は税金です。これに対し、オガールベースは土地の賃料として年間300万円を紫波町に払っています。資金原資は民間の資金です。建物の原資は東北銀行から借りました。その結果、どうなるか? 高校生の合宿だったら、1泊2食で1600円もオガールベースの方が安くなります」

「オガールプロジェクト」をファイナンス面でアドバイスしてきた山口さんもこう語る。

「結局、公共事業と称して金は使えるだけ使うということ。補助金がこれだけ取れたからというところからスタートするケースが多い。10億円もらえたから、10億円使ってしまおうと。7億円で終わったので、3億円はお返ししますって話は聞いたことがない。無理やり10億円を使います。では、民間だとなぜいろいろな無駄がはぶけるかというと、東北銀行といううるさい存在がいるからです。銀行がだめだ、金は貸さないといえば、無駄をカットできます。僕は『リフレッシュ』?

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