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オバマ大統領のアジア歴訪、影響力拡大で中国と綱引き

2014年11月10日 18時30分 JST | 更新 2014年11月10日 18時45分 JST
Reuters

中東が民主化運動「アラブの春」真っただ中にあり、欧州が債務危機で揺れていた2011年11月、オバマ米大統領は外交・軍事・通商政策での「アジア旋回」を強調すべく、アジア各国を歴訪した。クリントン国務長官(当時)もこの年、21世紀は「米国の太平洋の世紀」になるという政策論文を発表した。

あれから3年がたち、米政権のアジア重視路線はますます明らかになりつつある。米海兵隊が豪州北部ダーウィンでの駐留規模を拡大し、米海軍はフィリピン軍との連携を強化、ベトナムとの間では殺傷力のある武器の禁輸を一部解除した。

しかし、米国が中国の台頭をけん制するためにアジアで影響力を拡大させようとするなか、米国のパートナーの一部は中国政府の顔色をうかがってもいる。それによって中国は、台湾や東南アジア4カ国と対立する南シナ海の領有権問題で、より大きなフリーハンドを手にする可能性がある。

先に米国で実施された中間選挙では、民主党はオバマ大統領の指導力不足が批判されて惨敗を喫した。レームダック化が進むオバマ政権が、中国やアジア各国との交渉で強い立場を取ることは難しくなるとみられる。上下院とも共和党が支配する議会では、オバマ大統領が外交政策を主導する力も限られてくる。米政界の関心はすでに、2016年の次期大統領選に移った。

アジアでは、南シナ海で中国と対峙(たいじ)するフィリピンやベトナムなどは米国との連携強化を模索している一方、長い歴史を持つ他の同盟関係は以前に比べて足腰が弱まっている。

その大きな理由は、中国の経済的影響力がますます大きくなっていることだ。東南アジアと中国との貿易額は過去10年で4倍に膨らみ、昨年の3500億ドルから2020年までには1兆ドルに達すると予想されている。

<国内改革>

東南アジアで代表的な親米国だったインドネシアは、ジョコ・ウィドド大統領の下で船出した新政権が、国際的行動主義から距離を置く外交政策の転換を打ち出した。ウィドド氏は選挙期間中、内政問題に焦点を置くと訴えていた。

ウィドド大統領の外交アドバイザーであるリザル・スクマ氏は、ロイターの取材に対し、インドネシアは引き続き南シナ海で役割を果たし、航行と貿易の自由を支持するが、外交政策の優先順位には変化が出てくるとの見解を示した。

「米国は(インドネシアの)影響力を当てにするのはかなり難しくなる」。オーストラリア国立大学のインドネシア専門家、グレッグ・フィーリー氏はこう語り、南シナ海問題ではウィドド氏は、危機が発生しない限り行動する可能性は低いとの見方を示した。

タイでは、5月に起きた軍事クーデターが米国との関係を大きく変えた。クーデター以降、米国はタイとの外交関係を見直しており、共同軍事演習も縮小している。

来年に東南アジア諸国連合(ASEAN)議長国を務めるマレーシアでは、中国から貿易と投資の波が押し寄せており、同国政府はASEAN・中国自由貿易協定(ACFTA)の強化をめぐって中国政府と協議を重ねている。

米ブルッキングス研究所の東南アジア専門家ジョセフ・リオウ氏は、ASEANが中国に立ち向かうかどうかは「非常に疑問がある」と指摘する。

オバマ大統領は10─11日に北京でアジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議に出席し、13日はミャンマーで東アジア首脳会議(EAS)にも参加する。中国の習近平国家主席とは11─12日に会談を行うとみられる。

米当局者らによると、オバマ大統領は習国家主席に対し、海洋権益拡張を狙う中国の動きにくぎを刺す予定だという。米政府高官の1人はロイターに「米国側の懸念と(米中で)見解が一致しない分野について、われわれは極めて直接的かつ率直に話さなくてはならないだろう」と語った。

<アジア重視の進展>

オバマ政権のアジア重視戦略が一部で実を結んでいるのも事実だ。

今年4月にはフィリピンとの間で、米軍の派遣拡大を盛り込んだ有効期間10年の新軍事協定を結んだ。

7月には、日本の安倍晋三政権が、憲法解釈の変更による集団的自衛権の行使を認める閣議決定を行った。

米国はオーストラリアと軍事協力の拡大で合意し、インドとも軍事協力の枠組みを10年延長する方向で協議を進めることに合意している。

こうした一連の動きで恐らく最も注目に値するのは、ベトナムとの間で先月に交わした殺傷力のある武器の一部禁輸解除だろう。中国は今年5月、ベトナムが主張する排他的経済水域に石油掘削装置を一方的に設置。両国の関係は1979年の中越戦争以来で最悪の状態に冷え込んでいる。ベトナム戦争終結から約40年がたち、米国は、中国との領有権争いを抱えるベトナムの海洋安全保障の強化を支援するようになった。

またフィリピン軍によると、米国との合同軍事演習は過去2年で4倍以上に増えたという。かつて米海軍基地があった南シナ海に面するスービックには、今年1─10月に米海軍艦艇が100回寄港、2011年の54回から大幅に増えた。

米国防総省は、2012年4月に200人規模で始めた豪北部ダーウィンの海兵隊駐留について、現在1150人に増えたと説明。豪州政府との間では、向こう2年で2500人規模に増やす計画で合意している。

一方、オバマ政権の「リバランス」にとって欠かせない要素である環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)は、まだ交渉が妥結していない。

オバマ大統領自身は今回のアジア歴訪を通じてTPPを進展させたいと語っているが、米当局者は未解決な重要課題が残っているとして早期交渉成立は見込んでいない。TPP交渉には中国は参加していないが、いずれ加わる可能性は排除していない。

豪シドニー大学で米国研究を専門とするラッセル・トロード非常勤教授は、「中国の台頭を考えれば、原則的にアジアで米国の戦略的関与を支持しない国はない」と指摘。その上で「ただ、実際に立ち上がって自分たちの主義を貫くことを求めるなら、これまでもそうだったように、米政府が絶対的安心感を持てる段階まで用意できている国は少ない」と語った[ワシントン/ジャカルタ 8日 ロイター] 。

(原文:David Brunnstrom、Randy Fabi、翻訳:宮井伸明、編集:伊藤典子)