あの人のことば

「今この瞬間、笑いながら過ごしたい」 "余命半年"宣告の先を生きる、22歳の山下弘子さんが教えてくれたこと

2015年07月02日 23時37分 JST | 更新 2017年08月21日 01時37分 JST

大学1年生だった19歳のときに巨大な肝臓がんが見つかった山下弘子さんは「余命半年」を宣告された。摘出手術の後も、再発と転移をくり返し、幾度も手術と抗がん剤治療を受け、新しい治療法にもトライしている。

山下さんは22歳になった今、根本的な治療が見つかっていない中で、希望を失うことなく日々に感謝しながら生きている。2015年、スキューバダイビングのライセンスを取得し、海外旅行を楽しみ、友人との時間を大切にしている。そんな今を輝かせる生きかたや考えかたは講演や単行本でも反響を呼んでいる。

そんな彼女を紹介するドキュメンタリー番組「Cancer gift がんって、不幸ですか?」(日本テレビ)が7月4日に関東ローカルで放送される。この番組を企画・制作した日本テレビの鈴木美穂記者も24歳で乳がんを経験しているが、「あらためて弘子さんに生きかたを学ばせてもらった」と撮影を振り返った。

山下さんがなぜいつも楽しそうなのか。がんを経験したからこそ得られること(Cancer gift)とは? 治療のため入院している山下さんに電話でヒントを聞いた。

hiroko

余命宣告の先を生きる、山下弘子さん。宮古島にて。撮影:鈴木美穂

■ダイビングに海外旅行、今を楽しむ山下さん

――ブログ「今を生きる」を読みました。この春、宮古島でスキューバダイビングのライセンスをとって、5月にはメキシコの海にも潜りに行かれていましたね。

楽しかったですね。また行きたいな、と思います。

私、全然泳げないんですよ。でも、泳ぐことと潜ることは違うと聞いていたので。昔、何度か体験ダイビングをしたことがあって、それで水中の世界に魅せられて。(ライセンスを取得するのは)難しかったですね。水に慣れるのにちょっと時間がかかったかなという感じです。

――泳げなくてもライセンスはとれるんですね。

はい、泳げなくてもとれます(笑)。

hiroko

宮古島でスキューバダイビングのライセンスを取得した山下さん

――メキシコ旅行は、ダイビングが目的だったんですか?

いろいろ(講演とか執筆の)仕事を始めてから、趣味の旅行に行く時間がすごく減っていたので、1年前から2015年5月の1カ月間は、仕事を入れずに、とりあえずどこかに行こうと計画していました。1カ月あって、じゃあどうしようか。メキシコ行こうか。じゃあ、メキシコで潜ろうか、と。

——旅行は、家族や友だちと一緒に?

友だちと一緒でした。私は1カ月間フルで旅をして、2〜3組の友だちと現地で会いました。日本を一緒に出発した友だちと1週間遊んで、メキシコ空港でお別れして、私は次の場所に行って、そこでまた別の友だちと合流して、また1週間遊んで、みたいな感じでしたね。

■「私はがんでなくても、山下弘子、なんだ」

――ダイビングや旅行を楽しんでいます。にも「がんと共生する」「がん患者ではない」と書かれていましたが、山下さんにとっては、がんであることも、友だちと遊ぶことも、旅をすることも、すべて等距離のように感じられます。がんが発覚してから、どうやってそのような心持ちになられたのでしょうか?

本を出版した頃の思いと、今日の気持ちが、全く一緒かといったら、全く一緒ではなくて。今日に至るまで、多分今この瞬間も考えがすっと変わったりするかもしれないくらい、本当にいろんな考えを経ていろんな考えがあって、今日に至っています。

最初にがんが発覚したときは、何も考えていなかったと思うんです。受け入れられなかった、そんな時期もあったと思います。本を出したときは、がんと共存しようという気持ちが強かった時期かなと思います。

今は、がん患者じゃないとか、がんだから不幸とか、がんだから幸せとか、という問題じゃなくなって、なんだろう、「私は、私ではある」みたいな(笑)。

——私は、私である。

今の自分は、私はがんでなくても、山下弘子、なんだ、っていう。なんだろう......。

がんに感謝していますか? といわれると感謝はしているけれども、がんを特別視してはいない。私はがんだから今日まで来た、というのはあるかもしれないけど、それは、がんになっていろんな機会を得て、いろんな体験をして、いろいろと考えさせられて、1周して元に戻った感じです。

たしかに、がんがあったからこそいろいろ考えることができたし、自分を見つめなおしたり、今の気持ちに辿りつくことはできたけれど、なんだろう。がん患者だけではないんですよ。

■山下さんが見つめなおした、自分らしさ

――ドキュメンタリーを取材した鈴木さんは、24歳で乳がんを経験されていますが、初めて山下さんのブログを読んだときに「今は、前向きに今を生きようと思えるけど、治療中はそうは思えなかった」と。その前向きさは......山下さんらしさなのでしょうか?

根っからの明るさはあったと思います。明るさというか、諦め。「ま、いっか」という感じは小さい頃からありました。ダメなものはダメなんだし、考えても仕方がないものは、何も考えずに適当に。楽天的ではないけれど、悩んでいても仕方がないものは悩まない、っていう性格は元からありましたね。

(がんが発覚した)最初の私は、深く考えずに単純だったんだと思います。余命半年しかないんだったら、友だちと遊ぼうよって。死について考えてもわからないから、とりあえず楽しもうよって。本当に単純な理由で明るかったんだと思います。

でも、それじゃ周りが全然許してくれなくて。これは理由にならない。あなたは、本当は死の恐怖とか乗り越えてきたんでしょ? みたいな反応で、すごく聞かれるようになったんですね。

——人に聞かれて、考えるようになった。

じゃあ、死って何だろう。生きるって、生きる意味って何だろうって、人々との対話の中で、ひとつひとつ考えさせられるようになって。幸いにもメディアと講演とかでお話する機会もあって、みなさんの声を聞いて、あらためて考えるようになりました。

その頃の私は、使命感でいっぱいで。周りに背中を押してもらった部分もありますし、元々調子に乗りやすいところもあったので、「私、やらなきゃ」って。自分を犠牲にしても、誰かが幸せになってくれたらいいやって思っていたところがあって、自分自身が幸せになることを忘れかけていたんです。

メディアに出たことで誹謗中傷の声もあって、自分犠牲って何だろう、社会貢献って何だろうって考えて、あらためて自分らしさって何だろうって思ったんですね。

ありのままの自分の本当の性格は、すごく面倒くさがりで、適当で、腹黒くて、計算高くて、ケチで......みたいな(笑)。でもそんなの、なんだっていいんだ。その人がその人らしければ、と。

——自分らしさを見つめなおした。

私の考えは、100%正解じゃないっていうことにも気づきました。例えば、私は正直いって、がんとか何も考えていない。でも、いろいろ考えて楽天的な人もいれば、笑っている方が幸せっていう人も、ずっと泣いている方が幸せって人もいる。何がいいとか、どういう対応がいいかは全然わからない。

みんながそれぞれ、それでいいんだって思える、納得が大事。自分らしさを100%出して、その人が納得しているんだったら、いいんじゃないかな、と。1周回って、戻ってきました。

そうしたら、最近ありがたいことに「どうしてみんなに好かれるんですか?」と聞かれることが多くて。自分なりに考えているんですけど、ある人は「山下さんが自然体だからですよ」っていってくださったんですよ。全く無理せず、22歳らしく、いい部分も悪い部分も包み隠さず、普通に、そのままでいるからなんじゃないかって。

■「生きるしか、生きることしか見えていない」

――本の中では「がんではあるけれど、死なない」と。生きることに向き合っているからですか? そう思うことで、治療法がないなかで、新しい治療法に出会うなど、新たな未来を拓くことにつながっているのでしょうか。

お調子者なんです(笑)。乗せられやすくて、大丈夫だよっていわれたら、「大丈夫、大丈夫」って思うところはある。ただ自分で「大丈夫」って思っていると、本当にそう思えてくるんです。本当に、死ぬことを考えていないので、だから生きるしか、生きることしか見えていない。これが一般的にいう、楽天家なのかもしれない。

多分、いつ死んでもいいんです。にも書いたと思うんですけど、いろんな人との対話の中で、たとえ、私が植物人間になって、寝たきりになって、誰の役にも立つことができなかったとしても、そこで息をして、がんばって息をしているだけで、多分いろんな人に感謝されると思うんです。感謝される存在なんですよ。

本当に、私たちは愛されるために生まれてきたんだなあ、っていうのをなんとか実感している。たとえ誰の役に立たなくても、生きているだけで愛はある。

いつ死んでもいいんです。でも死なないだろうなあ(笑)。

――生と死、両方と向かったからこその言葉ですね。

無理やり、周りに向き合わされた(笑)。とくに(鈴木)美穂さんとか。

■「みんな働きすぎなんです。がんが治ったらじゃ、何もできない」

――鈴木さんは、山下さんに「今、したくないの? 仕事なかったら行くんでしょ?」とよく聞かれる、と。この一言、私や一般の方にも考えさせられると思いました。

あの人、働きすぎなんです(笑)。みんな働きすぎなんです。多くの人は、働かなきゃいけないと思っているかもしれないけれど、実はそんなことないんですよ。どうにかしたら、いろいろ隙間の時間を作ったりできるはずなんです。

人のため、誰かのために働くのもそれもひとつの幸せだけれども、はたから見たら、自分の幸せをあまりにも犠牲にしている人もいる。

美穂さんも、(ダイビングの取材で)宮古島に一緒に行ったら、すっごく楽しそうにしてたんです。ほらね、と(笑)

cancer gift

宮古島で撮影する鈴木美穂さん(左)と山下弘子さん(右)

——働きすぎて、自分の時間を失っている人は多いと思います。

「がんが治ったら何がしたいですか?」ってよく聞かれるんですけど、一般的に考えると、肺の手術をしているのでダイビングなんてできないんですよ。ダイビングしようとも思わないし、ライセンスをとろうとも思わないし、とりに行ってもダメって言われるかもしれない。でもちゃんと先生に相談して、きちっと気をつけていけば、何だってできると思っていて。

がんが治ってからじゃ、何もできないと思うし。治ってからじゃなくて、今したいことを、できるだけする。周りに迷惑かけない程度で、無理のない範囲でですが、何だってできると思っていて。時間がないから何もできないのは、もったいないと思います。

――今、何かやりたいことは?

最近は1周も2周も3周もしすぎて、何もないんですよ(笑)。妄想するのは好きなので、やりたいことはたくさんあるはずなんですけど、具体的に何かこれをしたい、というのがなくて。とりあえず、この瞬間を、のほほんと笑いながら過ごせばいいのかな、と。

例えば、もしメールが届いて格安航空券のセールを見たら、旅行に行こうかなって思うのかな。もしかしたら、みんながうらやましがる生活をしているのかもしれません。

【関連記事】

マギーズセンターの画像集

ハフィントンポスト日本版はTwitterでも情報発信しています

< mihosuzuki
がん患者が安心して過ごせる空間「マギーズセンター」とは? 24歳で乳がん経験、鈴木美穂さんに聞く

hiroko
「今この瞬間、笑いながら過ごしたい」 "余命半年"宣告の先を生きる、山下弘子さんが教えてくれたこと