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ミャンマー・ロヒンギャ問題「TPPに利用されている」 フォトジャーナリスト宇田有三さん講演【画像集】

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ROHINGYA
難民キャンプには国連や世界各国からの援助が入り、人びとの暮らしを支えている。 | Yuzo Uda
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ミャンマー(ビルマ)で長年差別を受けてきた少数派イスラム教徒ロヒンギャは2015年に注目を集めたが、そこにはどんな背景があったのか。ミャンマーを20年以上にわたって取材をしてきたフォトジャーナリスト宇田有三さん(52)は3月上旬、都内で講演し、総選挙後のミャンマーを解説する中で、ロヒンギャについても言及、「TPPに利用されている」と述べた。

ミャンマーでは、2015年11月の総選挙でアウンサンスーチー氏率いる「国民民主連盟」(NLD)が大勝。社会は大きく変化する一方、ミャンマー軍と少数民族勢力との戦闘は60年を超えるなど、問題も山積している。宇田さんは、総選挙のあった15年秋にロヒンギャの人たちが多く住む西部ラカイン州に入るなど、現地に足を踏み入れ肌で変化を読み取ってきた。

宇田有三( うだ・ゆうぞう) 1963年神戸市生まれ。神戸の中学校の英語教師を2年で辞めて1990年に写真を学ぶため渡米。92年中米の紛争地エルサルバドルで取材活動を開始。現在、東南アジアや中米で、軍事政権下の人びとの暮らし・先住民族・貧困などの取材を続ける。ミャンマーへは93年から36回の継続取材を行う。著書に「観光コースでないミャンマー(ビルマ)」 (観光コースでないシリーズ=高文研)など。

yuso uda
講演する宇田有三さん=東京都千代田区

ロヒンジャ・ムスリム(イスラム教徒)の難民は、1978年に20万人単位で、また91年から3年、あと2009年にバングラデシュに出ています。2009年にもとても大きな難民流出がありました。

日本でも去年初夏ごろ、ロヒンジャ難民がボートで国外へ逃げているというのが大きなニュースになりました。不思議だったのは、なぜこの時期にロヒンジャ・ムスリムのニュースが流れたのかということです。調べたら、TPP(環太平洋経済連携協定)が背景にあったんですよ。TPPにマレーシアも参加していますが、TPPの条項には、アメリカの国務省の「人身売買報告書」で4段階中の最低ランクの国はTPPに参加できないことになっています。マレーシアは最低評価だったんです。恐らく、どこかから大きな力がありまして、マレーシアは評価を上げないといけないということになり、人身売買の取り締まりが一気に進んだんです。

マレーシアの政府や警察関係者、またタイの政府や警察関係者らがたくさん逮捕されました。ちなみに、ビルマの政府関係者は全然逮捕されていません。その摘発のお陰で、マレーシアの評価が引き上げられたんです。ロヒンジャは、そういう風に利用されているんです。

ところでロヒンジャ問題とは何なのでしょうか。それは、民族や宗教の問題ではなく、もっぱら「ムスリム問題」なんです。ビルマ人やラカイン人に、じゃあロヒンジャ難民はイスラム教のシーア派なのかスンニ派なのか知っていますかと聞くと、ほとんどの人は知らないんです。ビルマでは、95パーセントのムスリムがスンニ派だとされています。

ビルマ国内には6種類のムスリムがいます。中国系の「パンディ」ムスリム、マレー系の「パシュ」ムスリム、中東から来た「カマン」ムスリム、インド・パキスタン系のムスリムなど。あと、バーマ(ミャンマー)ムスリム、そしてロヒンジャ・ムスリムがいます。

ビルマで最低限に位置する人たちが、ロヒンジャ・ムスリムです。一番上がビルマ系仏教徒で、次ぐのがビルマ系クリスチャン、少数民族系の仏教徒、少数民族系クリスチャンときて、イスラム教徒になります。イスラム教徒の中で一番上がビルマ系で、インド・パキスタン系があって、ずーっと下にきて、最底辺がロヒンジャ・ムスリムです。これは人為的に作ったものなんです。

ボタンの掛け違いをしたのが国連と、国際NGOなんです。「ロヒンジャ語」というのはありません。英語でロヒンギャ、ビルマ語では「ロヒンジャ」ですが、「ジャ」とは「人」を意味します。日本では、(群馬県)館林にロヒンジャの人がたくさん住んでいます。日本では「ロヒンジ人」とも言われますが、「ジャ」とは人なので、「ロヒン人・人」の意味になるんです。実はおかしいんです。また隣国バングラデシュの国境周辺では彼らのことをロヒンジャとは言わずに「バーマジャ(ビルマ人)」と呼んでいます。

ロヒンジャの人たちでも、自分たちのきちっとした歴史的背景を知っている人はすごく限られています。難民問題と、ロヒンジャが生み出された歴史的・政治的な背景とは全く別なんですが、ロヒンジャ難民の人はそれがきちっと分けられないんです。ロヒンジャの人たちが言っていることはすべて正しいという感じで、日本では報道されています。ロヒンジャ問題というのは、民族問題でも宗教問題でもなくて、数十年にわたってつくり出された、長年の軍政の政策の結果なんですよ。

去年11月の初め、ミャンマー国内のロヒンジャの避難民キャンプに行きました。その際、初めて正式に観光ビザから取材ビザに切り替えて入りました。もしかしたら追い出されるかとも思いましたが、いろいろな裏の手を使って、まあ通りました。

ロヒンジャ難民キャンプには12万人くらいいます。10カ所くらいのキャンプと、プラス非公式キャンプがあるんです。ここは警察が治安を担当していますが、でもそれは表向きで実は軍のキャンプなんです。軍の駐屯地があるんです。

■宇田さんが2015年11月にラカイン州で撮影した写真
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宇田有三さんが撮影したミャンマー(ロヒンギャ)
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中に入って、キャンプを運営している事務所に入りました。一番びっくりしたのが、前の独裁者(旧軍政トップ)タンシュエ氏と、(建国の父)アウンサン将軍の写真を飾っていたことです(=↑スライドショーの写真)。テインセイン(大統領)じゃないんですよ。どうしてかというと、ロヒンジャの人たちは、誰が本当の権力を持っているか知っているんです。 ミンアウンフライン(現・国軍最高司令官)でもないんですよ、軍で力を握っているのは。その写真をみたら、ビルマ人も激怒しますよ。どうしていまだに独裁者タンシュエの写真を飾っているんだと。

ロヒンジャの人たちに、「あなたは何人ですか」と聞きます。多くが「ムスリム」と答えます。そこで、再確認のために、あなたのアイデンティティーはロヒンジャ・ムスリムなのか、それともロヒンジャ民族なのか、そのどちらを取りますかと聞きます。すると、98パーセントの人が「俺たちはロヒンジャ・モスリムだ」と答えます。彼らは民族ではなくて、ムスリムとしてのアイデンティティーがとても強いんです。でも、海外から来てロヒンジャの人たちを助けようとする人たちが、「民族と名乗った方がいいですよ」と言ってきた。国際的に間違った啓発運動に流れてしまったんですね。

※講演は国際人権NGO「アムネスティ・インターナショナル日本」主催。

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