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「世界はポピュリズムに流され無責任な社会に」英米在住のジャーナリスト、EU離脱とトランプを語る

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Getty Images / AP
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世界に衝撃をもたらしたイギリスのEU離脱。このポピュリズム(大衆迎合)的ともいえる熱狂はイギリスにとどまらず、ヨーロッパ各国、そして大統領選を控えるアメリカにまで波及している。中でも、アメリカ共和党の候補指名を確実にしたドナルド・トランプ氏はその象徴といっていい。

現代のポピュリズムの台頭にはどのような背景があるのか。そして熱狂的なうねりの行き着く先は。ハフポスト日本版編集長の竹下隆一郎が、イギリス在住のジャーナリスト小林恭子氏、アメリカ在住のジャーナリスト津山恵子氏に聞いた。


■何を言ってもいい世の中になった?

竹下 今回のEU離脱についてイギリス国内の反応はどのようなものでしょうか。

小林 個人的には、EU残留でなくて離脱という結果になり、非常に残念です。なぜこういう結果になったのか。離脱派のキャンペーンは、アメリカのドナルド・トランプ氏のように、「イギリスの主権を取り戻せ」「EUの官僚たちに任せてはいけない」などと、イギリス国民の多くの人の心にグッとくる、感情に訴えるわかりやすいキーワードを使っていました。

残留派はキャメロン首相をトップに、「離脱したらイギリス経済に大きな影響を及ぼす」「IMF(国際通貨基金)やOECD(経済協力機構)からも世界経済に悪影響を及ぼすと警告されている」などと理詰めでキャンペーンを展開したのですが、全く国民の耳に届かなかったのです。残留派がEU離脱のデメリットを、根拠ある数字で示しても、離脱派は「あれはエスタブリッシュメント(既存の支配勢力)の人が出した数字だから正しくないし、偏っている」と批判し、封じ込めていくんですね。

アメリカも同じだと思うのですが、イギリスでも政治家や大企業といったエスタブリッシュメントへのアンチの気持ちが非常に強いのです。それがEU離脱という事態まで招くほど強かったのかと、非常に驚きました。

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離脱派の英国独立党(UKIP)ナイジェル・ファラージ党首。泡沫政党から一気に存在感を高めている

竹下 国民投票の直前、イギリス統計局は2015年に移民が33万3000人純増したという数字を発表しました。こうした移民問題も影響しているのでしょうか?

小林 移民問題の影響は非常に大きいと思います。ただし、反移民感情といっても、日本でイメージするような自分とは異なる肌や目の色を持つ人、異なる宗教を信じる人への差別感情があるわけではありません。人種差別的な意味ではなく、移民の人数が増えること自体が問題なのです。EUは人・モノ・サービスの移動自由という原則がありますので、移民の移動も無制限になっていることへの大きな懸念があります。

竹下 一方アメリカでは、どんな受け止め方をされているのでしょうか?

津山 アメリカでもやはり驚きのほうが大きいですね。最大の同盟国の国民が国民投票で選んでしまったということで、私の周囲でも本当に呆然としていました。

竹下 ドナルド・トランプ氏の台頭と結びつける言論はアメリカ国内で出ているのでしょうか?

津山 トランプ氏も、小林さんがおっしゃるようなアンチエスタブリッシュメントを声高に訴えているのですが、実は攻撃できる根拠もないし、責任をもって発言しているわけじゃないんですね。だから、どんな暴言を吐いても、そして何を批判されても構わないという姿勢なのです。

トランプ氏が毎日のようにアメリカ国内のテレビ画面に出てしまうと、「何を言ってもいいっていう世の中になってきたんじゃないか?」と思い始めるようになる。それがすごく怖いなと思っています。

■ トランプが親しまれ、クリントンが敬遠される理由

竹下 数字的な検証や理論立てて説明することなど「知性」への嫌悪感や、「理屈はもういい。私たちの感情が大事なんだ」という無責任な雰囲気は以前からイギリスで感じられましたか? そして、今回のEU離脱によって一気にそれが可視化されたのでしょうか?

小林 世界経済や政治の秩序なんて無視してもいい、というような動きはあるような気がします。現実や事実を基にして議論するのではなく、自分たちの感情にまかせて行動しているのです。政治家が自分たちの悩みを聞いてくれないという強い不満が根っこにあるわけですけれども。

竹下 アメリカではどうでしょう? アメリカのハフポストをはじめとしたメディアもトランプ氏の発言を検証して、ここが間違っている、全くの事実誤認だなどと指摘しているのですが、そういうメディアの態度自体が嫌われ、トランプ氏の率直な物言いの方が好まれるように感じます。

津山 トランプ氏が支持されている理由として、日本ではよく知られていない要因が2つあります。1つは、トランプ氏の支持層である、大都市に住んでいない年配の白人有権者たちに大手メディアの報道が浸透していないことです。彼らはまず新聞をとっていない。そして夕方のニュース番組もちゃんと見ていない。でもトランプ氏は、「ジ・アプレンティス」というリアリティショーのホスト役を11シーズンもやっていたから馴染みがあるし、ちょっと変わった面白いおじさんだよねっていう好感を持たれているんです。

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テレビ番組での歯に衣着せぬ発言がアメリカ国民に浸透し、現在の支持につながっている

もうひとつは、民主党の候補になるヒラリー・クリントン氏の実の姿がよく知られていないことです。彼女は政治や外交の業績もあるし、数字や現実に基づいた発言は新聞やニュースでも取り上げられる。でも、リアリティショーに出ないですよね。中国の国家主席と面会したと言っても、彼女の肉声もないようなニュース映像が 1分少々くらい流れるだけですから、彼女の肉声も聞こえない、私生活もわからない。完全に雲の上の人なんですね。

さらに、政治家ということでトランプ氏が批判するエスタブリッシュメントの象徴と見られている点も、彼女の人気の悪さにつながっています。

竹下 トランプ氏も日本から見ると大金持ちのエリートのように見えるのですが、それでも一般層に人気なのはどうしてなのでしょうか。

津山 トランプ氏の支持層は、お金持ちに好感を持っているのが特徴的です。それから、共和党の支持基盤として非常に大きく機能してきたエヴァンジェリカン(キリスト教福音派)など、キリスト教徒の中でもお金を儲けることはいいことだと説いている教派と強く結びついています。ですから、大金持ちに対する憧れを実現している人だから、「あれ? この人はいい人じゃないか」と、支持につながっているわけです。

■ ポピュリズムは拡大するのか、歯止めがかかるのか

竹下 EU離脱という結果を受けて今後どうなるかを考えてみたいと思うのですが、まず津山さんに伺いたいのが、アメリカでもポピュリズム的な勢いがさらに伸びるのか。あるいは歯止めがかかるのか、どのようにお考えでしょうか。

津山 アメリカの若者層がイギリス国民投票の結果を見て、「自分たちの声が吸い上げられないような選挙はやってはいけないのではないか」と思い始める可能性はあります。ですから、どの程度の影響かはわかりませんけれども、若い人たちの間で「今度の大統領選挙はちゃんと参加しよう」という機運につながっています。若い人たちだけでなくアメリカ人全体が責任ある大統領を選ぶのか、それとも無責任な大統領を選ぶのか、ということを真剣に考えるきっかけになると思います。

竹下 イギリスをはじめ、ヨーロッパの今後はどのようになっていくでしょうか。

小林 他のヨーロッパ諸国には反EU感情を持つ人が多くいますから、フランス、イタリア、スペイン、オランダなどでEU離脱の国民投票を求める運動はさらに強くなると思います。

イギリスでは次の首相、次の野党党首の話でもちきりですが、現実の生活レベルで最も懸念される変化として、イギリスにいる移民に対するソーシャルメディア上や現実のいじめ、バッシング、攻撃が激化していることがあります。最大の攻撃対象は東欧出身の移民、とりわけポーランドです。

移民の人たちもイギリスにやってきて普通に仕事や生活をしていたところに、まさかこんな事態になるとは思っていなかったでしょう。弱い人をいじめることの楽しみや快感を覚える人たちの攻撃で、移民が厳しい状況に追い込まれないかと懸念しています。

■「無責任なアンチエスタブリッシュメント」が世界を包む

竹下 このポピュリズムの台頭を端的に言い表すと、どのような言葉がふさわしいでしょうか。

津山 「無責任」ですね。これからの将来を担う若者たちに大きなダメージを与えている無責任な人間たちの暴走です。EUの中を自由に行き来できて、就職もできて、能力も高めていける。いろんな友達もできると考えていた若者たちの将来が、6月23日に突然プッツリと絶たれたわけです。そんな無責任な決断を国民投票で可能にしていいのだろうかと思います。

もうひとつは「アンチエスタブリッシュメント」というキーワードもあると思います。政治家や大企業が社会に貢献していくという意味で、民主主義や社会のあり方が変化していくどう対応していくのか、エスタブリッシュメント側が自分たちの立ち位置を見直すきっかけになると思います。

小林 私が思いついたのは、津山さんと共通して「アンチエスタブリッシュメント」、そして「アナーキー」ですね。イギリスのパンクバンド「セックス・ピストルズ」を思わせるような無政府的で、無責任で、アナーキーな感情。エスタブリッシュメントに対する反抗が強まり、「何言われたって嫌なものは嫌なんだよ。あとはどうなったって知らないよ」とばかりEU離脱に向かってしまいました。そういう感情がむき出しになってしまった。

もしも日本のみなさんがそういった感情をお持ちでしたら、それをもう少し質の高い議論に高めて、理性的な判断で自分たちの人生を決めていただけることを強く望みたいです。イギリスの離脱はポピュリズムに流された悪い例として、無責任な社会にならないように願います。

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小林恭子
英国や欧州のメディア事情や、ネット時代のメディアの未来、電子書籍の可能性などについて、新聞業界紙や朝日新聞社「Journalism」などに寄稿。

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津山恵子
ニューヨーク在住。ハイテクやメディアを中心に、米国や世界での動きを幅広く執筆。「アエラ」にて、フェイスブックのマーク・ザッカーバーグCEOを単独インタビュー。元共同通信社記者。

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