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「読んでから見るか 見てから読むか」時代をつくった角川映画の魅力、中川右介さんが語る

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HIROKO YAKUSHIMARU
セーラー服と機関銃 (C)KADOKAWA1981 | KADOKAWA1981
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角川映画の誕生から今年で40年を迎える。一大旋風を巻き起こした1970年代後半から80年代にかけての角川映画の名作を上映する「角川映画祭」が、7月30日から東京・角川シネマ新宿で開かれる。1976年の第一弾『犬神家の一族』(石坂浩二主演)から、昭和の終盤、1988年の『ぼくらの七日間戦争』(宮沢りえ主演)まで48作品を一挙上映する。

人々を引きつけた角川映画の魅力とは何だったのか、また映画祭の見どころはどこか。『角川映画1976-1986』の著者で評論家の中川右介さんは、ハフポスト日本版の取材に「映画界にとっても、出版界にとっても、画期的でした」と話す。

中川右介(なかがわ・ゆうすけ) 1960年東京都生まれ。早大卒。評論家、編集者、出版社経営者。著書に『カラヤンとフルトヴェングラー』『昭和45年11月25日』『角川映画1976-1986』など。

yusuke nakagawa
インタビューに応じる中川右介さん



■「読んでから見るか 見てから読むか」というコピーは流行語に

――角川映画に魅力を感じたきっかけはなんですか。

私は中学生から映画好きだったのですが、当時の日本映画には中学生男子が見るものはなかったんです。70年代前半といえば、『男はつらいよ』、『トラック野郎』、また山口百恵と三浦友和の恋愛映画という感じでした。

ですから、私が見に行ったのは、ほとんどがハリウッド映画。つまり、「映画を見ること」イコール「外国映画を見ること」でした。そんなころ、1976年、高校1年の秋に角川映画が始まり、日本映画にもこういった面白いものがあるんだと思って見始めました。ミステリーが好きということもありましたね。

――初めから話題だったのですか。

ええ。角川映画の第1弾は76年の『犬神家の一族』ですが、角川書店の二代目社長が映画を作り始めたことと、何よりも横溝正史ブームでしたから。湖から足が逆さまに突き出ている写真のポスターはかなり話題になり、プールで真似する子供が多かった。

――実際、劇場で見てみた印象は。

面白かったですよ。良くできているなあと思いました。原作は本格探偵小説ですが、こういうミステリーは映画にしにくいんですよ。殺害シーンを最初に見せると犯人が分かってしまうから、そこは最後まで見せられない。探偵が関係者に質問することで物語が進みますが、対話だけなので、映像化しにくいのです。『犬神家の一族』も、金田一耕助が質問していくだけなんですが、飽きさせずに見せてくれました。

――当時、角川書店社長だった角川春樹さんは新たな試みで映画を売り始めたんですね。

そう。角川春樹さんは、映画を売るためにはどうしたらいいのかという点で天才的な興行師でした。

2作目の『人間の証明』(77年、岡田茉莉子主演)からは、テレビコマーシャルを公開の何か月も前から大々的に流していました。「読んでから見るか 見てから読むか」というコピーは流行語になった。これ、すごいんですよ。映画を見るか見ないか、原作を読むか読まないか、ではなく、両方なんです。映画が先か小説が先かという順番の選択肢があるだけ。角川文庫を売るためのコマーシャルであり、映画のコマーシャルでもあったわけです。

映画界としてみれば、テレビはお客さんを奪った「憎らしい存在」なので、そのテレビを利用して宣伝するという発想がなかったんです。それを角川映画は、もともと映画界の会社ではないので、合理的に判断して、テレビコマーシャルを打った。それで映画人からはだいぶ嫌われ、批判もされました。

テレビとの関係では、角川映画は劇場公開の1年後に作品をテレビで放送した。これも画期的でした。当時は公開から何年もたたないとテレビでは放映しません。1年後にテレビで放映されたら誰も映画館へ行かなくなると、映画館が嫌がったんです。『人間の証明』の封切りの直前に『犬神家の一族』がテレビ放映されました。それが結果として、『人間の証明』の宣伝にもなったわけです。『犬神家の一族』を映画館では見なかった人がテレビで見たことで、角川映画は面白いと分かり、次は映画館へ見に行く。

いまでは、シリーズものの新作が封切られる時は、テレビでその前の作品を放映するのは当たり前のことですが、これも角川映画が始めたものです。同じように、小説も単行本で出したら3年くらいは文庫にしないのが業界の不文律でしたが、角川は映画にすると決めたら、半年前の新刊でも文庫にしていきました。


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角川映画祭
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■『時をかける少女』はスター誕生の神話です

――80年代に入り、薬師丸ひろ子、原田知世、渡辺典子が「角川三人娘」と称され、映画が成功しました。

春樹さんはアイドル映画を作っている意識はなかったと言っていますが、見ているほうとしてはアイドル映画でしたよ。主題歌もヒットしましたね。ただ、薬師丸・原田のアイドル映画の時代って、すごく短期間でした。印象が強いので、何年もやっていたみたいですが、薬師丸・原田の2本立て(2本の作品を上映・上演すること)は83年夏と、84年夏と暮れの3回だけ、つまり1年半だけでした。

――春樹さんは、角川文庫の売り上げを伸ばすため映画製作に目を付けた「メディアミックス」の先駆けですね。

映画界にとっても、出版界にとっても、画期的でした。ベストセラー小説が映画化されることは大昔からよくあることなんですが、出版社が主導的に映画にしたことはなかった。ベストセラーの映画化ではなく、映画化してベストセラーにするという方法を打ち立てたんですから。

この方法で、横溝正史、森村誠一、赤川次郎らの小説は売れに売れました。映画になった小説だけでなく、その作家の他の小説も売っていく、作家トータルを売り出すというのも出版界では新しい方法でした。その作家の角川文庫が書店店頭に並ぶことで、同時に映画の宣伝にもなる。映画と本を連動させ、書店を映画の宣伝の場に変えました。

書店に他の本を探しに行った人が、例えば山積みになっている横溝正史の本を見て、そばに映画のポスターがあれば、映画があることを知る。そして本も売れる。書店にポスターを配るだけで、広告代を払わずに宣伝してくれる。書店は本を売りたいので、ポスターを喜んで貼りました。原作の出版社と映画製作者が同じなので、それができました。

ただ、80年代に入ってフジテレビが本格的に映画を手がけ始めると、苦戦していきます。83年の『南極物語』(高倉健主演)などです。角川映画はテレビ局に莫大な広告代に払ってコマーシャルを打ちますが、テレビ局は自局の番組の中、タダで宣伝ができる。そこにハンディが生じました。

角川映画は異端で批判されていたのに、映画界全体が角川映画化していったわけです。そうなると、より資本の大きなところとの競争となってしまう。さらに、原作の本は売れても、その作家の他のものまでは売れなくなってきたようで、本と映画の両方を売るのが難しくなる。それが平成になってからの角川映画でした。

――ところで、中川さんお勧め映画は何ですか。

まず、『時をかける少女』(83年、原田知世主演)ですかね。『探偵物語』(薬師丸ひろ子主演)との2本立てでした。薬師丸は『セーラー服と機関銃』で大スターになったのに、大学受験のため女優を休んでいて、『探偵物語』は1年半ぶりの主演映画でした。松田優作も共演するし、監督は新進気鋭の根岸吉太郎なので、みんな期待して見に行った。ところが、期待していたほどには面白くなかった。一方、『時をかける少女』は、大林宣彦監督自ら「おまけ」と言っていますが、そういう扱いだったんです。メインは『探偵物語』で、前座として『時をかける少女』があった。ところが、何も期待していなかった『時をかける少女』が面白かった。それで伝説的な映画になりました。

あの時、『時をかける少女』一本だけが封切られても、原田知世はまだ一般には知られていなかったので、ヒットしなかったでしょう。これは2本立ての偶然の作用が生んだ名画であり、スター誕生の神話です。

『野性の証明』(78年、高倉健主演)は、社会派ミステリーがアクションものになり、最後は大戦闘シーンで終わるという、冷静にみれば破綻している映画ですが、角川映画らしくて面白い。薬師丸ひろ子のデビュー作です。大藪春彦原作の3作品、『蘇える金狼』(79年、松田優作主演)、『野獣死すべし』(80年、松田優作主演)、『汚れた英雄』(82年、草刈正雄主演)も忘れられない。特に『野獣死すべし』と『汚れた英雄』は、大衆映画なのに映像に凝りに凝り、ストーリーがどこかへ行ってしまう前衛的な映画でした。これは角川映画ならでは。

角川映画最大の、というよりも、日本映画最大のスケールで人類滅亡を描いた『復活の日』(80年、草刈正雄主演)もお勧めです。

――今回、「角川映画祭」が行われることの感想は。

歴史になったんだという感じです。過去と言うより、歴史になったんだと。こういうふうに製作者でくくれるのは角川映画くらいでしょ。

――これまで角川映画を見たことがない人には、どんなことを伝えたいですか。

現在の映画ではないということです。30年前にすでにこんなことをやっていたのかという、新鮮なことがあるのではないでしょうか。つまり、そこからあまり映画は進歩していないんです。角川映画はこれまでにないものをやろうとしていました。また、昭和の終わりごろは、こういう時代だったんだと感じられます。

…………
「角川映画祭」の前売り券は1回券1000円。上映スケジュールと時間は同映画祭公式サイトに掲載されている。

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