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「自然の再野生化の力を意識してほしい」 映画『あたらしい野生の地』フェルケルク監督に聞く

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オランダの首都アムステルダム近郊に、野生では絶滅した動物種を再び野に放つことで、その土地の生態系を復元しようとする「リワイルディング(再野生化)」を成功させた自然保護区がある。そこで暮らす動物たちの春夏秋冬を美しい映像でつづったドキュメンタリー映画『あたらしい野生の地-リワイルディング』が、10月29日から東京・渋谷のアップリンクを皮切りに公開される。

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映画『あたらしい野生の地-リワイルディング』より

作品の舞台となったのは、アムステルダムから約50キロ離れたところにある自然保護区「オーストファールテルスプラッセン」。作品は同国で2013年に公開され、人口約1600万人のオランダで70万人を動員するヒットとなった。監督したマルク・フェルケルクさん(60)が来日した際にハフポスト日本版のインタビューに応じ「自然が供えたリワイルディング(再野生化)の能力を、日本の人は意識してほしい」と語った。

作品概略 「オーストファールテルスプラッセン」の敷地面積は56平方キロメートル。1968年に干拓事業が始まったが、事業は72年の石油ショックで破綻をきたして頓挫。干拓地はそのまま放置され、人の手が入らなかった。湿地にはいつの間にか覆い茂った水草を目当てに水鳥たちが集まるようになり、その数は数万羽に。その事実を知った自然保護活動家たちはこの場所を自然保護区にすることに成功する。実験的に放牧された数十頭のコニック(もともとは家畜だった馬が野生化した種)と赤鹿は、野生の営みに呼応するように繁殖を重ねて数千頭の群れを作るようになった。

保護区は最初は人間が作り出した土地だが、新しい野生が命を育み、いつの間にか美しい野生の楽園ができていった。作品は、長時間撮影したタイムラプスを駆使している。

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インタビューに応じるマルク・フェルケルクさん=中野渉撮影

マルク・フェルケルク ドキュメンタリー映画の監督、脚本、カメラ、モンタージュで30年以上の経験を持つ。ここ数年はナショナルジオグラフィックチャンネルやディスカバリーなどの国際テレビ番組で数多くのドキュメンタリー作品を監督し、受賞している。初監督映画作品「Buddha’s Lost Children」 (2006)は2007年にアカデミー長編ドキュメンタリー映画賞にエントリーされた。

――この作品を作ったきっかけはなんですか。

作ろうと思った理由は大きく二つあります。一つは自然を見せること。ある土地の「ありきたりな自然」が、どれだけ美しくて驚くべきものであるかということです。身の回りの自然の中にもドラマや美しさが見つかるんです。

第二の理由は、「オーストファールテルスプラッセン自然保護区」それ自体を広く知ってもらかったことです。オランダ人はこの保護区についてよく知りませんでしたが、この映画によって自然を知るモチベーションが高まったと思います。この映画がスマッシュヒットしたお陰でオランダ人の関心は高まりました。

オランダは人口過密の国で、国は整備され過ぎていると感じます。それまでは、遠くへ行かないとこのような自然をみることはできませんでした。45年間、一般の人が入ることがなかった場所です。電車が保護区の側を走っており保護区の内部が見えるのですが、動物の死骸があるため怪しまれてネガティブな捕らえ方もされていました。

でも保護区では、生物の多様性が奇跡的に良い状態になっていました。湿地帯で、自然が持つ再生の力をとても明確に力強く実証しているんです。生態学的ダメージ、そして自然の減少といったニュースを私たちは毎日耳にしますが、その一方、正しい条件がそろえば自然は再生するための驚異的な力があるということを示してます。

――撮影にはどのくらいの期間をかけたのですか。また、撮影現場はどんな様子だったのですか。

これまで映画作成のチャンスは3回あり、最後にようやく実現できました。製作には計約3年かかかり、撮影に2年、編集や音響作業に1年をかけました。

撮影には18人のカメラマンが関わりました。それぞれ異なった専門性を持ち、主題を理解できる人が必要でした。なによりも、自然を予測しながら撮影を進められる程度の知識がないといけなかったんです。

厳しい冬の様子をぜひとも撮りたいと思い、それで2年かけました。コニック(馬)を中心に構成を練ったのですが、それは馬には人々が感情移入しやすく広い観客にアピールすると思ったからです。

――作る際の大変さや、喜びは何でしたか。

生と死は同じくらい大切です。印象に残っているのは、鹿が死んでいくのシーンです。自然な死をカメラで捕えるのは簡単ではありませんでしたが、とても穏やかで最も美しく、感動的な死の過程を映すことができました。死は予測計画できることでもありませんから幸運でした。

保護区はエコシステムができており、それを維持することが重要です。人間の介入は最低限です。オランダは「管理をする国」だとのイメージが強いのですが、ここではそうではありません。いかに介入しないかがテーマで、自然とは何かと問うています。作品で示したかったのは、自然のシステムそのものでした。人間の関わりはノイズになってしまうということで省きました。

――日本での公開に際し、メッセージは何ですか。

日本の人たちは、オランダの人たちと同じくらいの希望と刺激をこの作品から得てもらえれば嬉しいです。ごく普通の日常に近い場所に驚くべきものが宿っており、そしてそこに自然そのもののたくましい回復力が宿っているということを感じてもらえたら嬉しいです。

日本は、ごく普通の自然が素晴らしい国だと感じています。自然を管理するのではなく共存しています。また、自然が供えたリワイルディング(再野生化)の能力を、日本の人は意識してほしいです。

――日本では東日本大震災があり、福島が大災害と原発事故の被害を受けました。福島では、放射能汚染によって人が立ち入ることのできない場所を自然に戻そうとする新しい命のサイクルが生まれています。オランダと重ねて、どう感じますか。

保護区は、干拓された40年前から今までの間に偶然生まれた土地です。自然には、しかるべき場所があれば自らを回復して再構築する驚くべき力があることを示しました。短時間でこんなにも豊かでダイナミックな生態系ができたのです。この地区は変化し続けており、新たな展開があるたびに新たな驚きがあります。福島を訪れたことはないですが、福島でもきっと同じように生命が育んでいくと思います。


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『あたらしい野生の地ーリワイルディング』
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『あたらしい野生の地—リワイルディング』 監督:マルク・フェルケルク (2013年/オランダ語/97分/カラー/シネスコ/オランダ/提供:チームRewilding/配給・宣伝:メジロフィルムズ)

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