植物にかけられた「魔法」とは? 西畠清順さんがプラントハンターになった理由

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日々の暮らしの中で、ふと植物が恋しくなる瞬間はないだろうか。花を愛で、その香りを嗅いでみる。それだけでも、ふと気持ちが軽くなった経験は、きっと多くの人にあるはず。頭で考えるよりも先に、心と体は植物を求めている。

プラントハンターという職業は、私たちのそんな根源的な欲求から生まれたものかもしれない。

日本を代表するプラントハンターである西畠清順(にしはた・せいじゅん)さんは、幕末から続く花と植木の卸問屋「花宇」の5代目として生まれた。にも関わらず、幼少期から家業への興味はゼロ。野球や格闘技に熱中する体育会系男子として成長した。だが21歳のとき、ある植物との出会いが彼を大きく変える。

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「人生が3回あっても足りない」という植物の奥深い魅力とは? 世界中を旅して珍しい植物を探し求める清順さんに話を聞いた。

■“食虫植物の王様”に魔法をかけられた21歳

――プラントハンターとはどんなお仕事なのでしょう? 

もともとは17世紀頃にイギリスで生まれた職業で、世界中を旅して王族や貴族に珍しい植物を持ち帰っていた人たちのことを指していたといわれています。実際、僕も世界の王族や富豪と取引をしていますけど、今の時代はそれだけじゃない。

「イベント会場を植物で埋めつくしてほしい」「街づくりを手伝ってほしい」。さまざまな要望に合わせて植物を選ぶこともプラントハンターの仕事です。一言でいうなら「植物を届ける仕事」。卸仕事がベースではありますが、時代ごとに必要な形で植物を届けるのがプラントハンターだと僕は思っています。

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――幕末から続く花と植木の卸問屋「花宇」の5代目として生まれたそうですが、幼い頃から植物は好きでしたか?

いや、それが全然。21歳までは植物に何も感じてませんでしたね。僕は中学、高校時代に野球をやっていたんですけど、誰かが試合で美しいホームランを打つ瞬間には「うわーっ!」って心揺さぶられるんですよ。でも植物は「そよそよ風になびいてるだけでしょ?」くらいにしか思っていなかった(笑)。

転機は21歳のとき。オーストラリアに留学後、プチ放浪ごっこをしたんですよ。東南アジアとかポリネシアの島々を周って、最後にたまたまボルネオ島のキナバル山という高山に登ったんですね。

――標高4095m、富士山より高い山ですね。

体力に自信があったからスニーカーで登っちゃったんですけど、寒いし空気は薄いし、しんどかった(笑)。でもそこで出会ったネペンテス・ラジャという世界で一番大きい“食虫植物の王様”をひと目見た瞬間、「なんだこれ!?」って疲れが吹っ飛んだんです。鮮やかな色も、ビジュアルのインパクトも、圧倒的な存在感も、すべてに心を揺さぶられた。

そこからはもう、魔法にかかったように植物のことが好きになってしまって。帰国してすぐに家業を手伝うようになりました。

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東南アジアを放浪中の清順さん。21歳にして、植物への“目覚め”が訪れた。

■人生が3回あっても足りない。植物は“極めきれないコンテンツ”

――修行時代も長かったそうですが、プラントハンターという職業に大切なこととは?

危険な場所に行って珍しい植物をとってくる仕事ですから、やっぱり体力、根性が一番……と誤解されがちですけど、何より大切なのは知識。素人相手なら騙せても、専門業者たちと渡り合っていくためには、彼らを納得させる知識が絶対に必要になってくる。僕の場合は大学も何も行ってないので、植物の目利きや、木の登り方、不安定な足場で刃物を扱う方法など、全部実地で身につけました。

野球をやっているときも格闘技をやっているときも、「どうせ上には上がいる」という感覚が常にあったんですよ。でも植物の仕事だけは、自分で言うのも恥ずかしいですけど「たぶん自分一番になれるな」という手応えがあって。その確信は今日に至るまでずっと持ち続けています。もう毎秒ずっとね(笑)。

――プラントハンター歴15年。植物の面白さはまだまだ尽きない?

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人生が3回あっても足りませんよ。植物の魅力はあまりにたくさんありすぎて、一言ではとても言えない。僕の場合は人生の全部を植物に与えてもらっている。仕事も、人との出会いも、結婚相手ですら植物が縁ですから。僕は顕著な例ですけど、人間が着ている服の繊維だって、食べている野菜だって、植物でしょう? 人間は植物がなければ本当に暮らしていけないんです。こんな風に極めきれないコンテンツを仕事にさせてもらっている幸福感、やりがいは常に感じていますね。

■「有機的な思考」が求められる時代に。都市の人々が植物を欲する理由

――2012年には「そら植物園」をたちあげ、「六本木アートナイト」、シンガポールの植物園ガーデンズバイザベイでの「Blossam Beats」など、世界の大都市でプロジェクトを多数手がけていますね。

そうですね、それだけ都市で暮らす人たちが植物を欲しているんだと思います。依頼が来たとき、「え、なんでその土地に縁もゆかりもない自分が?」と思うことがあったんですけど、自分というよりは植物が指名されたんだろうな、って。自分はたまたまその代役を引き受けているに過ぎないんです。

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日本とシンガポールの国交50周年の春、 シンガポールの植物園「ガーデンズバイザベイ」にて催された桜の花見イベント。週末だけで来場者2万人を超える記録を残した。

これからの時代、人が大勢集まる都市では、植物のように有機的なものを欲していく傾向が強まっていくんじゃないでしょうか。産業革命のときは物流を制するものが世の中を制する時代だった。IT革命では情報を制するものが強者になった。じゃあ次はどんな時代になるかっていったら、どれだけ「有機的な思考」ができるか、自然や環境に寄り添った思考ができるか、ということの価値が高まってくるだろうと僕は思っていて。

時代の先を行く人たち、感度のいい人たちは、そのことに気づき始めている。だからこそ、植物を用いて自分たちのメッセージを発しているんでしょう。

■みんなの心の中にどんどん植物を植え付けていきたい

僕が「そら植物園」をたちあげた動機もそこ。1人でも多くの人にいろんな植物を発見してほしいんです。「桜ってこんなにキレイだったんだ」「オリーブってこんなにかっこよかったんだ」という発見を通して、みんなの心の中にどんどん植物を植え付けていきたい。植物に“モノゴコロつく”人を増やしていきたいんです。

――世界中の植物を見てきた清順さんが、一番好きな植物はなんでしょう?

桜です。やっぱりカリスマ性がある。毎年毎年、扱うたびにハマっていきますね。桜の語源って「さ」が「サ神様(田の神様)」を、「くら」が御座(みくら)という神様が降りてくる居場所を意味するという説があるんですよ。日本人にとって特別な花だからこそ、そういう神聖な名前が付けられたんだと思います。梅も桃もレンギョウもロウバイも、春の花木はなんだって綺麗ですよね。それでもやっぱり桜は別格です。

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世界134カ国から約2万人が集うWOC 世界眼科学会の目玉となった迎え花。“おもてなし桜”と名付けられ、大きな話題を呼んだ。

人って植物に思いを重ねるんですよ。桜を見て入学の初々しさを懐かしく思う人もいれば、亡くなった人を思い出して切なくなる人もいる。受け手の気分や背景によって、全然違うものが浮かび上がる。植物と距離が遠い人ほど「植物=癒やしでしょ?」って勘違いしがちですけど、それだけじゃない。本当は日常生活の中で、みんなが植物からいろんな感情を受け取っているはずなんです。

人も植物も同じ。本気で距離を詰めたら、全然違う部分が見えてきますよ。これからまさに桜の季節が始まりますけど、この春もぜひ桜を見上げてみてください。きっと何か心動かされる感情に出会えるはずですから。

(取材・文:阿部花恵 / 撮影:西田香織)


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