クビ寸前から営業成績トップに変身したきっかけは、手紙だった。アナログだけど最強のビジネスツールとは?

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一生懸命訪問し、メールをしたり電話をかけまくったりしても成績が挙がらずに悩んでいるセールスパーソンは数多い。

かつて大手ハウスメーカーに勤務していた菊原智明さんもそのひとり。「クビ寸前のダメ営業マンだった」と自らを振り返る菊原さんは、顧客へのアプローチを少し変えただけで、4年連続で売上No.1のトップセールスパーソンに変身。

工学部出身で、不器用な理系セールスパーソンが試行錯誤の末に辿り着いたのは、意外にも「営業レターや年賀状、暑中見舞いのはがきを手書きで送る」という、オーソドックスな営業スタイルだった。

「手紙」というアナログツールを、理系らしい合理的なアプローチで「武器」に変え、現在は営業コンサルタントとして独立した菊原さんに話を聞いた。

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■工学部から営業職へ。契約が取れずに苦しんだ20代

――工学部機械科のご出身とのことですが、なぜ営業職に?

ある友人の家に遊びに行っていると、自動車の営業をしていた彼の父がしょっちゅう早い時間に帰ってきていたので、「営業の仕事って楽そうだな」と勘違いしてしまったんです(笑)。

そんな甘い考えだったので、新卒で入社した大手ハウスメーカーで営業部に配属された後は、すぐ壁にぶち当たりました。当時のハウスメーカー営業は訪問とテレアポが中心だったのですが、電話してもすぐに切られるし、訪問してもドアすら開けてもらえない。朝9時から夜9時まで駆けずり回っても、まったく契約が取れない。毎日のように「今日は上司になんて言い訳をしよう」と考えている、典型的なダメ社員でした。体育会系のノリも肌に合わなくて、本当につらかったですね。

入社して7年経っても、同じ状態が続いていました。7カ月連続で契約が取れなかったときは自分の家を建てました。お客さまに売れないのなら、自分が買うしかない。でも家を建てるのは、普通は人生で1度きりでしょう。最後のカードを切るつもりで家を建てました。それでも、その年の年間契約は自分の家を含めてわずか3棟でした。


■ダメ社員をトップセールスパーソンに変えた「手紙」営業

――そんな厳しい状況から、どうやってMVPを獲得するトップセールスパーソンへと変貌を遂げたのでしょう。

自分が建てる家のことを考えながら社内用資料を読んでいたときに、「お客さまから寄せられた“失敗例”」が目に入ってきたんです。「なるほど、家を建てるときにこういう失敗があるんだな」という具体例が多く紹介されていて、家を建てる立場になって読んでみると、とても参考になりました。それでふと「この情報をお客さまに提供したら喜ばれるのでは?」と、ひらめいたんです。

そこで「失敗例」を「お役立ち情報」という手紙に作り替えて、お客さまに配ることにしました。テストマーケティングのつもりで、90件は訪問して直接手渡し、90件を郵送して反応を試してみたところ、意外にも郵送したお客さまからのみレスポンスが来たんです。「訪問グセをつけろ」と上司から教わってきた自分には驚きの結果でしたし、営業観が180度変わりました。

訪問しても会ってもらえない、電話にも出てもらえない、メールだって未開封で削除されたら意味がない。でも手紙なら、確実にお客さまのもとに届く。それなら一瞬でも目に入ったときに「読んでみようかな」と思ってもらえるような工夫を施せばいい。合理的に考えてみると手紙というツールは実はすごく「強い」んですね。そのことに初めて気付いたんです。

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菊原さんをトップセールスパーソンに押し上げた最強ツール、「営業レター」とはがきのサンプル


■手紙は1行目が勝負。文章マナーは無視していい

――そこから営業スタイルも「手紙」ベースにシフトしていったのでしょうか。

はい。売り込み訪問をきっぱりとやめ、「営業レター」と自分で名付けたお役立ち情報をシリーズ化して郵送し、年賀状や暑中見舞いも、顔写真や手書きの文章を添えて送る方法に変えました。

「営業レター」のポイントは、まず相手が必要とする情報を届けること。そして「営業レター」や年賀状、暑中見舞いなどに必ず「菊原智明はこんな人間です」といったような、自己紹介を盛り込むことです。

何度も手紙やはがきを送り続けているうちに、「手紙は1行目が勝負」だと気付きました。冒頭が「お世話になっております。○○ホームの菊原です」ですと、お客さまはその先を読んではくれません。ところが、「最近子どもが懐いてきてうれしい菊原です」「○○中学出身の菊原です」といったように、自分の人となりや近況を知ってもらう一言から始めるようにしたところ、お客さまからの反応が格段に良くなったんです。

それ以来、一度お会いしたお客さまに送る1通目は、必ずはがきにしています。年賀状や暑中見舞いも含め、はがきは裏返すと必ず内容が目に入りますから、そこに顔写真と手書きのあいさつ文を添えておくことが、ビジネスを成功させるためのコツだと思っています。お客さまからの信頼を得るためには、まずは自分を知ってもらうことが重要ですから。

お役立ち情報などの資料をお送りするのは2通目以降、透明封筒に入れて郵送します。なぜ透明封筒かというと、開封しなくても何の資料が入っているのかが分かるからです。これも読んでもらうためのちょっとした工夫ですね。そんなふうにして毎月50〜100通、年間通じて最大で約1200通の「営業レター」や年賀状、暑中見舞いを送り続けました。

手紙やはがきを通じてお客さまと信頼関係を築き、役立つ情報を紹介する。ときにはお客さまが家を購入するに当たって心配になったり心変わりしたりすることがないよう、手紙やはがきでモチベーションを上げ、不安を解消する。この営業スタイルに変えた結果、自分でも驚くほど売り上げが伸びました。私の所属していた営業所が年間で契約した40棟のうち、約半数の21棟は自分が取った契約だったという年もあります。年に2棟しか売れなかった時代と比べたら、約10倍の伸び率。周囲も驚いていました。

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「モノとして形がある手紙やはがきは、ビジネスにとって大きなメリットがあります。使った人は勝ち組です」と語る菊原さん


■デジタル通信が過密状態な今、手紙やはがきは最高のセールスパーソンになる

――相手のもとへ「形あるモノ」が確実に届く。そんなアナログの通信手段を活用することがビジネスに活きてきたのですね。

セールスパーソンが10人いても、そのうちの9人は手紙に勝てません。類まれな営業センスを持つよほどの天才でもない限り、営業というジャンルに関して言えば、人は手紙やはがきに勝てない。私はそう思っています。

今はメールが過密状態ですよね。誰もが使うようになった分、メールでのアプローチは数が多すぎて埋もれてしまいます。だからといって飛び込み営業は迷惑なだけですし。

ですが手紙やはがきなら、相手のもとへ「形あるモノ」として確実に届きます。そして、一手間かけることでその手紙やはがきの中に「人」を感じさせることができます。その「人」を届けることで、他と差が付けられるんです。

時候のごあいさつもそうですよね。年賀状や暑中見舞い、残暑見舞いを送れば、受け取った相手は捨てられないものです。

販売促進や顧客獲得の悩みを抱えているセールスパーソンの方には、「形あるモノ」が「相手に確実に届く」というアナログならではのメリットを最大限に活用してみることをお勧めします。

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「はがきや手紙は、コストが少なく無駄もない、良い営業をしてくれる」と菊原さん

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「手紙やはがきなどのアナログツールは、ビジネスで勝つための最強の武器」と強調する菊原さん。警戒心の強い顧客の心をつかみ、コミュニケーションを深める唯一無二のアナログツールを使いこなせるビジネスパーソンこそが、厳しい生存競争を生き残れるとも言える。

時候のごあいさつはコミュニケーションの入り口。この夏は、暑中見舞いのはがきを送ってみるのもいいだろう。

菊原 智明(きくはら・ともあき)

元大手ハウスメーカー 4年連続トップ営業マン 「訪問しないで売る営業に変わる本」著者
見込み客へのアプローチから契約・受注までを手紙中心で仕掛ける手法を伝授。営業マンが売り込みに訪問するのではなく、お客さまから呼ばれて訪問することに売る秘訣を見出す。
アプローチ・レスポンス・クロージングの3段階で送る手紙営業で、送ったお客さまのうち9割の成約率を誇る営業法を構築。

独立後は、住宅業界に限らず、税理士事務所、病院、保険、健康器具、着物・・・様々な業界で「営業レター」の効果を実証。会社全体で導入するための運営・管理の指導に東奔西走している。

菊原智明公式HP
http://www.tuki1.net/

(取材・文:阿部花恵 / 撮影:川しまゆうこ)